妹に婚約者を奪い取られた私は、婚約破棄され辺境に送られ、10年後『人形遣い』として活躍していました。しかしなぜか裏切者の元婚約者が私を呼び出し、無償で勇者として魔王を倒せと命じてきたのですが。
「魔王が復活した」
「はあ……」
私は国王陛下の前に呼ばれました。年をとりましたねえとお腹がでて頭がはげた元婚約者を見ながら思っていました。
「エリファス・レヴィ。お前に魔王退治を命じる!」
「お断りします」
私が答えると、どうしてだと激昂する元婚約者、いや当たり前だと思いますけど。
「報酬提示もないですし、ギルドを通してませんし」
「国王の命令は絶対だ!」
「いえドールマスターとして、ギルドを通した正式な依頼でない限り、手塩にかけた人形を戦いにつれていくなんてことできませんよ」
私が正論を通すと、顔を真っ赤にして怒り狂う国王。
隣にいる私の腹違いの妹、今は王妃になったローズはまあ口答えなんてと怒っていますけど。
私をあなたをいじめたという罪とやらで婚約破棄されて、辺境送りになって10年になりますがもう忘れたと思っているのでしょうかね。
「申し訳ありませんが、国王陛下といえども手順は踏んでください」
怒り狂う二人、冷めた目で見る私と、困った顔の大臣達。
実は私は元侯爵令嬢で、国王が王太子時代、妹をいじめたという罪とやらで婚約破棄されて国外追放になった女です。
それから10年、今は隣国で人形遣いをやってまして、ドールマスター。
つまり人間とそん色ない出来の人形を使役して、戦わせたり、あとは魔法補助に使ったり、人が入れないダンジョンの偵察をさせるなど……。
人形に意識を映して、その記憶を共有させることもでき、自動人形なら命令次第で、遠隔で自動で戦わせることも可能です。
だからこそ、人の手を煩わせることは人形にさせることができました。
だが、魔王退治なんて、一介の人形遣いにさせることではない。
ギルドがこの調子では依頼を受けなかったから、無理やり私を呼び出したなと思います。
隣国の王からの呼び出しがあったと聞いて、私はあのバカ妹が何かやらかしたのかと来てみたのですが。
お父様から王妃になったあのバカがやらかしたという手紙が来てましたし。
「……お断りします。ギルドに依頼をかけてください。では行くよ、ベアトリーチェ」
『はい、マスター』
私の後ろに控えるドールが一礼します。人と変わらないその姿、違うのは瞳だけ。
メイド服を着せたのは私の趣味ですけど。
長い黒髪をなびかせ、彼女は一礼します。ほおっと感嘆の声が周囲から洩れました。
「衛兵、こやつを捕らえよ!」
「ベアトリーチェ、戦闘第一体系!」
『はい。マスターをお守りします』
人形は常に人を守る。しかし例外があり、マスターに危害を加えられそうになったとき、敵対する人間と戦う。
ベアトリーチェは、空中から杖を出現させ、呪文を唱えはじめます。彼女は戦闘特化ではなく魔法使いしてのスキルを持っていますが、まあこの人数ならいけるでしょう。
私も一緒に二重詠唱をはじめます。
『風よわが力となせ!』
「ウィンド・ブルー!」
私達の呪文で強風が起こり、衛兵たちが吹き飛ばされ、私は逃げようと声をかけるとはいと彼女はうなずき、追いかけてくる衛兵をまた風魔法で吹き飛ばします。
しかし厄介なことになりました。
あいつら……頭がおかしいというかおかしすぎました。
「魔王退治? 断ったに決まっているだろう。しかも無報酬だ。バカじゃないのかあいつら!」
「やはり……」
ギルドに帰り抗議をすると断ったに決まっているとギルド長が困惑した表情で答えてくれました。
「……魔王退治を直接命じられまして」
「いやあかんだろそれ」
「ええ」
ギルドとして抗議をすると言ってくれましたが、しかししつこく言ってくるに違いありません。
どうしようかなと思っていると……。
「魔王退治ねえ、お前とベアトリーチェ、ダンテ、ヒルデガルドだと……」
「無理でしょう、魔法と戦闘特化、癒し手がいても無理です」
「だな」
私が持っているドールは三体、レベルはS、このクラスを保持しているのは私のみですけど、ありえません。魔王の力は強大すぎます。
「呼び出しを受けてももう行くなよ」
「ええ」
そのつもりでしたが、あのバカ達が、とうとう隣国に抗議をはじめ、隣国はバカじゃないかとはねのけたら今度は私の家族を人質にしたといってきたのです。
妹を許してやれといった両親はどうでもいいんですが、跡取りの弟ルーイはまだ12歳、あの子だけは心配です。ここまでするとは……。
「魔王退治を無償でなんてね」
「弟をどうするって?」
「魔王を退治しないと殺すそうです」
私は仕方ないとばかりに頭を振りました。しかしこちらにも考えがあります。このままやられるばかりではすみませんよ。
『はいマスター!』
私は三体のドールを連れて、魔王退治とやらの旅に出かけました。
半年の間に倒さないと家族を処刑すると脅されてね、あのバカ妹の入れ知恵でしょう。
妹は腹違いで、父が使用人に産ませた娘、でも血縁に対しても愛情なんてかけらもなく、私の婚約者も私が妹をいじめているという嘘で奪い取ったほどです。
他のギルドの人形遣いも応援にかけつけてくれて、私はなんとか魔王を退治をすることができました。
しかし、ダンテは左足損傷、ヒルデガルドは下半身がすべて破損、ベアトリーチェのみがなんとか微細な傷のみですみましたが、あとの2体はメンテに半年以上かかるそうで。
他の人形遣いも同様で悪いことをしました……。
私と懇意にしている人ばかりで気にするなといってくれましたが。
「魔王退治の英雄……ねえ」
「陛下、ギルドの被害は相当なものです。有志を集めたので、報酬はなしということになりましたが、わが家族が人質に取られたのを聞いて皆が集まってくれたので……」
「ああ聞いている。隣国に圧力をかけたのが失敗だったかすまない、そこまで愚かだとは」
私が今所属している国の国王に陳情にあがりました。今回の魔王退治にかなりの金額をさいたり援助もしてくれました。
「あちらだけが無傷となればなあ……」
「申し訳ありません」
「いや、君には王太子時代、かなり世話になったから、君の弟が殺されるなどきいたら黙ってはいられなかったがね」
陛下は実は王太子時代、人形遣いの素養があったので同じようにギルドで働いていた同僚でもありました。だからかなり無理も聞いてもらえていたのですが。
「国王ってのは不便だな、昔みたいに自由に動くこともままならない」
「……」
「エリファス、いやエリ、どうしたい?」
「あのバカたちに復讐をしたいですね」
「なら力を貸そう、たぶん今度は我が国に攻めてくる可能性が高いからな」
「ええ」
陛下はギルドを通して、正式依頼をかけてくれました。そして彼は兵を率いて、わが祖国に攻め入ったのです。その前に弟に身柄だけは確保していてくれました。
「お前、どうして、私を私を私を!」
「お姉さま、許してください。本当はルーイを殺すつもりなどは!」
命乞いをする元国王とわが妹、私は陛下の隣で、二人を見て、どうやって殺してあげましょうかねえとにいと笑いました。
「お前の好きなようにするといい」
「陛下、感謝します」
私は二人の前で、人形を使いましょうと笑いました。
人形は強い力を持っています。引きちぎって一瞬で殺すのはだめです。そうですねえ。
弟のために両親は生かしていますが、さあでもねえ、二人にも復讐をしないと。
「ベアトリーチェ……命ずる。そうだなこの二人を……」
『はい、マスター』
私はあらゆる痛みを感じさせ、殺してと哀願するまで二人を拷問にかけました。
見ていると高揚しました。私もかなり鬱屈していたのかもしれません。
復讐が終わり、どうしようかなと思っていた私に陛下は声をかけてくれました。
「帰るか? あと私はまだ妃が……」
すべてがすんだらと私は笑いました。しかし陛下もあんな光景を見て、私にそれを言ってくるとは趣味が悪いのかもしれません。現役時代から私に言い寄ってきていた人でしたが。
私はベアトリーチェのガラス玉の瞳を見てごめんねと声をかけると『いいえ』と彼女が首を振りました。
弟を人質とされたのも腹が立ったのですが、私の人形たちを傷つけさせたのも許せませんでした。
私はベアトリーチェの手を取り、ありがとうと再び声をかけたのでした。
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