支援魔法しか使えなくても慰み者にはなりません!〜パーティーから追放されたくなければと襲われかけたけれど身体強化が規格外すぎて皆んなが対応出来てなかっただけのようです〜
「ジーゼ。悪いけど君にはこのパーティーから抜けてもらう」
「え…?」
森の中、突然言われた仲間の言葉に声をこぼしたのはジーゼ。
冒険者となるべく活動している16歳の少女だ。
魔物討伐依頼をこなすべく一緒に来ていた3人へ戸惑いながら目を向けた。
「どうして…ですか?」
一緒に行動を共にしてから日も浅くそれ程信頼関係を築けた訳ではないものの、いきなりこんな場所でクビ宣言されるなんて思う筈もない。
「どうしてだって?」
ジーゼの質問に呆れたように溜息を吐いたのは、リーダー的立ち位置にいる細身の剣士キリアン。
赤っぽい茶色の短髪を掻きながら答える。
「そんなの、君が一番分かってるだろ?君が使えるのは支援魔法だけで攻撃魔法は一切使えない。しかもその支援魔法も、他人への異様な身体強化だけだ」
そのキリアンの言葉に、体格のいい槍使いの青年であるミリアムも続いた。
「そうだぞ!その身体強化のせいでどれだけ酷い目にあったか!走り出した途端に木に衝突して魔物の前でぶっ倒れた時は、本当に死ぬところだったんだからな!」
「う…」
実際に2日程前にあった出来事に、反論できず声を漏らすジーゼ。
普通は身体強化を施せばいつも以上にいい動きが出来て有利になる。
しかし、ジーゼが身体強化を施すと皆んな身体の感覚が狂ってまともに戦えなくなってしまうのだ。
危うく全員病院送りになるところだった。
「戦闘も出来ない上に支援すらまともに出来ない君と、これ以上一緒にパーティーを組み続けるのは無理だ」
「…っ」
至極真っ当な理由に、ジーゼは返す言葉も無い。
そんなジーゼを見て残りのパーティーメンバーである女はニヤリと笑った。
ジーゼと同い年で弓使いである紫髪の少女ヤーラだ。
色気のある仕草で髪を耳に掛ける。
「アタシは最初から彼女をパーティーに入れるのなんて反対だったわ。どうせ仲間に入れるんなら、『陽光の剣士』様みたいな人を入れるべきだったのよ」
陽光の剣士。
それは最近巷で話題になっている冒険者だ。
天流剣というオリジナルの強力な剣技を使い、1人で沢山の魔物を討伐して廻っているという。
陽光と例えられるに相応しい美しい金髪で顔立ちも整っている為、女性からも人気がある。
「おいおいヤーラ。いくらなんでもそんな人と比べるのは酷だろ?」
「えー、でも歳だって同じだって話でしょ?やっぱり比べちゃうわよぉ」
ヤーラの言葉に、ジーゼは手を握り込む。
もっとも過ぎて返す言葉も無かった。
自分の力だけで魔物を倒す彼に対し、他人の力に頼ってる上に碌な支援も出来ない自分。
何故こうも違うのか。
それでも、ジーゼは諦めきれず口を開いた。
「…未熟で、ごめんなさい。でも、頑張ってちゃんとした支援が出来るようになります!だから、もう少しだけ時間をくれませんか?」
「いや、けど…」
「お願いします!」
勢いよく頭を下げて頼むジーゼを見て、3人は顔を見合わせる。
そして…満足そうに口角を上げた。
まるで、その言葉を待っていたかのように。
「仕方が無いなぁ。そこまで言うなら、もう少し付き合ってあげても良い」
キリアンがやれやれといった風に言う。
ジーゼは顔を輝かせた。
「! それじゃあ…」
「ただし」
被せるように、キリアンは言葉を続ける。
「俺達の力と時間を提供するんだ。代わりに、ジーゼがまともに支援魔法を使えるようになるまで俺達の相手もしてもらうよ」
「そうそう。それで公平だろ」
「? 相手…?」
キリアンとミリアムが言う事の意味が分からず、首を傾げるジーゼ。
そこにヤーラが近付き、耳元で囁くように告げた。
「鈍いわね…。つまり、アンタに付き合ってあげるんだから、その分を体で払えって事よ」
ゾッと背中に悪寒が走り、ジーゼは信じられないように3人を見る。
ニヤニヤと笑みを浮かべる姿に足が竦んだ。
「冗談…ですよね?」
呼吸を浅くしながら、何とかヤーラにそう質問する。
ヤーラはハッと馬鹿にするように息を吐いて続けた。
「冗談?寧ろ当然でしょ?何の対価も無しに世話になろうって方が烏滸がましいと思うわ」
「…っ」
同じ女であるヤーラから出た意見に、ジーゼは言葉を詰まらせる。
そもそも、実はキリアン達にこの提案をしたのがヤーラだった。
ヤーラはジーゼの事が気に入らなかったのだ。
しかもその理由は、ジーゼの見目が良いから。
ただそれだけである。
ジーゼは支援魔法しか使えないという欠点があるものの、容姿はとても優れていた。
美しい銀髪に、エメラルドグリーンの瞳が目を惹く綺麗な顔立ち。
身体つきも女らしく、見た目だけなら非の打ち所がない。
ジーゼが現れるまで割とチヤホヤされていたヤーラは、自分の立ち位置を奪われ腹立たしくて仕方なかった。
そして、いっそジーゼをドン底に突き落としてやろうと考えたのだ。
更に、そんなヤーラの提案に簡単に乗ったキリアンとミリアムである。
実は彼らがジーゼをパーティーに入れたのだって、能力どうこうではなくその容姿を見ての下心でだ。
ジーゼの状況は最悪だった。
(この…ままじゃ…)
身の危険を感じたジーゼは後ずさる。
ジーゼに近付く為にキリアンが一歩を踏み出したのを皮切りに、ダッとその場から駆け出した。
「お、逃げた」
「フフ、馬鹿ね。逃げられる訳ないのに」
逃げ出したジーゼを見ても慌てる事なく悠々を後を追う3人。
ジーゼは必死に走りながら唇を噛む。
(どうして…?私は、ただ…冒険者になりたいだけなのに…!)
その目標を掲げた8歳の頃の事が、頭を過ぎっていた。
********
「お父さん!私ね、お父さんみたいな冒険者になりたい!」
突然のジーゼの宣言に、ジーゼの父であるクラウディアは目をパチクリとさせた。
それから嬉しそうに娘の頭を撫でる。
「そうか!ジーゼは父さんみたいになりたいのか!」
「うん!私もね、みんなをいっぱい助けてあげるの!」
「おぉー、偉いぞ!」
父親に褒められて、ジーゼも嬉しさに顔を綻ばせた。
この会話の通りジーゼの父親は冒険者をしていて、住んでいる村の人々の為に魔物退治や捜索活動など色々こなしているのだ。
皆んなから感謝されるその姿を見て、ジーゼは憧れを抱いていた。
そして、自分も冒険者になろうと決めたのである。
とはいえ、この世界において冒険者になるのは難しい事ではない。
そもそも資格や登録などが必要な訳でもないのだ。
言ってしまえば、現在子どもであるジーゼが「私は冒険者です!」と名乗っても構わないのである。
なんなら、他に就ける職業が無いからと仕方なく冒険者として活動している人も多いくらいだ。
けれど、子どもながらにジーゼの中では明確な冒険者の定義が出来ていた。
それは
『自分で自称しているだけの人は本当の冒険者とは言えない。他者から認められるような人こそ、本物の冒険者である。』
というものだ。
日の目を見る事のない冒険者が殆どという中で、それを目指すのはかなり難しいだろう。
それでも、ジーゼが目指すのはそこだった。
だが…そんなジーゼに大きな壁が立ちはだかる。
「私…支援魔法しか使えないの…?」
それは、色々試した結果わかった衝撃的な事実だった。
この世界では全員が魔力を有しており、人それぞれ何かしら使える能力がある。
攻撃魔法を発動できたり物質を変化させたり様々だ。
複数の魔法が使える事だって珍しくない。
だが、ジーゼが使える魔法は身体強化ただ1つ。
しかも自身に施す事は出来ず、他者への強化のみだった。
「…ジーゼ、支援魔法だって素敵な能力よ?それに、冒険者以外にもやりたい事が見つかるかもしれないじゃない。落ち込む事ないわ」
見兼ねた母親がそうジーゼを励ます。
ジーゼは俯いて震えていたが、グッと手を握り顔を上げた。
「…ううん!私は、ぜったい冒険者になりたい!なれるように、いっぱい頑張る!」
尚も前を向くジーゼに、両親は微笑んで頷く。
無理だと諦めさせようとせず、ジーゼの夢を尊重してあげたのだ。
それから、ジーゼは冒険者になるべく今まで以上に励んだ。
しかし、ジーゼの気持ちとは裏腹にその道は更に困難を極めた。
「ジーゼ頼む!武器は持つな!冒険者になっても良いから、武器を使うのはやめてくれ!」
「は…はい…」
クラウディアや村人達に必死になって懇願され、致し方なく了承するジーゼ。
支援魔法しか使えないだけでなく、ジーゼは戦闘センスまでも皆無だったのだ。
様々な武器を試してみたが、下手過ぎてなぜか相手ではなく自身を攻撃してしまう。
クラウディアが助けてなければ、模造の武器で何度怪我したか分からない。
恐らく扱えるようになる前に死んでしまうだろうというレベルで、皆んなから使用を禁止されてしまった。
ならばと体を鍛えてみたが、体質なのか筋肉も付きづらく運動神経も悪すぎた。
素手ですら、戦闘する事は出来なそうなのだ。
そうなると、ジーゼに残された道は1つ。
唯一使える支援魔法である身体強化を、より一層向上させる事くらいしか出来ない。
だがそれは、自分の手で魔物を倒すのを諦めるという事だ。
流石にジーゼもこれには思い悩んだ。
「お父さん…私、魔物を倒せなくても冒険者って言えるのかな…?」
落ち込みながらクラウディアに相談するジーゼ。
クラウディアは少しだけ考えてからゆっくりと答えた。
「…ジーゼ。父さんな、昔魔物との戦いで怪我をして冒険者を辞めようとした事があるんだ」
「え?」
初めて聞く話にジーゼは驚いてクラウディアを見る。
クラウディアは微笑んで続けた。
「そんな父さんを支えてくれたのは母さんだった。沢山励ましてくれて、リハビリにも付き合ってくれて、父さんがまた戦えるようになるまでずっと傍についててくれたんだ。そのお陰で…また冒険者として活動できるようになった」
そう話しながら、クラウディアはジーゼの目を見て質問する。
「ジーゼは、そんな母さんをどう思う?」
問われて、ジーゼは興奮しながら頬を紅潮させて答えた。
「すごいと…思う!お母さんすごい!」
その答えを聞き、クラウディアは満足そうに笑う。
「そうだろう?父さんは、母さんが居なければダメになってた。誰かの支えになるっていうのも凄い事なんだよ。だから、ジーゼの支援魔法も…胸を張れる立派な力だって父さんは思うぞ」
「…!」
クラウディアの言葉は、ジーゼを心の底から勇気づけてくれた。
そしてジーゼは決意したのだ。
支援魔法しか使えなくたって構わない。
その代わり、誰よりも凄い支援を出来るようになろうと。
「ありがとう!お父さん!」
それから、ジーゼは魔力の練り方など自分なりに研究に研究を重ねて身体強化を極めていった。
いや、正確にいうと極めすぎた。
8年経った現在…通常なら3割増しが良い所である身体強化を、なんと30倍にまで引き上げる事に成功してしまったのだ。
しかし、1つ大きな見落としがあった。
ジーゼの魔法の練習相手として付き合っていたクラウディアは少しずつ向上する能力に時間を掛けて対応していた為、その規格外な身体強化にも適応出来ていた。
だからこそジーゼは気付かなかったのだ。
常人がいきなりそのレベルに身体能力を引き上げられてしまった場合、コントロール出来ずまともに動く事が出来なくなるという事に。
支援魔法の向上のみに重点を置いて努力してきたジーゼは、相手の能力に合わせて弱めに身体強化を施すという事もまだ出来ず…結果として役に立たない魔法という扱いをされてしまったのである。
(私…間違ってたの?やっと冒険者になれると思って家を出たのに…直ぐにこんな目に遭うなんて)
追ってくるキリアン達から逃げながら、ジーゼは目に涙を浮かべた。
自分の努力は一体何だったのかと悔しさが込み上げる。
思えば、こんな人気の無い森の中で話を切り出された時点からおかしかったのだ。
きっと初めからこうするつもりで、ここまで来たのだろう。
体力もあまり無いジーゼは既に息が上がり始めていた。
必死に足を動かしてはいるが走るのも遅い。
敢えて直ぐに捕まえずジーゼが疲弊するのを待っていたキリアン達は、そろそろ頃合いかとジーゼの腕を掴んだ。
「はい捕まえた」
「きゃあっ」
掴まれると同時にそのまま押し倒されたジーゼ。
逃げようともがくが、非力なジーゼでは逃れられそうもない。
押さえ込まれた状態のジーゼの横で、不敵に笑いながらヤーラがしゃがんで口を開いた。
「いい加減観念しなさいよ。どうせ、アンタみたいな役立たずじゃ誰も仲間になんかしてくれないわ。自分の力で魔物を倒す事も出来ないんだから、大人しく従って皆んなの力を借りるべきじゃないの?寧ろ、アンタでも出来る事があって良かったじゃない」
「…っ」
自分に出来る事がこれだけだと言われたようで、ジーゼは唇を噛んだ。
でも実際、自分は何も出来ていない。
頑張って懸命に極めた筈の支援魔法すら役立てられていないのだ。
信じたくないけれど、こういう手段しか取れないのかもしれないと心が折れかかってしまう。
だがその時、突然事態は急変した。
《グルァァアア!!》
「「「「!!」」」」
突如響いた凶悪な雄叫びに全員が驚いて顔を向ける。
そして立っている声の主を見て青褪めた。
「な…!オーガ!?嘘だろ、何でこんな森に…!?」
ミリアムが言った通り、現れたのは大型で鬼に似た容姿をしている魔物であるオーガだった。
手練れの冒険者が複数で戦ってやっと倒せるような強い魔物だ。
現在ジーゼ達がいるのは比較的弱い魔物しか出現しない筈の森で、予想外の強敵の出現に動揺が走った。
《グルルルルルル》
ズシンズシンと足音を立てて近付いてくるオーガは、手に持つ棍棒を振りかぶる。
「ヤバい、逃げろ!!」
攻撃モーションを見て慌てて逃げ出すキリアン達。
ジーゼも慌てて体を起こした。
――ブンッ ズガァン!
「あう…っ」
ギリギリで棍棒は避けられたものの、力強く地面を叩いた棍棒からの風圧で飛ばされて近くの木に衝突するジーゼ。
幸い打撲程度だったものの、打ち付けられた痛みで立ち上がれず座り込む。
そんなジーゼにオーガが近付いてくる。
「み…な…、助けて」
軽く咳き込みながら、まだ近くにいるキリアン達にジーゼは助けを求めた。
しかし、武器すら手にしていない3人。
「あ…あんなの俺達で倒せねぇよ」
「ねぇ!オーガがあの子を狙ってる今がチャンスよ!逃げましょ!」
「あぁ、それしかないよな…」
「…!」
助けるどころか囮にして逃げようという流れにジーゼは愕然とした。
ただでさえ先程まで走り続けていて体力も限界に近いのだ。
そこに体の痛みまで加わってしまったジーゼでは、自力でオーガから逃れる事など出来ないだろう。
(私…ここで死ぬの…?)
どんどんと距離の縮まるオーガの巨体を見上げながら、絶望してカタカタと震えるジーゼ。
オーガは完全にジーゼに狙いを定めていて、どこかへ行ってくれそうな気配も無い。
まだ、冒険者と呼ばれた事すらないのに。
始まる事もなく、道半ばで終わるなんて嫌だ。
そう思うのに、体は全く動いてくれない。
「い…や……誰か…」
必死に助けを求めるが、その声も掻き消えそうな程度しか出せなかった。
無情にもオークは再び棍棒を振り上げる。
もうどうにも出来ず、ジーゼはぎゅっと目を閉じて身を屈めた。
しかし、その時だ。
「天流剣技 疾風 レイヴン!」
――ズバァンッ
突然、誰かの声と共に斬撃が飛んできてオーガを弾き飛ばした。
その声の主がジーゼの前へと立つ。
「大丈夫ですか!?」
質問を受け、ジーゼは恐る恐る目を開けた。
そして映った人物を見て一瞬時が止まる。
木漏れ日が反射して輝く美しい金髪。
アーモンド型で空のように青く綺麗な碧眼の瞳。
もし王族だと言われても信じてしまいそうな程、整った顔立ちをした青年が目の前に立っていた。
青年の方もジーゼを見て瞬間的に止まったが、直ぐに気を取り直して声をかける。
「怪我してますね…動けますか?」
「え、あ、はい。なんとか…」
動揺しつつも答えたジーゼに「良かった」と言いながら笑みを浮かべる。
なんて気持ちのいい青年だろうと思いながらぽーっとするジーゼ。
しかし、再び聞こえた唸り声で我に帰った。
《グァァァア!》
「! 下がっててください!」
一度攻撃を受けた事で怒りを見せるオーガに青年が直ぐ立ち向かう。
振り下ろされた棍棒を横に跳んで避け、まだ前屈みである内に足を斬りつけた。
それによってバランスを崩したオーガに追撃を仕掛ける。
「天流剣技 焦熱」
振り上げた剣に纏わされる炎。
「エリュトロン!」
高熱になった剣でオーガを大きく袈裟斬りにした。
すると斬られたオーガが一気に燃え上がる。
悲鳴を上げながら倒れそのまま息絶えてしまった。
「すごい…」
あっという間に倒してしまったその実力を前に、ジーゼは思わず言葉をこぼす。
こういう人こそ、紛れもない冒険者と言えるだろう。
自分の目指すべき場所にいるその人に、憧憬の眼差しを向けるジーゼ。
直後、振り返った青年と目が合った事で助けてもらったのを思い出し慌てて頭を下げた。
「あ、その!助けてくださってありが…」
が、それをわざと遮るかのように突如邪魔が入った。
「あの!もしかして陽光の剣士様ですか!?」
そう言って2人の間に割って入ったのはヤーラだ。
どうやら青年が現れた事でまだ逃げていなかったらしい。
目を輝かせながら青年に詰め寄る。
「天流剣を使ってましたし、最近ご活躍されてる冒険者さんですよね!?お会いできて光栄です!」
「え?えと…」
猫撫で声で勢いよく迫ってくるヤーラに若干引き気味になっている青年。
ヤーラに便乗するようにキリアン達も近付いた。
「オーガを一人で倒すなんて凄いですね!」
「おかげで助かりましたよ!」
ジーゼに対する態度とはまるで真逆の3人。
この機会に噂の冒険者と仲良くなろうという魂胆が透けて見える。
ヤーラに至ってはこの美青年と別の意味でも仲良くなろうと身を擦り寄せにいった。
「剣士様、良かったら…」
だが、直後に青年の表情が変わる。
「すみませんが…まだ終わってませんよ」
青年の言葉と遠くを睨みつけるような表情に、全員がサッと顔色を変えてその視線を辿った。
木の影から、先程とは別のオーガが姿を見せる。
「な…!もう一体いたのか!」
「いや、ちょっと待て!他にもいるぞ…!」
その光景に目を疑う面々。
なんと、一体だけでも厄介な魔物であるオーガが同時に複数体現れたのだ。
「どうなってるの!?オーガって群れない筈でしょ!?」
「おっ、俺に聞くなよ!」
ヤーラの言葉に青褪めながらキリアンが答える。
ミリアムも慌てて走り出した。
「とっ、とにかく逃げようぜ!」
オーガが現れた方向と逆方に走って逃げる。
しかし、青年がそれを見て声を張り上げた。
「! 待て!」
咄嗟に止まる事が出来ず「え?」と声だけ漏らすミリアム。
そんなミリアムの目の前に影が迫る。
「ちっ…!」
即座に地面を蹴った青年がミリアムの前に滑り込んだ。
ガキィンという音が響き渡り、その後に青年がオーガの棍棒を剣で受け止めたのだと皆が気付いた。
「ひ…っ」
危うく殺されるところだったミリアムが腰を抜かして地面に座り込む。
ジーゼも慌てて周囲を見渡し青褪めた。
森の木々で視界が悪かったのもあるが、いつの間にかオーガによって周りを取り囲まれてしまっている。
オーガがこんな統制の取れた行動をするなんて本来ならあり得ない事だ。
青年も状況を把握して歯噛みした。
「逃げ場は無い…か。皆さん!ここは力を合わせて乗り切りましょう!」
そう声を掛けるが、キリアン達は怯えるばかりで武器を手に取ろうともしない。
戦う前から戦意を喪失してしまっていた。
そんな中、ジーゼだけは一緒に戦おうと動く。
「わかりました!私も……うっ…」
が、身体に痛みが走りよろめく。
それを見て慌てる青年。
「! 貴女は無理しないでください!俺が…何とかします!」
自分だけでやるしかないと判断した青年は直ぐに行動に移す。
オーガの棍棒を弾いて跳び上がった。
「天流剣技 雷鳴 スリュムヘイム!」
剣に雷を纏わせ、自身が稲妻になったかのようにジグザグに斬りつけながら着地する。
技を食らったオーガは大ダメージを受けたようで叫び声を上げながら膝を付いた。
しかし、青年を脅威と見做した他のオーガが着地したところを狙い攻撃を仕掛ける。
「っ」
咄嗟に避けたため棍棒を受けはしなかったが、膝を付いたオーガにトドメを刺しきれなかった事に悔しさを滲ませる青年。
更に、他のオーガ達も青年に狙いを定めて動き出した。
(このままじゃ、あの人が…!)
流石に1人で複数体を相手にするのは分が悪すぎる。
青年の危機を察したジーゼは、せめて支援だけでも施そうと一歩を踏み出した。
「おいジーゼ!何する気だ!?」
が、青年に近付こうとしたジーゼの手を即座にキリアンが掴んだ。
止められた事に焦りながら答えるジーゼ。
「何って、彼に支援を…」
「ふざけんな!怪我でもさせる気か!?あの人まで動けなくなったら誰が俺達を守るんだよ!」
「そうよ!余計な事しないでよね!!」
ミリアムとヤーラも自分勝手な理由で怒鳴りつけ反対する。
ジーゼは自分の事しか考えない3人に憤りを覚えたが、実際事態を悪化させる可能性があるだけに反論出来ずたじろいだ。
そうこうしている間にオーガに囲まれてしまう青年。
「…こうなったら、やるしかないか…」
危機的状況に、覚悟を決めたように青年は呟いた。
――ズオッ
直後、雰囲気が変わり青年から鋭い闘気が発せられる。
ビリビリとした空気に、ジーゼ達だけでなくオーガまでも動きが止まった。
「天流剣技《壊》」
先程までと全く違う素早い動きで、体の大きなオーガを超えるほどに高く跳ぶ青年。
魔力を練り上げ技を繰り出す。
「時雨 ネロ!」
まるで雨のように大量の突き攻撃がオーガ達に降り注がれた。
攻撃する腕の動きも輪郭を捉えきれない速さで、威力も大きくオーガ達が皆悲鳴を上げる。
なんなら、その一回の技で倒されたオーガもいるくらいだ。
(あれって…身体強化?ううん、違う)
一瞬彼自身が自分に身体強化を施したのかと思ったが、それとは違うとジーゼは気付いた。
着地をしたと同時に地面を蹴ってオーガ達を斬りつける青年の動きは普通ではないが、強化ではなく魔力で無理矢理動かしているのだと分かる。
要は、操り人形のように魔力という名の糸で本来出来ない筈の動きを強制的に身体にさせているのだ。
「天流剣技《壊》 焦熱 エリュトロン!」
「天流剣技《壊》 雷鳴 スリュムヘイム!」
激しい魔力の消費によって、一度見た筈の技も先程とは別物のようにとんでもない威力を発揮する。
炎や雷でオーガ達がなす術なく次々と倒れていった。
その光景に歓声を上げるキリアン達。
「す…スゲェ!強すぎる!」
「さすが噂の陽光の剣士!」
「素敵…!」
3人は喜んでいるが、ジーゼだけは顔色が悪くなっていく。
(あんなの…ただの捨て身技だわ。続けたら、負荷に耐え切れなくて身体が壊れる…!)
現に、青年の顔はどんどん苦痛に歪んでいっていた。
激しく動いているとはいえ、異常な量の汗も流している。
それでも止まる事なく、残った数体のオーガを見据えて青年は剣を脇で低く構えた。
「天流剣技《壊》」
脚に魔力が集まり、地面がひび割れていく。
居合斬りのような動きで青年はこれまでで一番威力の高い技を繰り出した。
「暁 アナラビ!」
次の瞬間、光がオーガ達を通り過ぎる。
一拍空けて生き残っていたオーガ達が同時に腹から血を噴き出し倒れた。
オーガを通り過ぎた光が、青年の繰り出した横一閃の剣戟だと理解するのに僅かに時間が掛かってしまった程だ。
あまりの凄さに、全員が一瞬呆けてから歓喜の声を上げた。
「うわー!マジで全部倒したぞ!!」
「やった!俺達助かったんだ!!」
「あーもう本当死ぬかと思ったわ!」
青年を労うでもなく、ただただ自分達が助かった事を喜ぶ3人。
その声を聞く余裕も無いように、青年はガクリと膝をつき肩で息をした。
「ハァ…ハァ…」
慌てて青年のもとへ駆け出すジーゼ。
体の痛みに鞭を打ち、急いで傍まで寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ハァ…なん、とか…。君達は…?」
「私達は何ともありません!それより、あなたの身体が…」
そう声を掛けるジーゼを見て、明らかな苛立ちを見せるヤーラ。
「ちょっとジーゼ!なに抜け駆けして…」
が、言い掛けた時だった。
《グガアァァァアア!》
これまでとは比べ物にならない程の威圧感のあるオーガの声が響き渡る。
ズシンズシンという重量のある足音がする方へ、全員が血相を変えて顔を向けた。
そこに現れた巨体に目を剥く。
「なんだよ…アレ…」
震えながらキリアンが小さくこぼす。
両脇に護衛のようにオーガを引き連れてきたそれは、他のオーガよりも一回り以上大きく牙も発達していて桁違いの存在感を放っていた。
青年も厳しい表情で口を開く。
「キングオーガ…?くそ、だから…っ」
その名を聞いてジーゼも状況を飲み込んだ。
群れる事のない筈のオーガが何故同時に複数体現れたのか。
何故統制の取れた動きをしていたのか。
全部、あのキングオーガがボスとして指示していたのだと。
あまりの威圧感に足が竦んで、キリアン達も近付いてくるキングオーガから逃げられずにいた。
なんとか顔だけこちらに向け助けを求める。
「けっ、剣士様!さっきの技をもう一回お願いします!」
「そ、そうだ!アレでならきっと倒せる筈です!」
ヤーラのせがみにミリアムも便乗して青年へ頼み込む。
青年の隣で、思わずジーゼは耳を疑っていた。
(あの人達…この人の状態が見えてないの!?もう一度やれなんて…!)
恐らく本当に見えていないし、見えていたとしても関係無く同じように頼むのだろう。
自分達が助かるための方法がそれしかないと思えば、他人の犠牲なんて厭わないんだから。
「く…」
青年の魔力の動きを感じ取りジーゼはハッとした。
技の反動で限界に近い状態なのに、要望通りに先程の技を使おうとしているのだ。
青年の方もそれしか手はないと判断したのかもしれないが、ジーゼは慌てて止めた。
「ダメです!さっきの技はもう使わないでください!」
ジーゼに制止されて、やろうとしたのを気付かれた事に驚きつつも口を開く青年。
「だが…」
他に道は無いと思っているため首を縦に振ろうとしない。
魔力の動きも止めない青年を見て、グッと拳を握るジーゼ。
恐らく彼は止めても戦うのだろう。
ならば、ジーゼが彼に出来る事など1つだけだ。
(…大丈夫。きっと、この人なら…)
逡巡しながらも確信のようなモノが自分の中に湧いている。
そして、もう迷うものかと決心した。
「…私が、あなたに力を貸します」
その言葉を聞いて、焦ったのはキリアン達3人だ。
直ぐに口を挟むように叫ぶ。
「おっ、おい!何言ってんだよ!?」
「馬鹿なこと言うな!死にたいのか!?」
「変な事しないで!剣士様にさっきの技を使ってもらえば良…」
「戦う気の無い人達は黙っててください!!」
それまで反論なんて出来ずにいたジーゼが怒りのまま叫んだ事で、キリアン達も呆気に取られ押し黙った。
ジーゼにバッと顔を向けられ、青年も少しビクリとする。
スゥと息を吸い込み、ジーゼは改めて青年に話しかけた。
「あのっ、私はジーゼと言います!冒険者になりたくて旅をしてますが、支援魔法しか使えません!しかも、自分以外の人への身体強化だけです!」
「え?え?いや…え?」
この危機的状況下での突然の自己紹介にキョトンとする青年。
少し息を切らせつつ続けるジーゼ。
「すみません、会ったばかりの名前も知らない相手では信じられないかと思って…!いえ、どちらにせよ会ったばかりには変わりないんですが…っ」
焦って僅かに早口になってしまうが、その必死さは青年にも伝わる。
ジーゼは真っ直ぐに青年の目を見て言った。
「私の身体強化で、先程あなたが技を使った時くらい…いえ、それ以上に動けるようにしてみせます!どうか信じてもらえませんか!?」
それは、普通に考えたら不可能な内容だった。
青年自身も通常の身体強化を施してもらった事はあるので、程遠いモノだと知っている。
けれどジーゼの目に嘘の色は無い。
青年は一度ジーゼの真剣な眼差しを見つめてから、ゆっくり息を吐き笑顔を作った。
「…俺は、リュデルって言います。ジーゼさんの支援魔法を信じてみようと思うので、よろしくお願いします」
ジーゼと同じように名乗ってからそう宣言したリュデル。
受け入れてもらえた事で、ジーゼも顔を輝かせる。
そうこうしている間に、キングオーガはキリアン達を攻撃範囲内に捉えようとしていた。
棍棒を振り上げただけの風圧で倒れそうになってしまう3人。
「ひぃっ」
もうゆっくり話している暇など無い。
剣を構え、リュデルは声を張った。
「ジーゼさん!」
「はい!いきます!」
ジーゼがリュデルに手を翳し、直ぐに支援魔法を施す。
詠唱などもしてないのに、パァっと一瞬だけ身体が光った。
「これは…!」
身体の感覚がまるで違うのを感じ取るリュデル。
どれ程のものか確かめたい好奇心が湧き上がり、キングオーガ目掛け地面を蹴った。
――ビュンッ
「!」
と、一瞬でキングオーガの真横まで来てしまい想像以上の強化に驚く。
しかし瞬時にその速度に順応して、剣を振り斬りつけた。
更にリュデルの動きに対応出来ていないオーガ達に、目にも止まらぬ速さで追撃を仕掛ける。
「…はは」
思わず、リュデルは笑いを漏らした。
自分の思い描いた通りに動く事が出来る上に、身体が全く悲鳴を上げることも無いのだ。
こんなに気持ち良く戦えるのは初めてで、いっそ爽快感まで覚える。
魔力操作で自身を限界以上に動かすという芸当が出来るくらい戦闘センスの塊であるリュデルにとって、ジーゼの身体強化は相性抜群だった。
その一方で、驚愕して立ち尽くしていたのがキリアン達だ。
目で追うことすら難しいリュデルの縦横無尽な動きに唖然とする。
ジーゼの施す身体強化に適応した場合の凄さを目の当たりにし、嫌でも思い知らされていた。
自分達が一体…どれだけ宝の持ち腐れ状態だったのかを。
《グルァァァアア!》
一方的に攻撃され、怒り狂ったキングオーガが振り上げていた棍棒をリュデル目掛け下ろす。
他と一線を画すキングオーガの力によって叩かれた地面には大きく穴が空き、土の塊が激しく飛び散った。
しかし、どんなに強力な攻撃でも当たらなければ意味は無い。
今のリュデルには避ける事など容易く、それどころか回避ついでに両サイドにいたオーガを連撃で倒してしまう。
その姿に胸が熱くなるジーゼ。
(すごい、リュデルさん…!彼とだったら、もしかしたら私も…)
そんな思いまでが込み上げてくる。
リュデルはまるでそれに確信を与えるかのように、トドメを刺すべく跳び上がった。
「天流剣技」
魔力を纏わせ、剣が黒く大きなモノへ変化する。
「帳」
その大きな黒剣を、夜の帳を下ろすかの如く真っ直ぐに振り下ろした。
「カリニフタ!」
強力な一撃が、キングオーガに脳天から直撃する。
なす術も無く真っ二つにされ、キングオーガは絶命してしまった。
あまりに凄すぎてキリアン達が歓声を上げる事もない。
本当に、誰が見ても一方的な戦いだった。
「ハァ…。…っ、ジーゼさん!」
倒した直後に支援魔法の効果が切れる。
だが身体の状態が戻ってもリュデルは興奮が冷めず、よろめきながらも真っ直ぐジーゼのもとへ向かった。
「こんなとんでもない身体強化は初めて見ましたよ!身体に負荷も無いし、驚きました!」
本当に感動したようで、ジーゼの肩に手を置いて懸命に気持ちを伝えるリュデル。
ビックリしているジーゼに満面の笑みを浮かべ、心の底からの言葉を発した。
「こんな支援魔法が使えるなんて…ジーゼさんは本当に凄い冒険者だったんですね!」
その言葉を聞いた瞬間、ジーゼは目を見開き動けなくなった。
ジワジワと胸に浸透していき、瞳が涙で潤む。
「…っ」
ほろりと、涙がこぼれ落ちた。
自分の今までの努力が実を結んだように感じ、嬉しさを抑えられなかったのだ。
「えっ、ジーゼさん?すみません、俺何か悪い事言いましたか?」
ジーゼが泣き出した事で慌てるリュデル。
涙を止められないまま、ジーゼは笑みを作った。
「いえ、違うんです…。すごい嬉しくて…っ。ありがとう、ございます」
幸せそうな表情にリュデルもホッとして笑みを返す。
が、そこに水を差すように声が掛かった。
「いやぁジーゼ、流石だな!」
「うんうん、ジーゼは自慢の仲間だよ!」
ニコニコとしながら主張するように言ったのはキリアンとミリアム。
とんでもない手のひら返しだ。
ヤーラだけはジーゼを褒めはしなかったが、代わりにリュデルに声を掛ける。
「この子も居ますし、良かったら剣士様もアタシ達のパーティーに入りませんか!?」
図々しいにも程があると、ジーゼは嬉しそうな表情から一転して冷めた顔をした。
拒否感を隠さず口を開く。
「私、支援魔法が役に立たないからってあなた達にパーティーからの追放を宣言されましたよね?それなのに仲間だって言うんですか?」
ジーゼの言葉に、キリアン達は慌てながら取り成そうとする。
「いっ、いや、あんなの冗談だって!」
「そうそう!本気な訳ないだろ?わかるよな?」
どうにか無かった事にしたいようだが、ジーゼの方は完全に見限っていた。
「そうですか。でも、冗談で押し倒して襲おうとする人達とは、私は一緒に居られません」
ニコリと笑顔で返すジーゼ。
内輪揉めに入る訳にもいかないと黙って聞いていたリュデルも、その言葉でスゥっと冷めた目をした。
リュデルにまでそんな反応をされ、3人は慌てふためく。
「そっ、そんな事言わず、また一緒に冒険しようぜ!」
「そうよジーゼ!仲良くしましょ!?」
反省の色すら見せない3人を見て、言葉を返す気も失せたジーゼは無視してリュデルに声を掛けた。
「リュデルさん、お疲れですよね?今日はもう休んだ方が良いでしょうし、宿までご一緒しませんか?」
リュデルもまた、ジーゼだけに目を向ける。
「奇遇ですね。俺も同じ事を言おうと思ってました。それじゃあ行きましょうか」
キリアン達など目に入らないかのように歩き出した2人。
しかし、2人とも身体の痛みに耐えながらなのでヨロヨロとした動きになる。
「なっ、なあ!考え直してくれよ!」
尚も諦めず、焦って追いかけてくるキリアン達。
ゆっくりとしか歩けない2人では、引き離す事も出来ない。
ハァと溜め息を一つ吐き、リュデルは小さくジーゼに質問した。
「…ジーゼさん。もう一度だけ、俺に身体強化を施せますか?」
「え?あ、はい」
頷いた途端、リュデルはいきなりジーゼを横抱きにする。
「ひゃっ」と声を漏らしながら驚いてリュデルを見るジーゼ。
そんなジーゼに、リュデルは悪戯な笑顔を見せた。
「最後にもう一度だけ、彼らに貴女の力を見せつけてやりましょう」
その言葉の真意を理解し、ジーゼも思わず笑みが溢れる。
迷う事なく頷いた。
「良いですね、賛成です!」
そして、返事と共に支援魔法を使う。
身体が光ったと同時にリュデルは全力で駆け出した。
「あ!ちょ、待…」
キリアン達も慌てて後を追いかけてくるが、ジーゼの身体強化を施されたリュデルに追いつける筈もない。
あっという間に引き離されて姿も見えなくなってしまう。
もう彼らと会う事も無いだろうと思いながら、ジーゼとリュデルは顔を見合わせまた笑い合った。
これが、運命の出会いを果たした日の出来事である。
リュデルとジーゼ。
この2人が後に国中に名を轟かせる冒険者になるという事を
この時はまだ誰も知らない――――。
読んでくださりありがとうございました!
こちらは『キミに最高のおやすみを』の主人公達の出会いのお話になります。
この話の後の恋愛模様も回想で出てきたりしますので、もし良かったらキミおやの方も覗いてみてください(^^)
(コソ)
因みに、そっちだけ気になる!という方にお教えしますと…
回想話が出てくるのは13話・22話・33話・52話・59話になります