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25、騎士団side & 市井side (その2)

続きです!


「……筆頭聖女様が戻ってきたらしいんだが」


王都の騎士団詰所で、何人かの騎士達がテーブルを囲んでいた。


テーブルの上には、ポーションがある。

……朱色のシール付きの。


「いや、でも、今は筆頭聖女様は二人いるんだろ?片方は前の筆頭聖女様だから、大丈夫なはずだろ?」


1人の騎士が、わざと明るい口調で言う。


「そうだ二人いる。……さて、これはどちらのポーションだと思う……?」


1人の騎士がそう答えて、明るくしゃべっていた騎士はスンッとなって椅子に座り直した。


ポーションのシールは聖女の階級ごとに色が違う。


聖女は『筆頭』『上級』『中級』『下級』に分かれ、それぞれ朱色(バーミリオン)草色(グラスグリーン)桃色(ピンク)、そして黄色(イエロー)になっている。


「二分の一の確率か……」


騎士たちの口調は重かった。


「いや、でもしかし、ラトランド公爵令嬢の話では、ポーションがあんなことになってたのは筆頭聖女様が体調不良だったからで、3ヶ月ローゼステスで静養されたから、もう大丈夫だって言ってなかったか?」


「言ってたけどさあ……確かに、筆頭聖女様が戻ってきてからも、雨の量や結界に異常は出てないけどさあ、今のところ……」


一同は唸った。


降水量は戻った。

結界も、魔物だけを寄せ付けないようになっている。


しかし、騎士たちのポーションに対するトラウマだけは、根強く残った。


「そこら辺の貴族ボンボン騎士に薦めてきてくれ」


「ダメっす……前回、ジンギスハム候爵の嫡男が箪笥の角に足の小指ぶつけて、朱色ポーション使った時に、光が10日間出続けて婚約者と破局してから、高位貴族はポーションの瓶を見るだけで逃げるようになったす……」


「ああ……あれは悲劇だったな……」


高位貴族をたくさん招いた侯爵嫡男と伯爵令嬢の婚約発表パーティーは、噂によれば虹色の光に包まれたという。


…虹色て。


どうやら侯爵嫡男は、筆頭聖女様がローゼステス送りになる直前のいちばんヤバい時期の朱色ポーションに手を出したようだ。足の小指程度で。


しかも騎士団詰所の物品庫から何本かこっそりくすねて、婚約パーティー直前に控室でポーションを飲んだらしいので、情状酌量の余地はない。


「俺だって、よりによって婚約パーティーの日に、身体中の穴という穴から虹色光線出してる婚約者に追いすがってこられたら、婚約破棄しますわ……」


騎士達は黙り込んでしまった。


結局、誰もポーションを使わないまま、月日は過ぎた。


しばらく後に、王都の一角の貴族の館で火事があり、大火傷を負った状態で救い出された家族に朱色ポーションを使用したところ、あっという間に全快した。


「効くは効くんだよなあ……病院に担ぎ込んでも助かるかどうかわからんレベルの患者には、まさに女神様の救いなんだけど」


「そっ、それでワシらは、いつまでこうなのでしょうか?」


ポーションで救われた家族の体の周りには、小さな泡のように光の粒が舞っていた。


「ご安心ください、10日も経てば消えます。人体に影響はありませんので」


宣告された家族は「10日……」と呟きながら帰っていった。


その後も朱色ポーションが使われることがあったが、効き目がほどほどで光も出ないタイプと、何らかの光の後遺症が出るタイプとがあった。


「これ、前者が先代筆頭聖女様ので、後者が……だよな」


しかし貼られているシールは同じく朱色だった。


騎士団はどちらの筆頭聖女作かわかるようシールの色を変えてくれと申請したが、前ほど実害がないということで却下された。


この事により、騎士たちは下手に重傷を負わないよう鍛練に励んだため、結果として騎士団の戦力増強に繋がったという。


‡‡‡


「こんにちわみなさん!神殿の慰問ですわ!」


ニコニコ笑う聖女が、街角に現れた。


「あら、あなた、王都に帰ってこれたの?」


「良かったわねぇ、あらあら、ずいぶん血色も良くなって!」


小神殿近くに住まう町民のおかみさん達が、わらわらと聖女の元に集まった。


3ヶ月前に神殿を追放されたガリガリの少女は、肉付きも良くなり、金色の髪もつやつやと輝いている。

聖女用の白い制服も、新しくあつらえてもらったのか、ノリが効いていてみすぼらしくないものになっていた。


「ご心配いただいて、ありがとうございます!ゴーラン王子殿下とラトランド公爵令嬢のご差配で、この通り元気になりました!」


ニコニコ笑う聖女は、とても幸せそうだ。


それを見て、おかみさん達はほっとした。

明らかに栄養不良の子供にぼろを着せて連れ回す司祭にも、それを許す王宮にも、彼女たちは不信感を覚えていたからだ。


「聖女様、飴ちゃんいるかね」


1人の老女が、包み紙に包まれた安い飴をひとつ差し出した。

おかみさん達はハッとする。

きっと以前のように、司祭が割り入ってきて「施しなどいらん!」と突っぱねるはず。


しかし、聖女は嬉しそうな顔で飴を受け取った。


「ありがとうございます!美味しそうですね!」


そう言って、ぱくりとその場で飴を口に入れた。


……それはそれで、危機感無さすぎなのでは……?毒とか変なもの入ってたらまずいのでは?


おかみさん達に戦慄が走っている間に、慌てて司祭が駆け寄ってきた。


「聖女様!」


ああほら、またあの子怒られるのよ……あのおばあさんも司祭にギャンギャン怒鳴られるわね……と身を竦めていると、やってきた司祭はずいぶん質素な格好で、前のようなでっぷりした体格ではなく、痩せ型の青年のようだった。


「ダメですよ聖女様、民からの寄進をその場で召し上がっては!寄進帳に記載してからにしてください!」


司祭は怒るには怒ったが、いつもと様子が違っていた。


「そこのご婦人!お名前と住所を!いまいただいたのは何飴?麦飴ですね、何gくらいですか?」


聞き取りしたことを細かく帳面に記載していく。


「ありがとうございました!神殿はいただいた寄進を大事にいたします!」


ビッと礼をしながら司祭は言ったが、大事にするも何も、あなたの隣の聖女様がお口でむぐむぐされてますけどね……。


おかみさん達は、「これはこれで面倒臭そうな司祭が来たなあ」と内心で思ったが、司祭に暴言を吐くのはご法度なので、表には出さなかった。


「この飴、美味しいですわあ」


モゴモゴいいながら聖女が笑ったので、見ていた者たちの心はふっと温かくなった。


聖女自身は気付いていなかったが、彼女が目に見えて健康そうになり、たびたび王子と公爵令嬢への感謝の気持ちを口に出すので、市井の人々の王宮と神殿に対する好感度はかなり上がった。


寄付額の少ない貧乏聖女を慰問に使い倒していた、威丈高な以前の司祭たちは、一般市民からも嫌われていた。


新しい司祭は役人のように市民と接するので、嫌われてはいなかったが、なんでも細かくメモを取るので、「あの人たち、ちょっと細かすぎてねえ……」と、好かれてもいない様子だったという。



麦飴は優しい甘さなので、過剰な糖分で腹を下すタイプの人でも大丈夫です!


続きはぼちぼち更新していきます!

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