5、市井side
続きです!
「あの筆頭聖女様、追放されちゃったんだってねえ」
「あらまあ、可哀想にねえ」
小神殿近くに住まう町民のおかみさん達が、井戸で水を汲みながら井戸端会議に花を咲かせていた。
「酷かったものねえ、あの方。17歳だって聞いたけど、うちの13歳のミリアと同じくらいにしか見えなかったわ」
「ねえ。髪の毛も細くて艶がなくて、せっかくきれいな金髪なのにボサボサだったわ。筆頭聖女というのは、きっと神殿でいちばん地位の低い聖女のことを言うのね。でなければあんなにみすぼらしい格好で、司祭様が連れ歩くはずがないもの」
学がない町民達は、司祭が語る言葉の意味をあまり理解できていなかった。
だから、見た目や態度で判断する。
シンシア・リギンズ男爵令嬢は、聖女の帽子と制服を身につけていたが、両方とも使い古しで毛羽立っていた。
体は痩せぎすで、歯も手もぼろぼろだったため、貧しい寒村からむりやり連れて来られた最下層の聖女だと、みんな思っていた。
そんな彼女が週に一回必ず来て、怪我人はいませんか、病人はいませんかと尋ね歩く。
彼女が癒しの奇跡を使った者は、一度で完治してしまうので、そんなに毎週来られても、頼む者はあまりいない。
むしろ貴女のそのあかぎれまみれの手を先に癒しなさいよと言いたい。
「あんまり可哀想だから私、菓子パンとミルクを差し入れようとしたのよ。そしたら司祭様が飛んできてさ、神に仕えるものに施しは不要です、我々が施す側なのです、って怒られちゃってねぇ」
おかみさんは台車に乗せた水瓶に水を足しながら、不満げに言った。
がりがりに痩せた子供の前でふんぞり返る司祭の腹回りは、見苦しいほどでっぷりとしていて、じゃあお前のその腹は何だよウ●コでも詰まってんのかよと内心で罵った。
平民が司祭に暴言を吐くことは許されないので、口には出せないが。
「きっとあんまり力がなくて、捨てられちゃったのね。可哀想にね……外国に出されても、生きていけないだろうに」
「神殿もろくなもんじゃないわね。拾ったなら最後まで面倒見ろってのよ。ご飯くらい、ちゃんと食べさせてあげればいいのにさ」
おかみさんたちは、毎週顔を見ていたみすぼらしい聖女の事を思い浮かべた。
日に焼けた痩せこけた顔で、いつもニコニコと愛想よく笑っていた少女が、少しでも幸せになれますようにと、神に祈った。
連続投稿します!