(14)
イベントの最後の握手会の時には……すっかり気分も晴れていた。
あいつらが、俺をストーカーで訴えた時には、親友で心友で真友の中島に罪を押し付けるプランは5割方練り終えていた。
「池田くん、中島くん、来てくれてありがとう。でも、学校のみんなには秘密にしといてね♥」
「バレてるに決ってるでしょ……」
明るく爽やかな府川さんの声。そして……無粋にも程が有るツッコミを入れる土屋。
「秘密って……お前らが関東難民だって事か?」
凍り付いた……。
中島のその一言で、周囲が……。
「どうしたの? 握手……」
へっ?
何故か、俺の次の奴だけ……脳天気な……何だ、こいつは?
声と体格からすると……女……。俺達と同じ位の年齢の……。
着てるのは……迷彩模様のパーカー。同じ柄のカーゴパンツ。妙にゴツいハーフブーツ。顔はパーカーのフードで見えない。
ただし……頭のテッペンからタテガミのようなモノが生えている、変ってるどころじゃない何からツッコミ入れたらいいかさえ判んないよ〜な奇妙奇天烈なパーカーだ。
そして、タテガミは……背中と尻尾にも生え……えっ? 尻尾ぉッ?
「あ……か……かわいいパーカーですね……」
「そう……タル坊の……」
ボソリとつぶやくような声。
何を言ってるんだ?……と思って良く見ると……フードの部分が、俺が幼稚園か小学校低学年の頃の子供向けアニメに出て来たティラノサウルスっぽいけど妙に気が弱そうな恐竜の顔になっている……。ああ……たしか、そんな名前の恐竜が出て来た気が……。
そして……。
妙に長い握手。
しかし……。
何故か、その恐竜コスの女は首を傾げる。
続いて、その変な女は……土屋と握手し……。
えっ?
今度は、土屋の表情が……あからさまに変る。何が起きたのかは判らないが……「えっ?」って感じになり……。
謎の恐竜コスの女が去って行くと……土屋がスタッフに声をかけ……。
何なんだよ、一体?
府川さんと土屋のマネージャーと……そして、「セブン・オブ・ヘブン」のマネージャーらしい……小柄な男が、血相変えて……。
「おい、中島、追うぞ」
「何で?」
「府川さん達に恩を売れるかも知れないぞ」
「だから、何で、そんな事をする必要が有るんだ?」
「だから、府川さん達にとっての恩人になれば……」
「俺のプランの方が現実的だ」
「ハリウッド映画だったら、必ずプランBを用意しとくモノだろッ‼」
「映画と現実を一緒にするな……」
「お前は、エロゲーと現実を一緒にしてるだろうがッ‼」
「エロゲーに出て来るモノはハリウッド映画よりリアル度が遥かに高い。一緒にするのは阿呆のやる事だ」
「ともかく、万が一の為にプランBを……」
「お前のプランは現実的じゃない」
「どうして?」
「お前のプランを採用すると、これから、頭使わなきゃいけなさそうだ。同じやるなら、頭使わなくてもいいプランの方が現実的だ」
「前から訊きたかったんだけど……」
「何だ?」
「お前の言う『現実的』って、そもそも、ど〜ゆ〜意味だッ?」