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26、そろそろ帰っていいですか (前編)

続きです!


オリエ・ラトランド公爵令嬢こと、芋野山(いものやま) 織愛(おりえ)がバルシリウム王国に召喚されてから、1年が経過した。


また一歩アラフォーに近付いた。

せめてまだアラサーと言われてる間に嫁に行きたかったけど、この調子じゃ無理そう。

ごめんね、みやぞん……。←彼ピ


豪華絢爛な王宮の王太子妃用の私室で、オリエはため息をついた。


聖女の待遇については改善できた。


ついでに神殿と王宮内の人事も一新した。


聖女に頼りきっていた軍部の改善は、現在、ゴーランと第二王子が取り組んでいる。


ローゼステスとの外交は王弟殿下が窓口になってくれて、話が少しずつ進んでいる。


農業や治水部門は、まだまだこれから切り込んで行かなければいけないが、聖女の力が安定している今なら、そんなに焦ることはない。


あとは王都だけではなく、各領地の問題点に向き合い、地力を上げていくのが重要になるだろうが、どれだけかかるだろうか。


帰りたい。切実に帰りたい。


『救国』が失敗すれば、日本には帰れないし、よく知らんナイスミドルの命も犠牲になってしまう。


しかし、しがない元コンサルOLには、やれることに限界があった。


果ての見えない異世界生活に、疲れも溜まってきている。


(これはもう詰んでいるのでは……?)


部屋着で、頭からベッドに突っ伏した。

このまま朝まで泣いてやろうかと思っていたら、


「オリエ様、よろしいでしょうか」


コンコンとドアがノックされた。

オリエ付きの侍女の声ではないが、聞きなれた声。


「王妃様がお呼びです」


王妃付きの侍女の言葉に、オリエはベッドからガバッと顔を上げた。


‡‡‡


「あなた、ゴーランについてどう思う?」


「ゴーラン様……ですか?頑張り屋さんで真っ直ぐな子だと思います。あの年で生え際が残念な傾向が見えるのは不憫ですが、ジェニファー嬢とは、某英国王子夫婦(長男(ハゲ)のほう)みたいになれたらいいですね」


顔を合わすなり王妃にいきなり聞かれて、オリエは若干面食らいながら答えた。


王妃は額をおさえて、「ああ、それはうちの血筋の男性の宿命だから……」と呟きながら、寝台に横たわる夫、国王の額に目をやり、押し黙った。

ブルース・ウィリスみたいでカッコいいんだけどな、外国人イケメンは得だな。


「じゃあ、マークス・エルロットはどうかしら」


「エルロット卿はよくわかんない人ですね。お仕事はちゃんとされる方です。王宮に勤めてる南部出身の人はだいたい武芸に秀でていて、頼もしいとは思いますが、訛り全開でワーッと喋られたら何言ってるかわかんないです」


「ニック・ポワゾンと王弟殿下は?」


「ポワゾン卿は慇懃無礼の化身みたいな人で、一緒に何かするたびヒヤヒヤしますわ。二級魔導技士としての腕は確かです、今年中には一級に昇級するでしょう。王弟殿下はゴーラン様の方が親しいですね」


「ダニエル・ゼイビスとサイモン・グレファスは」


「ゼイビス人事総監は、なんかもう水を得た魚のように仕事してますね。今まで相当うっぷん溜まってたみたいで。グレファス大司祭はとにかく数字数字の人で、不正には縁がないと思いますが、ちょっと緩和した方がいいかもです、下級司祭のためにも」


矢継ぎ早に質問してくる王妃に、オリエは率直な意見を答えた。

すると何故だか王妃はガックリして、うつむいた。


「嘘でしょう……?うちの王宮の粒揃いの殿方が揃っていて、ロマンスのひとつも始まっていないなんて……」


は?とオリエは顔色を変えた。


「ちょっと王妃様、前からアレだなと思ってましたけど、そういう話をこんな場所でしないでいただけますかね?」


「なによ!こんな場所だからしているに決まっているじゃない!」


王妃は癇癪を起こしたように、声を荒げた。


ここは王宮の裏側にある廃神殿で、通称『月の女神の館』の一室。


重々しい門扉に閉ざされ、旧い時代の聖女たちの足跡を残す重要な記念館といった佇まいだが、関係者以外の出入りは許されていない。


ここには聖女の裏の顔……今では禁術として封印されている様々な技法や、隠蔽してきたあれやこれやの資料があり、歴代の王妃のみが立ち入りを許される秘密の神殿であった。

『救世の乙女』の召喚も、この神殿の大広間で行われた。


この場所に仕える使用人はみな神殿付きであり、当代の王妃にのみ忠誠を誓う、ちょっと特殊な身の上だった。

ここであったことが外に漏れることは、まずないと言っていい。


「今の神殿と聖女の基盤となった神聖な場所で恋バナとか……バチが当たりますよ。ていうかさっき名前が上がった方々は、みんな既婚者か婚約者がいるでしょう?!何をサラッと不倫を薦めてるんですか、あなたは!」


オリエはぷんすこ怒った。

王妃はしおらしく拗ねながら、人差し指をいじいじする。


「だって、今までの『救国の乙女』は、だいたいこっちで伴侶を見つけて、永住したんだもの……織愛(おりえ)ちゃんもそうするかと思ったのに、ずっと元の世界に帰りたがってるし……」


は?当たり前では?

オリエは額に浮かぶ青筋の数を増やした。


問答無用で呼び出してこき使っておいて、何をおっしゃっておられるのか、この元聖女の王妃様は。


「ねえ織愛ちゃん、この国の男性と結婚して、ずっとわたくしの側に居てくれない?こんなに明け透けなくお話できたお友達って、織愛ちゃんが初めてなの。もちろん、待遇も王妃に準じる立場を約束するわ。ダメ?」


絶世の美貌で、うるうるおめめで上目遣いに囁いてくる王妃様。今までこれで乗り切って来たのだろう。


しかし、オリエが男で、王妃があと20歳若かったら成立したかもしれない取引も、アラサー女とアラフォー女では、全くの無意味だった。


「ダメに決まってます。絶・対・に・嫌・で・す。私は日本に帰るんです。さくさく救国してとっとと済ませたいんです、国王陛下のためにも。わかりますよね?王妃様」


誰がお友達だ。そんなものになったつもりはない。

いやぁんひどぉいとか嘆いているが、アラフィフすれすれアラフォーぶりっ子女上司とか、地雷以外の何者でもなかった。


(日本でもいたな、こういう人)


子持ちアラフォーでやけに若い格好をしたがる女性職員で、上司にいたこともあるし、パートや派遣で入ってくることもあった。

彼女らの共通点は「ひたすら面倒臭い」ということ。

ランチだトイレだと付きまとわれ、日々HPを削られていた忌まわしい記憶が甦る。


帰りてえ。心の底から帰りてえ。


「そうだ!第一王子がダメなら、第二王子はどうかしら?まだ婚約者がいないわよ!私似だから、おでこもそこまで壊滅的にならないかも!」


……ダメに決まってんだろ、第二王子まだ15歳じゃねえか。もはや親子と言っても差し支えない年齢差だよ犯罪だよ、何をナイスアイディア!みたいに言ってんだよコンチクショウ。


さすがに全てをそのまま伝えると、王妃付きの侍女たちの視線が剣呑になってくるので、オリエはひたすら「嫌です出来ません」「無理です出来ません」を繰り返すのみだった。


しかし、王妃の耳には入らないらしく、1人で何か盛り上がり始めている。


初めて会った時から、この王妃はこんな感じだった。


こちらの話を聞きゃしない。


こんな一方的な関係をお友達とか呼ばないでほしかった。


ダルい。ひたすらダルい。


これいつ退出許可出るのかなあ、救国に関係ない話ならもう部屋に戻って寝たいんだけど、とオリエがぼんやり思っていると、


「……そのくらいにしておきなさい、王妃よ」


その場にいないはずの、妙齢の男性の声がした。



できれば今日中にもう1話上げたいです。

間もなくフィナーレです。

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