帰宅
結局、根負けして仕方なく連れていくことにしたが・・・何をしているんだ俺は。
「ありがと~、お兄さん。なんだかんだ優しいんだね」
「うるさい。お前がしつこいからだろうが。あまりからかうと連れて行かないぞ。」
「でも、連れてってくれるって決めたのはお兄さんだよ」
屁理屈を言う。もう相手にしないことにした。こいつは勝手についてきている、そう思うことにした。
家に着いた。二階建ての古いアパートだ。
「おじゃまします。なんか、普通の部屋だね」
「普通の人だからな、俺は」
部屋にあがったらまずは夜食だ。レンジでコンビニ弁当を温める。さすがに一つずつしかできないので自分の分を先にする。
「悪いが風呂は沸かしてないからな。シャワーで我慢してくれ」
「別に構わないよ、お風呂じゃないと嫌だとか思ってないし」
文句が出てくると思い、先手として早めに言ったつもりだったがいらぬ心配だったか。
「意外だな。お前くらいの年齢の女子は風呂に入ってないと気が済まないと思っていたが」
「何それ。どんな偏見持ってんの。みんながみんなそうじゃないよ」
「そうか、それならいい」
文句を言わないなら、それに越したことは無い。今夜だけなんだ。多少不満はあっても今夜だけなんだから我慢してもらえばいい。
「先にシャワー浴びるか?」
「いいよ。家主さんが先にはいって」
「俺はいつも飯のあとなんだが」
「じゃあその後でいいよ」
義理堅いというか礼儀があるというか、変なところで遠慮しているんだな。泊めてくれと頼んできたときは、あんなに強く押し寄せてきたのに。
そうこうしているうちに弁当は温め終わり、彼女の分を温める。
「悪いが、先に食べさせてもらうからな」
「いいよ、お気になさらず」
女子高生には先ほど買ったお茶を出す。ペットボトルのままだがまあいいだろう。
お兄さんありがとう、と彼女は言う。俺は買ってきた酒を取り出す。しかし、冷蔵庫にもほかの酒があったことを思い出しそれも飲もうと取り出していた。缶ビールと、チューハイがある。今日買ってきたのはハイボールだ。これは弁当とは合いそうにない・・・。今度はつまみも買ってこなくてはな。
「お兄さん、ペットボトル堅いんだけど。空けてくれない」
何ともまあ、わがままなガキだ。ギッ、と音がして普通に空いた。
「えへへ、悪いねえ」
ここまでできないなら何ができるんだこいつは。
俺は冷えているビールを取り出し、弁当を空ける。適当にとったにしては悪くない弁当だ。フライにから揚げも入っている。ビールに合いそうな内容でいい感じだ。
いただきます、と言って食べ始める。
「お兄さん、そこはしっかりしてるんだね」
「何がだ」
「いただきます、って。そういうとこしっかりしてるんだね。モテるよ~」
そんなことか。それなら普通に無視だ。軽くあしらっておくだけにとどめておく。
から揚げは普通にうまい。ビールも美味いし、悪くない。
女子高生の分も温め終わったようだ。女子高生の目の前に出すが、すぐに食べようとしない。
「まだ食べないのか、腹減ってたんじゃないのか」
「まだ熱々だからね。もう少し冷ましてからが良い。」
そうか、と思いながら、ならさらに熱いカップ麺をなぜ見ていたんだ、と思う。
「なら、温める前に言ってもらいたかったが」
「温めてほしいと思ったのはホントだよ。ただ、熱いの苦手なのは忘れてて」
自分の苦手を忘れていたなんてなんて鈍感な。いやでもまあ、そんなものだったりするのか。そして俺はビールと弁当を食べ終わったところだが、彼女はまだ食べ始めていない。
「冷め過ぎてもうまくないだろ。早く食った方がいい」
「中はまだ熱いみたいだし、もう少しだけね。」
意地でも冷めるまで食べない気か。温めない方が良かったんじゃないか?
「じゃあ先にシャワー浴びるぞ。なんかあったら呼べ」
「ありがとう。おきづかいなく~」
普段から来客もないのにそんなこと出来るわけもないだろう。無視しようとしても気配があるのが気になってしまう。
さっと浴びるだけにしようとしたが、なんだかやはり気になっちまうんだよな。そういえばシャワーで使うのは男用の安上がりなシャンプーとボディーソープ、洗顔くらいだからあの女子高生が使うには合わなさそうなものしかなかったな。まあ、急に人の家に上がり込もうとしたんだからそれくらいは仕方ないか。湯船があればお湯につかって時間を潰していたんだがそうもいかない。
…気にしすぎていたようで、寝間着を取り出すのを忘れてしまった。気を抜いてしまっていたようだ。
しかしもうシャワーを浴びているので諦めて全身洗いきってから戻ることにする。途中で戻ってまた浴びるのは時間とお湯がもったいない。バスタオルで体を拭き、下半身に巻いて隠して居間へ戻る。
そこでは机にうつ伏せで寝ている女子高生がいた。スースーと寝息をたてて寝ている。弁当を開ける前に寝てしまったようで、手を付けられていない。きっと今、ちょうど女子高生の言うちょうどいい温度になっているかと思うが、起こすべきなのだろうか。
「おーい、起きないのか。」
声をかけるが一向に起きそうにない。そんな長い時間シャワーに入っていただろうか。それともこいつが単に疲れていただけなのか。どちらにせよ、今こいつは結構深めの睡眠に入っている。それにしたって無防備すぎるだろう。一応男の一人暮らしの家に上がり込んでいるのに、警戒心はないのか。
だからと言って、手を出す気は全くないのだが。明日も早いからさっさと寝たいし。
なんとか布団へ動いてもらうのが一番いいんだが起きそうにはない。かといって動かした形跡があると触られることを極端に嫌がるかもしれない。仕方がないのでその机のまま動かさずに方に軽く布団をかけておく。敷布団も引いておけば、夜中に目が覚めたときにそこに動くだろう。
彼女に布団を使わせるため、自分はカーペットを敷いた床で寝る。壁際を選んでいるのだからいいだろう。
自分も寝る準備をしていき弁当とお茶は冷蔵庫にしまっておく。
朝起きると自分に布団がかかっていた。部屋を見渡すと彼女の姿は見当たらない。
机に、『タオル借りました。布団もありがとう』と書かれたメモ用紙が置いてあった。
どうやら先に出て行ってしまったらしい。タオルが濡れているということは、多分シャワーは浴びたようだ。
まったく、嵐のようだった。
とりあえず、さっさと準備をして出勤する。今日の帰宅は何時になるのやら。