弱気
「私は全然いいですよ。八戒。ただ」
八戒の提案にあっさり承諾すると、悟浄が続けた。
「内緒にせず、兄貴にも協力してもらってはどうでしょうか。
・・いや、むしろ、彼女の夢に出るのは、
私たちより、兄貴単独の方がいいのかもしれません。
その方が三蔵に対して、説得力が増すと私は感じます。
あと、彼女を守護されているおじいさまには、
お邪魔しますという気持ちで臨めば、今回は大丈夫かと」
「ありがとう悟浄。・・・でも兄貴は正解しなければ二度と会わないって、
三蔵に宣言したから、あの兄貴の性格上、無理じゃないかな」
「・・そうですねぇ」
一呼吸置くと、悟浄がそれに答えた。
「そうなると、まず兄貴から説得になりますね。
でも・・・実際会うのと、夢で会うのとはまた、異なりますので。
その辺は兄貴も分かっていると思いますけどね。
・・もしかしたら、もうその必要はないかもしれないけれど、
一応説得してみましょうか」
「・・・??」
もうその必要はない?どういうこと?悟浄、と不思議そうな顔を浮かべる八戒に
そう答えた悟浄は穏やかに笑みを浮かべた。
『・・・あなた、仕事ができないだけじゃなく、性格も問題ありなのね』
『・・後輩いびりそんなに楽しいかしら?』
『・・・上に報告させてもらうわ』
『・・・早く来いってさ』
『・・・先輩の大事な仕事っていったい何なんですか』
「・・・」
自分は、他人にどう言われようと、
人のことなどあまり気にしない方だ。
人に評価されたい、認めてもらいたいという承認欲求なんて、バカげている。
給料をもらい、自分が会社に貢献できる仕事ができれば、それでいい。
・・今は辛くても、
これはきっと、後の人生の勉強の糧になるから、きっと大丈夫なはずだ。
そう自分で自負していたつもりだった。
だけど、今日はなぜか、
上司である彼女の言葉や、会社の周りの者たちの自分に対する態度が、
走馬灯のように静子の中でぐるぐると回って離れなかった。
一体、自分は何なんだろう。
なぜ、上司の彼女は、初対面から私を受け入れなかったのだろう。
なぜ、私は同僚や後輩にさえ、避けられるようになってしまったのだろうか。
・・・上司が原因だとしても、今の会社内で、誰ひとりとして、私の味方はいない。
所詮この世は、正しい生き方をしようとしても報われないのか。
なんで、生きているんだろう・・・。
『いつになく弱気だな。三蔵。お前らしくない』
『・・・!?』
静子がふと声のする方をみると、そこに悟空がいた。
続く




