6、神殿にカチコミしました
続きです!
「ですから、王子殿下。全ては誤解なのです。我々はしかるべき待遇をしていただけなのですよ。ましてや横領など!神に誓って、そのような事実はございません!」
正神殿長である大司祭は、大袈裟な身振り手振りを添えて反論した。
初老の禿頭の彼はまるまると太っており、神殿長専用のローブをまとっていた。それは一見ふつうの布地に見えるが、目の利く者がみれば、とんでもなく高価なものだとわかる。
更に、長い袖や襟で隠された腕や指、首まわりには、大小の宝石があしらわれた豪華な装飾品を身に付けていた。
「アホかこいつ!全身で『ボク横領してま~す☆』スタイルで来といて、何が誤解じゃこのハゲ!!」
謁見の間で、ゴーラン第一王子の隣に控えたラトランド公爵令嬢が吠えたが、大司祭やお付きの者はポカンとしていた。
「……ははぁ、ラトランド公爵令嬢におかれましては、他国からいらして公爵家の養女となられたとお聞きしましたが、今のはお国の言葉ですかな?さっぱり意味がわかりませぬが」
明らかに見下した表情で、大司祭は苦笑まじりに言った。いくら第一王子の婚約者と言えど、しょせん小娘だと侮ったのだ。
「ホルン・ダンスト。言葉を慎め。月の女神の階の御前であるぞ」
冷えきった声でゴーラン第一王子が告げた。
大司祭は、敬称無しの本名で呼ばれたこと、そして『女神の階』という単語におののいた。
それは次期王妃として認められた女性の呼び方である。
そしてその配偶者は、次期国王と認められた者、つまり発表こそされていないものの、王太子として立つことが確定しているということだ。
そうなればもう、ただの王子ではなく、国王・王妃不在の王都に置いては、同等の裁量権を持つ存在となる。
まだ二十歳にもならない王子の前で、『ボクちん横領なんかちてまちぇーん、知りまちぇーん、国王陛下が戻ってからもう一度聞いてくだちゃい!』とあかんべーしながらトンズラする予定だった大司祭(今年で52歳)は、おおいに焦った。
「っ、太陽の神の階となられたゴーラン王子殿下に申し上げます、聖女たるものは、清貧を旨とする存在なのです!」
王太子を表す呼称で呼びかけ、大司祭はなんとかこの場を脱するべく、言葉を捻り出した。
「ほう、清貧とな」
ゴーラン王子は鼻で笑った。
肉だるまが何か言ってんなぁという笑みだったが、大司祭はそれを好機と勘違いした。
「そうです王子殿下!聖女とは、下民どもに施す立場にあるもの!けして驕り昂ってはなりませぬ!故に、力の強い者であればこそ、身を律し、己を厳しい状況においてこそ、神々の加護を受けられるのです!ですから、シンシア・リギンズ男爵令嬢の処遇は、何一つ間違っておらず」
「こう申しているが、どう思う?オリエ」
全部を聞いたら耳がアホになりそうだと判断したゴーラン王子は、話を中断させて隣に立つラトランド公爵令嬢に話を振った。
ホアッ?!と口を開きっぱなしで硬直した大司祭を前にして、ラトランド公爵令嬢は冷徹に微笑む。
「さあ?わたくし、脂肪肉の言葉は理解できませんので、さっぱりわかりませんわ。『お腹と顎のお肉がぷるぷるするよ~』とでも訴えていたのでしょうか?ゴーラン様はわかりました?」
「なっ」
脂肪肉呼ばわりされた大司祭は、怒りで何か反論しようとしたが、
「さてな、私もわからん。聞き苦しかったとだけ言っておこうか」
あっけらかんと王子に言われ、口をつぐんでしまう。
「このままここに留め置いても、ぷるぷるうるさいだけだな。衛兵、この者を地下牢に繋げ。身ぐるみはがして囚人服を着させろ。私物は全て没収する」
「なぁっ?!お、王子殿下、私の話をお聞きください!!」
なおじたばたする肉塊に対して、ラトランド公爵令嬢が笑顔で近付いた。
「大丈夫でちゅよお~、ボクちゃんの横領した隠し財産は、全て押収しまちたからねぇ~、一族郎党連座制で、ダンストの家名に連なるものはみんな財産没収の上、開拓地で重労働の刑でちゅ☆みんな一緒だから寂しくないでちゅねぇ☆☆」
最大限の煽り口調である。
大司祭は額に青筋を浮かべて怒鳴り散らそうとしたが、目の前の少女がスッと表情を変えたのを見て、黙ってしまった。
「有言実行しなさいよ、ハゲ。驕り昂らず、身を律し、己を厳しい環境に置きなさいよ、ハゲ。これよりあんたは下民以下の存在となり、施される身分になるのよ、ハゲ。存分に働きなさいよ、ハゲ。神々の加護とやらがそのハゲ頭に注がれても反射するんじゃないわよ、ハゲ」
……そんなにハゲハゲ連呼しなくても……それに私、聖職者だから剃っているのであって、そこまでハゲじゃないもん、ちゃんと生えてるもん、髪の毛ちゃんとあるもん……などと大司祭が心折れている間に、衛兵が連れ去っていった。
もともと全て証拠は押収しており、採決を下すためだけに呼び出したので、初めから言い訳を聞く耳など持っていなかったのだが。
「さて、これで神殿のトップの更迭は終了したな。次は聖女制度について取り掛かろう」
「はい、ゴーラン様」
パッと笑顔を浮かべて王子に近付いたラトランド公爵令嬢だが、王子が微妙な顔をしているのに気付いた。
「?ゴーラン様?」
「オリエ、その……あまりハゲハゲ言ってやるな、あの者たちは皆、ハゲたくてハゲているわけではないのだ……それだけは許してやってほしい……」
痛々しい目で言う王子に、あっそう言えばこの人もそろそろ……とうっかり生え際に目をやってしまった公爵令嬢は、その後少しの間、王子との空気がギクシャクした。
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