最終話 名前
「これでまた家族一緒になれたのかな」
酷く憂鬱な声でキリルは呟きました。
町外れの墓地。冷たい風が黒いワンピースの裾をはためかせていきます。
誰に言っているという風でも無かったので、ラズは黙っていました。
少女の亡骸は全て消えてしまったので、一番陽当たりの良さそうな場所に丸い石を
置いて命日だけを記しました。
「名前、結局分からなかったね」
少女の名前は国民全員に知られていたので、調べようと思えばいくらでも調べられたでしょう。
でもキリル達はそれをしませんでした。
名前はちゃんと少女の口から聞きたかったのです。
そして、ちゃんと自分の口でその名前を呼んであげたかった。
『魔女』としか呼んでもらえなかった、少女の本当の名前。
キリルは一度手を握り、また開きます。するとそこには花が乗っていました。
彼女の髪の毛と同じ、金色の花。
こんな時だけは、自分が魔法を使える事が少しだけ救いでした。
せめてもの餞に、哀惜の色を。
「行こ」
花を備え終わるのを見届けると、ラズが促しました。
「うん……」
キリルは名残惜しそうに立ち上がります。
「今度は道間違えないでよ?」
「なっ、だから間違えたんじゃないってば! あの地図がおかしかっただけよ!」
「はいはい。最新版だったんだけどね〜」
それから本当に無人になったこの国がどうなったのかは、誰も知りませんでした。




