(9)
「あ……あんさぁ……」
パジャマの上から革ジャンと言う、どうやら、慌てて出て来たのが、ほぼ確実な格好の……一番ゴツい熊みたいな体格の丸坊主の男が、困ったような口調で、そう言った。
「こんアパートは、ウチの会社が社員寮として借り切っとってね、部外者は立入禁止やけん……」
「えっ?」
「君らさ、ここに住んどる誰かの親類か何かね?」
「あ……え……えっと……その……」
主犯の中島は、完全に怯えきり、テンパりまくってる声。
「あ……あの……同級生が、ここに入ってくのを見掛け……」
「ウチの社員たい」
「でも……学生……」
「ウチの会社、芸能関係でね。学生さんやけど、ウチの会社に所属しとるタレントたい」
「やりたかねえよ……もう……」
「おい、迂闊な事言うな」
アパートから出て来た男達の内、残り2人が、何かボヤいている。
ゴッツい体格に、ヤクザみたいな顔なのに……全員、困惑したような表情を浮かべている。
「早く帰らせて。ウチの叔母さんにバレない内に。何か有ったら、面倒事は、全部、あたしに押し付けられんだよ。判ってる?」
2階から、女の声。
多分……府川さんと土屋と一緒に居た女だろう。
「あ……あの……じゃあ、僕も帰った方が良いですか?」
「だ……誰?」
突然、別の声がする。
声のする方を見ると……。
イケメンの男。
二十代ぐらいか……。
でも……何か……担任の福田に感じとか雰囲気が似てる。背も高めで、結構、ガッシリした体格だけど、何か漂うビミョ〜な気の弱さとか……。
イケメンだけど……もし、役者だったら、ドジな奴とか、ギャグ・キャラの役しかもらえそうにない……そんな感じの奴だ。
しかも、髪はボサボサで、口の周りには無精髭。靴はボロボロ、ズボンは秋物か春物にしか見えない薄手のモノで、カーキ色のコートも結構汚れてる。
「え……えっと、身分証が、これ位しか無くて……その……」
「ちょっと、見せてみんね……えっ? Q大の学生さん?」
「は……はい……」
「あの……俺も見ていいですか……?」
「ああ、どうぞ」
断わられるかと思ったのに、あっさり、OK。
学生証だ……九州で一番偏差値が高い大学の……大学院? えっと……工学部の……材料工学?
そして……名前は……府川拓海……えっ? 府川?
「あ……あの……一〇年前に行方不明になった従姉妹と同姓同名で、ほぼ同じ年齢の子が、ここの芸能事務所のタレントみたいで……」
「あ……えっと……行方不明って……?」
「その……富士の噴火の時に……」