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7、聖女の館にカチコミしました

続きです!


「は?能力の再検査ですって?」


アリーダ・カスティーリャ伯爵令嬢は、聖女用の邸宅でいちばん上等なしつらえの自室でのんびりくつろぎながら、侍女の話を聞いた。


なんでもこれまでの待遇を一新し、新たな聖女制度を作るために、まずは現状の聖女の力量をもう一度測って、階級を付け直すのだとか。


「馬鹿馬鹿しい。聖女の階級なんか何の意味もないのよ。身分が高く、寄付額が高ければ良い待遇になる。当たり前のことじゃないの」


カスティーリャ伯爵家は領地が豊かなので、金持ちだ。たっぷり寄付をしたため、最高の待遇を約束されている。侍女もメイドも家から連れてきた。何不自由なく暮らせている。


……いや、ひとつだけ不満があった。社交に出られないことだ。


ドレスや宝石をあつらえても、身に付けていく場所がなかった。


(まああと半年の辛抱よ。こんなシケたとことっとと出て、またパーティーに出かけてやるんだから)


カスティーリャ伯爵令嬢は半年前、夜会で羽目を外しすぎて父親に神殿へぶち込まれた。

内実はどうあれ、聖女ならば周囲から純潔と見なされる。1年はおとなしくしていろとどやしつけられ、彼女は仕方なくここにいるのだ。


一緒の時期に神殿に来たリギンズ男爵令嬢は、その能力の高さから筆頭聖女として認められたが、身分も低くろくな財産も持っていなかったため、平民以下の最下級の待遇しか受けられなかった。


貧乏人って可哀想ね、と鼻で笑い、カスティーリャ伯爵令嬢は優雅な生活を楽しんだ。


彼女は、このまま生きて行けると信じて疑わなかった。


‡‡‡


「あっ、貴女、非処女なんですね!この年齢の令嬢にしては、珍しいですね!」


……広間に爽やかな青年の声が響き渡った。


並んでいた聖女たちは、一斉に凍りついた。


「なっ……なっ……!」


能力を測る水晶球に手をのせたまま、カスティーリャ伯爵令嬢は顔を真っ赤にしてぶるぶる震えた。


王宮魔導師のニック・ポワゾンは、悪気なんかひとつもないという笑顔を彼女に向けている。


女性ならイチコロと思われるイケメンスマイルだが、カスティーリャ伯爵令嬢はときめくどころではなかった。


「あっ、でもご安心ください!大昔と違って、今は聖女が処女だろうと非処女だろうと、聖女としての能力には関係ないというエビデンスがありますので!これからは非処女でも聖女!ママでも聖女!おばあちゃんでも聖女!という時代です!皆さん、おおいに能力を発揮してくださいね!」


あああああああやめてええええ!!


王命のもと、全ての聖女は王宮の第二広間に集められ、水晶球による審査を受けていた。


もともと身元を証明するための魔道具を改造したもので、能力値を測る以外にも、様々なステータスが表示されるらしい。……いや、表示され過ぎだろう。


そして悲しいことに、広間には高位貴族の数人が見学に来ていた。そんな個人情報開示の場になるとはひとつも知らなかった彼らは、聖女たちと同じく硬直してしまっている。


「えーと、能力値の方は、と。……あれっ?君、全体の数値低すぎじゃない?特に『貞淑』がめちゃくちゃ低い!おまけに聖女の資格はカケラもないと来た!はいだめー、失格!3日以内に神殿出てってねー」


サクサクと測定を終え、はい次の方ー!と彼女を避けようとするニック・ポワゾンに、カスティーリャ伯爵令嬢の怒りは爆発した。


「待ちなさいよ!!なんて無礼なの?!わたくしはカスティーリャ伯爵令嬢なのよ!衛兵の方、この無礼者を今すぐ不敬罪で捕らえなさい!お父様に言って、流刑にしてやりますわ!!」


真っ赤な顔で怒鳴る令嬢だったが、まわりはシンとしたままだった。


ニック・ポワゾンはポカンとしている。


なぜ誰も動かないの?と息を荒げて激昂していると、広間の端にいた侍女がサーッと寄って来て、彼女に耳打ちした。


「お嬢様、お控えください!この方は王弟殿下のご子息で、今は訳あって平民のポワゾン姓を名乗っておられますが、二級魔導技士の資格をお持ちです!二級魔導技士は、辺境伯相当の地位でございます……!」


真っ青な顔で告げる侍女と同じく、カスティーリャ伯爵令嬢の顔も青くなっていった。


王族に連なる、爵位が上の男性を罵倒してしまった。


貴族姓の者しか関知せず、王宮内の実情を把握するのを怠った、カスティーリャ伯爵令嬢自身の落ち度だった。


「も……申し訳ございません、ポワゾン様……無作法な真似をいたしました、お許しください……!」


彼女が素早く謝罪を述べると、ニック・ポワゾンは邪気のない笑顔を浮かべた。


「ハハッ!君って面白い子だなあ!僕は今は単なる平民の魔導技士だよ、そんなに畏まらなくていいよー!」


……良かった、なんとか場を収められた……!とカスティーリャ伯爵令嬢は胸を撫で下ろした。


「でも、聖女の資格がカケラもない、『貞淑』の数値がめちゃくちゃ低い子はとっとと出てってね!邪魔だから!」


場を収められはしたが、ニック・ポワゾンは情け容赦なく、笑顔でカスティーリャ伯爵令嬢に言い放った。


硬直している彼女を手で押し退け、次の聖女の測定に入る。


羞恥と屈辱に震える彼女の後ろで、何人かの聖女がイヤアアと悲鳴を上げながら広間から逃げ去っていった。


「能力測定を受けないならその場で聖女失格だよー、3日以内に退去してねー」


ニック・ポワゾンがまたもや明るく声をかける。


逃げた聖女は、カスティーリャ伯爵令嬢と同じく、問題を起こして神殿に送り込まれた者たちだったらしい。


この後、カスティーリャ伯爵令嬢他、聖女の力がカケラもないと判断された者は、強制的に神殿を追われた。


それなりに数が多く、全体の1/3を占めたという。


神殿は、一部の貴族の間で、完全に嫁入り前の準備機関だと勘違いされていたのだ。


中には契約違反だ!寄附金を返還せよ!と憤る者もいたが、失脚した大司祭たちから没収した財産で全額返却されたため、引き下がるしかなかった。


そしてその後、聖女の資格もないのに、わざわざ神殿に入ったのは不貞を誤魔化すためでは?といった噂が流れ、縁談が全く来なくなり、泣く泣く修道院送りになった者もいたという。


「どうしてこうなったの……?」


王国の端にある規律の厳しい修道院に向かう馬車の中で、カスティーリャ伯爵令嬢は嘆いた。



連続投稿します!

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