翌、翌日
今夜もいつも通り、終電近くの退社となった。
そしてこれもいつも通り、コンビニに寄る。昨日起こったことはイレギュラーだ。異常事態。大丈夫、今日もこのあとはいつも通り帰って寝るだけだ。
そして俺はコンビニの中へ入った。
無事何事もなく帰宅した。
コンビニに入るまでは緊張していたが、すべてがいつも通り済まされた。
店舗内をあまりにじろじろ見ていたからか、怪しまれて品出しをしていた店員にこちらを見られてしまったほどだ。まったく、緊張を返してほしいものだな。
昨日は布団で眠れなかったため、今夜はちゃんと布団で寝るつもりだ。そのせいで今日はやけに体が痛かったし、早めに寝たいところだ。
コンビニの弁当を今日は店で温めてきたので、すぐ食べられるようになっている。さっと食べて酒を飲み、シャワーを浴びる。
昨日のことが自分で思うよりも疲れていたようである。やけに眠たい。さっさと着替えて布団へ入る。
いつも通り、これがいつも通りだ。昨日の出来事を忘れようと、こう言い聞かせ、眠りに落ちた。
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翌日も遅い帰りになった。こうも繰り返し遅いと曜日感覚もどんどんなくなってくるな。
今日も、帰りがけにコンビニへ向かう。食べたいものと家にない酒を思い浮かべながら店内へ入ろうとしたが、
「こんばんは、お兄さん」
聞いたことのある声が聞こえた。横を見ると先日の女子高生だ。
「…こんばんは」
今自分の顔はどんな風になっているだろうか。ひきつった笑みにでもなっているんじゃなかろうか。だが対して彼女は笑顔のまま、こちらを見つめてくる。
「何ですか。いったい」
もう関わりたくないんですよ、という気持ちを込めて応対する。
「わかってるでしょ?また泊めてほしくてさ」
勘弁してほしい。こちらの気持ちが、何も伝わっていないようだ。
「なんで知らない子供の面倒を何度も見なきゃならん。迷惑だ」
以前とは違い、今度ははっきりと無視を決め込んで中へと入る。
いつも通り、適当な弁当と酒を取り、会計する。弁当の温めもしてもらった。
コンビニの外へ出ると、まだ彼女はいた。
俺は無視することを突き通し、帰り道を急ぐ。
すたすたと歩く音が、後ろからも聞こえる。自分以外の足音が。
十中八九彼女だろう。後ろを着けてきているようだ。
あきれてため息を吐いてしまった。立ち止まって振り返り、声をかける。
「何の用ですか」
突然だったので驚いたのか、一瞬ビクリとしていた。
「さっきも言ったじゃん。泊めてほしいの」
平静を装って、彼女は答えてきた。崩れかけた表情から再び笑顔を見せてくる。
「気まぐれがそう何度もあると思うな。お前を泊めるのはあの一回限りだ。」
はっきりと面と向かって伝える。面倒ごとに巻き込まれるのは本当にごめんだ。
少し沈黙があった。ずっと笑顔でこちらを見てきた彼女だったが、頑なな俺を見て不安げな表情を見せた。
「どうしても、ダメなの?」
ずっと笑顔だった彼女だったが、不安げというか、泣きそうにも見える。
「どうしてもだ。他に頼れるやつがいるだろ?そういうやつに頼むべきだ。それか警察に行け」
正論を続ける。そうだ、こんな見ず知らずの奴に頼るべきじゃない。
「だから、そんな人近くにはいないんだって。」
崩れた表情のまま、彼女は続ける。確かにそう聞いた気がする。だが、未成年の子供を泊めるというのは善行ではなく立派な犯罪だ。やめるべきだ。しかし、
「助けてよ、お兄さん」
懇願するかのように彼女は続けてくる。助けてほしい、だなんて大げさな気もする。泣きそうな顔をしながら手を合わせ、こちらを見てくる。
もう、本当に勘弁してほしい。そこまでする必要なんてないだろ。そこまで必死するだなんて。こちらが折れるしかなさそうだ。
「もう、勝手にしてくれ」
ため息とともに、降参だ、というように頭をかく。
「ありがとう!お兄さん」
出かけていた涙が引っ込んだようだ。安心したかのような笑みを浮かべている。
またも面倒なことを引き受けてしまったな。
「泊めてもらうつもりなら、最初から家で待っていればよかったんじゃないか?」
歩きながら、ふと疑問を口にする。そのほうが交渉も強く言えたんじゃなかろうか。
「いや、道を忘れてたからさ。一度で覚えられなくて、あのコンビニにいたの」
なるほどな、と思いながら覚えられたらこれから来られるようになってしまうのかと嫌な考えがよぎった。
ようやく家についた。
彼女を家に上げ、机の前に座らせる。
そういえば、こうなる想定ではなかったので彼女の分の弁当は買っていなかったな。
ああ、だがこの間の分の弁当があったか。
今日買った弁当を彼女に出し、以前の弁当を冷蔵庫から取り出し、レンジに入れる。
「えっと、いいの?」
彼女が遠慮気味に聞いてくる。意外にも気にしているようだな。
「いいよ。おまえ、熱すぎると食べれないんだろ。今日はコンビニで温めてきて時間もたってるし、食べれるだろ。冷めすぎないうちに食べろよ」
レンジで温めている間に、俺はハイボールを飲む。
「ありがとう、わざわざ気を遣ってもらっちゃって」
彼女は出された弁当に手を付ける。
俺も温め終わった弁当を取り出し、食べることとする。そういえば弁当の賞味期限ってどのくらい持つものだったっけ…。いや、やっぱり考えるのをよそう。どうせ体に良くないものを食べてることには変わりないだろ。
お互い、黙々と食べる。目の前の彼女はスマホも触らず、結構きれいに食べてるんだな。食べ進めるのは遅いみたいだが。
俺はさっさと食べ終えてすぐシャワーを浴びる。でもやはり人がいないと落ち着かず、ゆっくり浴びていられなかった。今日は着替えをすぐ外に出しているので焦ることはない。
着替えて戻ると、また俺がシャワーを浴びる間に眠ってしまったようだ。ただ弁当は食べたようで、空の容器が机に置かれている。
この間と同じく布団をかけ、俺はカーペットで眠るとする。