9.受け入れがたい真実
皆がこの三つの言葉を見た後、顔色が驚愕に変わった。
「私は『嘘つき』を引き当てた。」夏彦はゆっくりと話した。「しかし、このカードをめくるかどうかは関係ない。なぜなら、全く重要ではないからだ。」
彼はカードを持ち上げ、無造作にテーブルの中央に投げた。
「私が間違っていなければ、皆が持っているカードも『嘘つき』だ。」
皆はこの言葉を聞いて動かなかった。しばらくして、警官が口を開いた。「つまり……みんなが言ったことは嘘だと言いたいのか？」
「その通り。」夏彦は頷いた。「皆は私が想像していたよりも賢い。あなたたちは各自の物語に小さな嘘を加え、物語の論理には影響を与えずに完全に成立させている。」
警官はしばらく考え込み、何かを思いついたようだった。
「もしあなたの言うことが正しいなら……問題はさらに厄介だ。」警官は意味深なため息をついた。
皆は警官を見つめ、何が起こっているのか理解できなかった。
警官は続けて言った。「ルールに従えば、私たち全員が『嘘つき』を選ばないと、一緒に生き残ることはできない。しかし、そうなると嘘つきが負けることになる。だから、私たちは……」
医者が最初に警官の意図を理解した。「つまり……自由に投票できるということですか？皆が嘘をついているから、これは『必勝のゲーム』になり、投票された人だけが死ぬ？」
「その通り。」警官は頷いた。「今最も良い戦略は、全ての票を一人に集中させることだ。そうすれば損失を最小限に抑えられる。結局、残った人々が生き残るから……」
彼のこの言葉は再び皆の雰囲気を抑圧したが、山羊頭は何の動きも見せなかった。
つまり、彼らはただ一人を死なせるために投票しているのか？
夏彦はため息をつき、警官に言った。「警官、他の人の話を遮るのが好きなのか？それがあなたに達成感を与えるのか？」
「何を言っているんだ？」警官は眉をひそめて答えた。「私はあなたのために考えているのだが？」
「私はあなたの助けが必要ない。」夏彦は即座に言った。「あなたの考えは皆を死なせることになる。」
「何だと？」警官は驚いた。「私がどうして皆を死なせることになる？私の言っていることが間違っているのか？もし皆が嘘をついているなら、投票はいつでも成立するのではないか？」
「警官、山羊頭は言った。「ルールは絶対的だ」「唯一の嘘つきがいる」と、あなたは覚えているか？」
「それは……」警官は少し考え込み、山羊頭が確かにその二つの言葉を言ったことを思い出した。
「皆に整理してあげよう。」夏彦は冷たく言った。「このゲームでは、どうやら『嘘つき』の勝ち目が大きいように見える。皆が勝つと思っている。しかし、もし自由に投票すれば、最後に死ぬのは私たち全員だ。」
夏彦の隣に座っている直樹は自分の花柄の腕を撫でながら、独り言を言った。「つまり、私たちは『ルール』を破壊してしまった……」
「その通り。」夏彦は頷いた。「でも、このゲームの面白いところは、私たちが他の人が嘘をついているかどうかを全く推測できないことだ。弁護士が言ったように、私たちは各自の経験が矛盾しているかどうかに頼るしかない。しかし、私たちは同じ地域の人間ではない。たとえ出来事がどれだけ矛盾していても、相手が嘘をついていることを100%証明することはできない。」
夏彦は考え込んでいる皆を見渡し、さらに言った。「『主催者』はわざわざ私たち九人をここに選んで座らせた。必ず目的がある。その目的は、私たちが互いに関連しているように見える物語の中から、自信過剰で欠陥を見つけることだ。」
「しかし、本当にそうなのか？私たちには相手が確実に嘘をついていると知る確信があるのか？」夏彦は冷笑した。「このゲームで私たちが既知の手がかりから100%確認できる『嘘つき』はただ一人だけだ。彼が言うことは、私たちの現在の状況とは完全に異なる。」
夏彦はペンを取り、紙に「人羊」という文字を書いた。
「以前から疑問に思っていたのは、なぜ山羊頭が最初に『人羊』という奇妙な名前を紹介したのか。それは無駄なことに見えた。しかし、今考えると、これもゲームの一部だ。」
皆はゆっくりと「人羊」を振り返った。彼は依然として何の動きも見せなかった。
警官は一瞬驚いた後、頭を振った。「詐欺師、私は疑問がある。山羊頭が言ったルールは『物語を語る者の中に唯一の嘘つきがいる』だが、彼は物語を語っていないではないか。」
「ないのか？」夏彦は答えを曖昧にしながら肩をすくめた。「山羊頭が私たちをここに集めたのは『神』を創造するためだと、はっきりと言ったことを覚えている。これはまったく常識外れな物語ではないか？」
警官は黙って頭を下げた。彼は夏彦の言っていることに非常に説得力があると感じたが、どこかおかしいと感じた。
「しかし……」医者が口を開いた。「あなたのすべての仮定は『皆が嘘をついている』という前提の上に成り立っている。しかし、なぜ私たちが嘘をついていると断定できるのか？もし私たちがカードをめくったとき、あなた一人だけが『嘘つき』だったらどうなるのか？」
「皆さんは真実を言っているはずがない。」夏彦は苦笑し、少し絶望的な表情を浮かべた。「私もこの問題を検証するのに時間をかけました。皆さんが嘘をついているだけでなく、どこで嘘をついているかもわかっています。」
彼は自分の草稿用紙を前に押し出し、隣にいる甜甜を見た。「玲美奈。あなたはその時車の中で『作業』をしていて、頭を外に伸ばしたときに落ちた看板が本当に車にぶつかって意識を失ったのか？」
玲は唇を噛み、言葉を発することができなかった。
「直樹、そんな高いところから看板に落ちて、ただ『意識を失った』だけなのか？」
直樹は沈黙した。
「青木先生、あなたはその子供を連れて、あの急に来た車を本当に避けたのか？」
青木の目はちらちらと動いた。
「医者、脳神経手術室は環境を安定させるために多くが地下に建てられているのに、『天井が崩れた』と言ったが、地下室の天井が崩れるとはどういうことだ？」
赵医者は頭を横に振った。
「市川秋人、あなたは何が起こったのかわからないと言ったが、集中して書いているときに邪魔されることが最も嫌だ。自分がどうやってここに来たかわからないのか？」
市川秋人は小さくため息をついた。
「弁護士、あなたの車は亀裂にぶつけられた。その亀裂はどれくらい深いのか？」
弁護士は腕を組み、無表情でいた。
「警官、あなたはどの車のブランドを運転している？瞬時に座席を倒して、後ろの人の束縛から逃れられるのか？」
警官は首の赤い痕を触り、言おうとしてやめた。
「林、あなたの天井も崩れたが、あなたは自分のスタジオが高層にあると言った。高層が崩れ始めると、建物全体が存在しなくなるのではないか？」
林は深く頭を下げた。
夏彦は皆の表情を見て、歯を食いしばりながら言った。
「皆さん、認めましょう。私を含め、私たち全員はすでに死んでいます。」
