プロローグ 墨子、旅立つ
「…これで荷造りは完了だ。長年住み続けたこのボロアパートともお別れか」
墨田 墨。35歳。乞食と間違われる風体の中年男だ。
そんな男が住むに相応しいボロアパート。ついに引っ越す事となり、朝から荷造りを開始。
部屋には元々、家具などは一切無く、生きていく上で必要最低限の物のみが揃えられていた。
それらを一人で運び出せる様、荷物に纏めあげると、後は部屋の掃除。立つ鳥跡を濁さず、だ。
昼過ぎには身支度を整え、ボロアパートを見上げながら感慨に耽る。
「…長いこと、お世話になったな」
高校を卒業してからこのボロアパートに住み続けて、はや17年。半生を共に過ごした住居で有りながらも、大いなる使命の為に部屋を引き払うのだ。
「生きては帰れぬかも知れないからな。そう、戦火に身を投じる身としては!」
これから向かう先は海外の戦地。生きて帰れる保証など、どこにも無い。
それでも戦火に身を投じるのは、墨の信念の為だろう。
「墨子として、いざ参らん!」
かつて古代中国にて、墨家なる思想家集団が存在した。その指導者が墨子。
非攻、兼愛などの思想を元に、平和主義を説いた墨家であったが、秦の始皇帝が中華統一を成すと、その存在は消滅した。
そんな墨家が日本の令和の時代に復活する事となる。
かつての墨家の思想を受け継がんと、幼少期より修行に明け暮れた新時代の墨子。それが墨田 墨。
幼い頃より磨き上げてきた墨子としての力を遺憾なく発揮する為、墨は海外の戦場へと赴く事に至ったのだ。
だが、そんな墨の思いとは裏腹に、海外の戦場へと辿り着くことは無かった。そう、海外の銃弾が飛び交う戦場よりも、より困難な場所へと誘われる事となるのであった。
「ん?何だコレは?」
ボロアパートから立ち去ろうとした墨の足下に突如魔法陣が現れた。そして魔法陣から溢れ出す光に包まれた墨は、そのまま光の消失と共にその姿を消失。
異世界召喚による転移。そう、墨の向かう戦場は銃弾の飛び交う海外の普通の戦場などでは無く、魔法の飛び交う異世界の戦場へと強制変更されるのであった。
100話くらい書き溜めてから投稿…したいところでしたが、賞に応募する為に書きながら投稿に。
行き当たりばったりでの執筆となりますので、途中で大幅に変更の可能性もあります。
御了承を。
m(._.)m