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1.ある日森の中で

 ()()()、最後に見えたものは。


 澄み渡った青空と。


 風に揺れる木々の緑と。


 赤と灰。


 そして鈍く光る銀の――――






「っっっ!!!」


 ガタンッ。自分が動いたことで出た大きな物音で目が覚めた。目の前にはやりかけの書類と、蓋の開いたままのインク壺。


「……夢、か…………」


 どうやら、書類仕事の途中で寝てしまっていたらしい。目が覚めた原因は腕を伸ばしたことにより、書類を押さえるために置いておいた重めの置物を倒したからのようだ。

 横になって倒れている狼の形を(かたど)った黒曜石の置物を元の位置に戻す。


 椅子に座った状態で寝落ちたせいで、背中を伸ばすとパキパキと小気味良く骨が鳴った。首を回せば一際大きな音が鳴り、思わず顔を(しか)める。チャリ、と耳についたピアスも音を立てた。

 書類にシワが付いていないか、インクはこぼれていないかを確認し、何も無いことにほっと息をつく。


 窓の外を見るが、まだ空は白み始めたばかり。静まり返っている中で、微かに風が木の葉を揺らす音が聞こえる。


 ……丁度いい。目を覚ますためにも、朝風呂をするか。

 そう思い、部屋を出るべくドアを開け


「ア〜ハッハッハッハ!」


 そっと閉めた。

 疲れていたのだろう。廊下を物凄い速さで高笑いしながら飛ぶ鳥が居たなど、疲れが見せた幻覚だ。

 そう自分を納得させ、再びドアを開ける。今度は当然、何も居なかった。


 住んでいる、街の中心に位置する館の執務室を出て、一階に降りる。廊下の突き当りのドアを開ければ、そこには広めの浴場がある。

 脱衣場で身に着けていた服やアクセサリー類を外し、纏めて収納した。

 本来ならば湯に入るが、今朝は水だけ浴びる。朝特有のピシッとした空気が水に濡れた肌を撫で、去っていった。

 ゆるくカールを帯びた髪と、尻尾の毛がぺしょりと身体に張り付いた。



 私は獣人だ。名をラノス・カリヴィア。蒼の瞳と蒼銀の髪を持っている。狼獣人の父と兎獣人の母をもつが、私は狼と狐を足して2で割ったような耳と尻尾をしている。つまり、狼と言うには尻尾が大きい。しかも普通よりも毛が長くふわふわしている。自分でもたまに触るが、手入れを(おこた)らずしっかりケアしているから、うっかり時間を忘れてしまったことがあった。もふもふの魅力、恐るべし……


 ちなみに、前世持ちでもある。いわゆる転生者。前世は日本の女子大生だった。享年20歳。動物好きで、獣医志望。


 前世はあまりパッとしない平凡顔だったが、今生は美形の両親の血を継いで、それなりに美人である。基本的に獣人は美形が多い種族だ。その中でも父と母はさらに群を抜いて美人だった。――娘の私はそうでもないが。



 一通り身体を洗い終わり、ポタポタと水滴が滴る髪を絞る。あと、尻尾も。粗方絞れたら、温風を起こして身体を乾かした。仕上げに冷風で艶出し。うん、いい感じだ。

 ふわふわの尻尾に手が埋まり、その感触に顔が緩む。


 脱衣所で服を着ていると、わあああっ! という悲鳴とともに何かが滑り込んできた。灰色の、毛玉……


「……何しているんだ、オニュク」

「うぅ〜ん……」


 毛玉……もとい、狼獣人のオニュクは私を見つけ、ニコリと笑った。


「おはよう、ラノス〜。今日はお風呂入ってたの?」

「あぁ。それで? 一体何をしたら髪と毛にそんなに枝、砂、葉を巻き込んで鳥の巣のようになるんだ?」

「あ〜えっとね。昨日種類がわからない鳥を保護したでしょ? その子が逃げ出しちゃって、追いかけっこしてたの」

「……」

「カウリオと一緒に」

「…………」


 何してるんだお前らは。


 カウリオというのは、オニュクの双子の片割れだ。オニュクが女、カウリオは男。昔拾って私が名付けた。最初はボロボロだったが、今ではかなり手練れの戦士だ。


「はぁ。追いかけっこをするのは良いが、あまり汚してくれるな。お前についていた汚れが廊下に落ちているぞ……」

「えっ嘘!?」

「ほら」


 廊下に敷かれたカーペットの上に点々と続く葉や枝や泥の足跡(みち)……掃除担当の者が悲鳴を上げることになりそうだ……

 そう思った瞬間、遠くからああ~っ! という悲鳴が聞こえてきた。ピクリと耳を動かし、声を拾ったオニュクはそろりそろりと逃げようとする。しかし、声の主がこちらに向かってくるほうが早い。部屋から出ようとした瞬間、伸びてきた手に首根っこを掴まれていた。

 次いで、ぬうっと顔が覗く。表情は笑みの形を作っているが、その額に青筋が幻視できる。オニュクは顔を引き攣らせていた。


「あ、えぇと、お早う、アルル……今日も格好良いわね……」

「えぇ、お早うございます、オニュク。褒め言葉は有り難いのですが、はぐらかそうとはしないでくださいね」

「…………ハイ……」

「お早うございます、ラノス様。申し訳ないのですが、オニュクをお借りしてもよろしいですか?」

「ああ、構わない。……ほどほどにしておいてくれ」

「ありがとうございます。善処いたします。……オニュク、こちらへ」

「ピッ!」


 逃げようとしたオニュクに正座をさせ、懇懇と説教をしているのは、彼女の恋人でもあり、館の執事長でもアルルである。兎獣人の彼は柔らかな栗色の髪と桜色の瞳を持つが、優しそうな印象そのままの人物である。キレると大変怖いが。笑顔のまま、敬語のまま、一言一言丁寧に『して良いこととそうでないこと』について説かれる。

 さらに、どうしてしてはならないか、なぜしたのかを逃がしませんよと目の奥が笑っていない笑みで問い詰めてくるのだから、彼に怒られた者は例外なく暫く大人しくなる。


 現在進行系でそれをされているオニュクを眺めながらアクセサリーを身につける。すべて金で、リングピアスと虹色を閉じ込めたような色彩の珠が揺れるピアスに、2つの指輪が通されたチェーンネックレス。どちらも私の大切なものだ。


 説教により段々と縮こまってゆくオニュク。まだ3分も経っていないんだがな。


 ……そろそろ来るか。

 そう思ったところに、耳にズルズルと何か重いものを引きずる音が届いた。


「アルル、少し良いですか?」

「ベルル。どうしたんです?」


 アルルと瓜二つの顔の兎獣人がヒョコリと現れた。手には案の定カウリオの襟首を掴んでいる。


「アルルが先ほど悲鳴を上げた原因のもう片方を捕まえてきました」

「ありがとうございます、ベルル」


 ベルルはアルトの双子の妹であり、館の侍女長をしている。そして、カウリオの恋人でもある。



 アルルとベルルは非常に良く似ている。顔つきはもちろん、髪や瞳の色も。違うとすれば、耳の形と髪型だろう。

 アルルは左側の、ベルルは右側の兎耳が根元から折れ曲がり、同じ方の目を前髪で隠している。


 耳は幼い頃に事故で折れたまま癒着してしまい、治らなくなってしまった。

 瞳の本来の色は桜色だが、同じく事故で失った為、薄青の義眼をはめ込んでいる。義眼をはめることを提案したとき、私は元の瞳の色と同じようにすることも出来るも伝えたが、彼らは薄青がいいと言ったので、その色になった。……好きな色なのだろうか?



「お早うございます、ラノス様。朝のご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。それと……物置で居眠りをしていた侵入者も捕まえてきました」

「クェェ……」


 ぽんと渡された鳥籠の中には昨日保護した種族不明の鳥が、気絶していた。

 ……気の所為だろうか。さっき、廊下で遭遇した“物凄い速さで高笑いしながら飛ぶ鳥”のように見える。


「どうやら館に迷い込んだ後、館中を飛び回っており、疲れたようで、物置にあった羽毛の上で丸くなっていました」


 ……どうやら同一鳥物(?)らしい。軽くつついてみるが、起きる気配はない。

 どうしたものか。また逃げられて、館の中を飛び回られても困るしな。よし。


「ベルル、この鳥は専門家に預けることにする。逃さないように、普段は異空間にでも入れておいてくれ」

「かしこまりました」


 鳥籠をベルルに返し、脱衣所を出る。後ろから「アッまってラノス行かないでッ!!」と聞こえたような気がしたが、気のせいだろう。うん、きっとそうだ。

 悪いが、私は怒れる獅子()の前に丸腰で出たくはない。


 館を出ると、空はもう暁の色に染まっている。目を眇めながら、朝日に照らされる街を眺めた。





 ここはサナト大森林の中心に位置する街、ラーイ。カリヴィア連邦国の首都だ。

 国名からわかる通り、私が王をしている国である。


 多種多様な種族が、人間至上主義のこの世界で、人間に脅かされることなく生きていける場所を。


 実際、この街にいるのは虐げられ、逃げてきたものが殆どだ。身体に、心に消えぬ傷を負い、死すら渇望した者だっている。そんな彼らがもう一度生きたいと思えるように、人間が入ってくることのない場所に街を作った。

 外部から害を及ぼすものが入ってこないよう、街の中やその周辺の地域だけで自給自足が出来るよう、前世の知識もフル活用し、設備を整えた。


 もともとはただの集落程度の規模だったが、気付けば集落と呼ぶには人数が多く、初期は数十人程だった住民の数は今や数千人。小さな国家の出来上がりである。

 そしていつの間にか、私が王ということになっていた。何故だ。

 何故私なんかを選んだのか訊いたところ、「え、だってラノスが一番強いじゃん」という返答が狼の双子から返ってきた。それにウンウンと頷く兎の双子。拒否権はないのか……? と当時8歳の私は遠い目をした記憶がある。ちなみに狼と兎の双子は恐らく私より一つ上の年だ。

 自然で生きる者たちは皆、実力主義なところがあるが、それで良いのか……?





「おはようございます、ラノス様」

「ああ、おはよう」


 ぼうっとしていると、近くの家から出てきた熊獣人の女性が声をかけてきた。彼女の足元には幼い子供がひっつき、こちらをじっと見ている。


「ほら、ご挨拶するために早起きしたのでしょう? モジモジしてないで、挨拶なさい」

「う……ん、ラノスしゃま、おはよーござーます」

「うん、おはよう。朝ちゃんと起きれて、偉いな」

「うん、えへへ……」


 おずおずと出てきて、年齢のせいか、寝起きのせいか、舌っ足らずな男の子の頭を撫でる。

 ………可愛い。物凄く可愛い。幼い子供特有のふくふくとしたほっぺたに、柔らかい髪。極めつけは、頭の上でピルピル動く熊耳! 上目遣いがさらに可愛いっ!


「良い子にはご褒美をやらなくてはな。蜂蜜は好きか?」

「! しゅきっ!」

「じゃあ、ほら。蜂蜜の飴だ」

「わぁー、ありがとう、ラノスしゃま!」


 男の子は嬉しそうに母親のもとに走って、みてみて、もらった! と嬉しげにしている。母親のほうも、良かったわねと子供の頭を撫でていた。


「ラノス様、ありがとうございます。蜂蜜は、貴重ですのに」

「蜂蜜は健康に良いからな。私が持つよりも、子供の体調が悪くならないようあげるほうが有効活用になるだろう? それに皆が元気でいてくれれば、私はそのほうが嬉しい」

「……っ、先日も、今日も……本当に、ありがとうございます……っ!」


 深々と頭を下げる母親のスカートの裾を掴み、子供は不思議そうな表情をしている。ポタポタ落ちた雫が子供の頬を濡らして、地面に落ちた。


「……そういえば、使わないハンカチを持っていたんだった。よかったらもらってくれ」

「は、い……ありがとう、ございます……」


 真っ白なハンカチを取り出し、女性に渡してから、その場を去る。

 ……いけないな。泣かせてしまった。笑っていてほしいというのに、上手くいかないな。


 彼女は五年前に助けた獣人だ。最初はびくびくと怯えが酷かったが、時間が経つごとにそれも収まり、この街で出会った男性と結婚し、子供を産んだ。

 その子供がつい先日病に侵されてしまい、私が治してたため、とても感謝を伝えてくれていた。



 彼女だけではない。私は幸運なことに、街の住民に好かれている。


「ラノス様、おはようございます。今日も良い天気ですね」

「ラノス様、おはようございます! 美味しいパンを焼いたんですけど、いくつか持って行ってください!」

「ラノス様、ウチの林檎も持ってってください!」


 街の中で店が集まっている区画に足を踏み入れれば、店の品出しを始めた者たちがこぞって店の商品をくれる。ほかほかの出来立てパンに、ツヤツヤとした真っ赤な林檎。さらには色とりどりの花まで、抱えきれないほどだ。


「ありがとう。花は執務室に飾らせてもらおう。パンと林檎は朝食にいただくよ」


 花束は《異空間収納》へ一旦仕舞う。パンや林檎が入っている紙袋は片手に抱え、もう片方の手で駆け寄ってきてくれた子供たちの頭を撫でながら、街の外側へ歩いていく。


 着いた先は開拓途中の森。その中の切り株のひとつに座り、朝食を摂るため、紙袋からパンと林檎を取り出す。


「パンは……5つも入っている……ありがたいけど、赤字にならないのか……? 林檎は3つ……」


 どうしてこう住民たちは赤字を厭わず、私なんかにくれるのだろうか。売ったほうが得だというのに。


「まあ、ありがたく頂くとするか」




 朝食を終え、パンくずを強請りに来た小鳥たちとしばし戯れ、ピィピィと鳴くお喋りな小鳥たちの声に耳を傾けた。


『おはよ〜、ラノス様』

『おはよ〜』

「おはよう。今日も異常はないか?」

『ん〜とね、外の世界が荒れてたよ〜』

『奴隷がいなくなった〜って』

『ギラギラつけたオジサンとかオバサンが騒いでた〜』

「ギラギラ……宝石か……」


 人間ならば理解することは不可能な小鳥たちの会話を耳の動かして拾う。

 小鳥たちは普段自由に空を飛び回っているから、森の外の様子を時々教えてもらっている。その対価として、私は餌のパンくずを提供。利害の一致による協力関係である。


『ラノス様は外、行かないの〜?』

『こら、ラノス様、つい二日前、外に出てたよ』

『そ〜そ〜。ラノス様、ちゃんと外出てる』


 小鳥の中で、特にお喋りな3羽が私の膝の上で円になって談笑していた。街の子供達のようなやり取りに思わず笑みがこぼれる。


『あ、ラノス様笑った〜?』

『笑った〜!』

『ニコニコ〜!』


 パタパタと小さな羽で腕をはたいてくるので、お返しとばかりに(くちばし)を突っつく。キャーと声を上げる彼らの小さな身体を魔法で浮かべた。


「ほら、そろそろいい時間だ。今日も元気に行ってこい」

『はーい!』


 さて。私も出かけるか。


 《異空間収納》からフード付きのローブを取り出し、羽織る。

 次いで、転移魔法を発動させた。



 転移魔法で翔んだ先は、先程と変わらない、木木が鬱蒼と茂っている森の中。本来ならば人気など皆無なはずだが、今日は何やら気配を感じた。

 獣の唸り声と、微かに残る魔力の残滓、鼻につく鉄錆の匂い。誰かが戦闘をしている?

 足早に唸り声のする方へ走る。唸り声から察するに、相手は大熊(ビッグベア)だろう。縄張りに足を踏み入れてしまったせいで威嚇されているといったところか。


 辿り着いた先では、予想通り大熊(ビッグベア)とフードを被った人物が相対していた。


「グオォォ!!」

「ッ!!」


 睨み合いに痺れを切らした大熊(ビッグベア)がフードへ飛びかかる。

 その前足がフードにかかる直前


「ヴォン!」


 喉に魔力を込めて一声吠えた。両者の視線が一斉にこちらに向いた途端、フードがギョッとしたのがわかる。

 おおよそ人の声帯からは出ないであろう吠え声に驚いたのだろう。大熊(ビッグベア)のほうはジリジリと後ずさっている。

 しかし、まだ()る気が残っているのか、低く喉の奥から唸り声が漏れている。


「グゥゥゥ……」

「去れ。それとも、死にたいか?」

「…………」

「あっ!?」


 問いかけに大熊(ビッグベア)が背を向け走り去った。

 声を上げたフードの人物の腕からぽたりと赤が垂れ落ちる。


「……大丈夫か?」

「ええと、大丈夫です……助けていただいてありがとうございます」


 ……育ちがいいのだろうか。ちょっとした動作にも優雅さが滲み出ている。声からして男、17歳ぐらいか……?

 ペコリと頭を下げたフードの人物がフードに手をかけた。


「……別に顔を隠したままでも大丈夫だぞ」

「いえ、命の恩人に顔を隠したままでは礼儀に反しますので。改めて、助けていただいてありがとうございます。僕はヒューレといいます」

「―――っ!?」


 ヒューレの顔を見た瞬間、身体の芯に電撃が走ったかのような衝撃を受けた。

 少々幼いが、人間とは思えないほど整っている顔。陽の光を浴びで輝く金髪に、エメラルドのような緑眼。白磁の如き肌も相まって、動く彫刻と言われても納得できそうだ。


「あの……?」

「……すなまい、少し考え事をしていた。そちらが顔を見せたのならば、こちらも見せるのが筋だな」


 フードを下ろせば、押し込められていた獣耳がひょこと出た。


「私はラノス。見ての通り、獣人だ」

「え、獣人……?」


 ピルピルと動く耳を目にした彼の目が丸くなる。


 ――人間の多くは獣人など、人間以外の要素が混ざっている種族を嫌う傾向にある。貴族などはそれが特に強い。

 ヒューレも恐らく貴族であり、それも高い地位にいると予想できる。他の人間のように嫌悪感で顔を歪めるのだろうか、と思った瞬間。


「え、本物……!?」

「ぇ?」


 思い切りキラキラした目を向けられ、困惑する。ヒューレの視線が私の頭頂部付近に固定され、試しに耳を動かせば、ゆらりと横にずれた。


「……あ、ごめんなさい。僕、獣人とかにすごく興味を持ってて。でも、僕の周りには居ないから」

「そう、か……」


 どう反応していいか分からない。このような純粋な目を向けるのは農村の幼子くらいだ。稀に変わり者な人間もいるが。


「あっ、ジロジロ見るのは失礼ですよね。すみません」

「ああいや、すまない。そんな反応をされるとは思わなくてな。驚いていただけだ」


 あまりにもじっと見つめてくるため、少々気まずくなり、横を向く。するとすうっと視線が下に落ちた。――尻尾のあたりに。

 試しにこちらも揺らしてみれば、視線も左右に揺れる。右に左に、振り子のように揺れるそれが面白くしばらく遊んでいたが、ヒューレがハッと我に返ったことで遊びは終わった。


「……面白がるのはやめてください」

「すまない、つい」


 さっきの状態、なんだろう、どこかで見たような……ああ、あれだ。猫が猫じゃらしに(じゃ)れてる姿に似てたんだ。いや、犬も似たようなところがあるしな……ヒューレを動物に例えるとするなら何になるだろう? 犬、猫……いや、小動物系の何かか?


 ……何やらおかしな方に思考が向かっている気がする。

補足

・サナト大森林

 中心に行くにつれて強い魔物、魔獣がうじゃうじゃといる森。基本的に人間は寄り付かない。

・異空間

 異なる世界同士の狭間の空間。

・《異空間収納》

 名前の通り、異空間にモノを収納する魔法。

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