第1話 無人
「キリル、道間違えたんじゃない?」
猫とコウモリを混ぜた様な小型の動物が言いました。
「間違ってないもん。ただの通過国!」
黒髪の少女が言いました。
「暗くなる前に着くって言ったじゃん!」
「それはラズの聞き間違い!」
空は既に薄暗くなり、街灯が灯りはじめています。
その国には太陽がありませんでした。
年間日照時間が極めて短い為一日中薄暗く、地下を思わせる様な湿った空気が充満しているのです。
町並みはそこそこ綺麗ですが、辺りに人は見当たらなく不気味な程静まりかえっていました。
「誰も居ない、のかな」
あまりにしんとしていて、キリルは思わず小声で喋っていました。
「ごーすとたうんってやつだね」
つられてラズも声をひそめます。
都市部に出るとカラフルなショーウインドウがひしめきあっていました。楽しげなその背景は無人の国を奇妙に彩っていて。
なかなかシュールな状況だとキリルは思いました。
「誰か居ませんかー?」
だいぶ不機嫌になった様子で、キリルは本日三つ目のホテルの扉を叩きます。ここも従業員らしき人は見当たらなく、入口には鍵がかかっていました。
「誰も居ないなら鍵くらい開けておきなさいよ!」
むくれて軽く扉を二三度蹴りました。
「誰も居ないから鍵閉めてあるんだと思うよ」
結局その日は野宿をする事になり、ラズは不満そうな様子でした。
「冬の野宿は応えるね、キリル」
「町中だから野宿とは言わないもん」
「ヘリクツ。まさか町中で焚火する日がこようとは」
「はいはいスープできましたよ〜」
話題を思いっきりそらすと、キリル達は携帯食料とスープの簡素な食事を始めました。
夜になり辺りが更に暗くなると、国内は余計不気味さを増してゆきました。時折生暖かい風が吹き抜けていきます。
「こう暗いと何も出来ないね。もう今日は寝て明日早めに出ようか」
「そうだね」
ラズがキリルの肩の上で寝ようとしていた時。
「ぎゃあああああ!!」
突然遠くから男の悲鳴が聞こえました。
「……人居たんだ」
ややあって、驚きと感動のまざった声でキリルが呟きました。
「もっと別の所に驚くべきかと」
「個人の自由」
「まぁそうだけ……」
言いかけてラズは驚愕の表情を浮かべました。
「え――」




