また今度
「――っ!」
この何気に鼻につく不快な異臭が、
早朝から革靴を履きっぱなしの自身の足からだったことに、静子は気づいた。
・・ああ。もうこんな時間・・。
朝からフルに稼働しても報われない
この先の見えない疲労とある種の絶望感の中、
ふとパソコンの時刻を見ると、
午前0時はすでに回っていた。
『この書類、明日の朝までには終わらせておくように。・・必ず!』
君は計画性がないから、いつもこうなるの。
周りには優しいと評判だが自分にだけ厳しいような気がする上司の言葉が、
今日も静子の心に重く伸しかかった。
もう、ため息もなにも出やしない。
私は、このまま、殺されてしまうのだろうか。
「いいや。お前は殺されるようなタマじゃねえ」
「・・!?」
唐突にかけられた声の方をみると、
そこに、いつのまにか変な格好をしたコスプレの若い男がいた。
「・・・侵入者?」
いや、このオフィス100階にあるし、セキュリティもかなりしっかりしている。
頭がついにおかしくなったかな。
この際、「彼」がいなくなるまで待とうと彼女は思い、淡々と彼を眺めることにした。
「・・・」
彼は古びた着慣れた武道着のような赤い服を着ており、
金髪に何か金色の鉢巻みたいなものをしていた。
背はそんなに高くないけど、
顔・恰好はなかなか良い方かもしれない。
服から垣間見える筋肉もほどほどに鍛えていそう、
運動神経もぶっちぎりで良さそうだ。
「・・孫悟空?・・のコスプレですか?・・・似合っていますね」
ふと思ったことが言葉に出た。
「・・・お前。何歳になった?」
質問にかまわず、「彼」が逆に質問してきた。
「・・あ。」
「彼」に言われて気づいた。
ああそうだ。今日は誕生日だった。
この幻に教えられるなんて。
「・・ふ。・・今日で22歳です」
何か情けなくて、少し愁傷気味に答えた。
「・・まだまだ若いな!」
へっと笑うと「彼」が続けた。
「・・俺はガキと閉じ込められることは大の苦手なんでね、迎えに来たが今回はキャンセルだ」
「・・へ?」
この男の言っている意図がわからず、聞き返したが、彼は構わず続けた。
「もっと、お前が成長したらまた来てやる。
それまであばよ、三蔵法師さま!」
「・・・はい!?」
続く




