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24、追放された聖女は、3ヶ月ぶりに祈りを捧げる

続きです!


数日後、ブラスト・パーツは、他の罪人たちと共に遠い開拓地へと送られた。


オッサンをケツから引き抜かれたり握りつぶされたりしてから、まるで別人のようにおとなしくなったブラストは、シンシアが何を尋ねても「はい」か「いいえ」しか答えなくなった。


「ド◯クエの主人公かよ」「人間、尻子玉抜かれるとこうなるんだな……」などとオリエがボソボソ言っていたが、シンシアには相変わらず意味がわからない。


「お兄様、お達者で……」


罪人を乗せた護送馬車が王宮から見えなくなるまで、シンシアはじっと見送った。


「リギンズ男爵領は今、王宮が遣わした代理人が治めています。ブラストは領民が困窮するような経営はしていませんでしたが、何せワンマンだったせいで、領内の支持率がかなり低い。その分、『筆頭聖女』であり、リギンズ男爵の正統な血を引く貴女なら、領民に受け入れられやすいでしょう。家督を継がれますか?」


マークス・エルロットと管財人にそう聞かれたシンシアは、首を横に振った。


「わたくしは、聖女の仕事しか能がありません。勉強もしてきませんでしたし、領地経営なんて無理ですわ。よろしければこのまま、領地と爵位を国王陛下に返上したいと思います。その上で、単なるシンシアとして、聖女のお務めを果たしたいです」


彼女の言葉に、二人の官僚は頷いた。

そして第一王子ゴーランの名において、全ての手続きは済まされ、シンシアは男爵令嬢ではなくなった。



「はじめまして、シンシア様。あなたと交代制で『筆頭聖女』を勤めるエヴァ・スーンよ。よろしくね」


聖女の館の大広間にて、シンシアはダニエル・ゼイビスと共に、他の聖女と顔合わせをした。


20代半ばくらいのエヴァ・スーンが手を差しのべてきたので、シンシアはどぎまぎする。


「は、はじめまして。シンシア・ヘイブンです」


貴族姓ではなく、母方の姓を名乗ることにしたが、まだ新しい姓には慣れない。


「聞いたわ、あなた貴族やめたんですって?私も『ロクシタン伯爵夫人』なんていう、うざったい称号をブン投げてきたとこなのよ!」


シンシアの手を握り、華やかに笑うエヴァ・スーンは、とても美しい人だった。


7年前の事件に対する賠償の一部として、神殿からロクシタン領に「売り飛ばされた」彼女は、夫人という称号だけ与えられ、小神殿で9ヶ月ほど飼い殺しにされていた。

本人はあまり語らないが、屈辱的な待遇だったようだ。


実情を調べてみれば、ロクシタン領に対する賠償金はほとんど司祭たちに横領されていた。

発覚後、全額速やかに支給されたが、それでも伯爵は聖女に対する恨み言を吐いた。

7年前に失った領土や領民は戻らないのに、と。


「ところで、ロクシタン伯爵家が当時、法律で定められていた軍備費を自分たちの遊興費や邸宅の造成費用に使っちゃってて、装備がすっからかんで魔物防げなかったってこと、領民にちゃんと通達してます?」


元聖女再雇用部隊隊長のニック・ポワゾンが笑顔でそう言うと、途端に伯爵家の人間の顔色が悪くなった。


同じ時期に結界が破れ、魔物が侵入した僻地でも、自前の軍隊で退けた領地があったのだ。


だが、ろくに軍隊を揃えていなかったロクシタン領は、伯爵邸がある西部を守るのが精一杯で、東部は見捨てざるを得なかった。

それを全てを神殿と聖女の怠慢のせいにして、責任逃れしていたのである。


指摘されたことで今さら恥じたのか、賠償金を受け取った後、伯爵家は黙ってエヴァを王都に帰した。


領地には監視人を残しておいたので、今度こそ賠償金は正しく被害者に分配されることだろう。


晴れて自由の身になったエヴァは、それでも聖女を続けると言ってくれた。


待遇が改善されて、平民としてはなかなかおいしい仕事になった聖女を辞めることなく、将来はお金を貯めて小さな家を構えたり、小料理屋を開いたり、できたら結婚もしてみたい、と彼女は語った。


「ふふ、1年前はこんなことになるなんて、夢にも思ってなかったわ。聖女は国家の奴隷だと思ってたから。……あの変わり者のラトランド公爵令嬢が来て、何もかも変わった。使い捨てだった私たちに、ようやく居場所が見つかったのよ」


エヴァは晴れやかな笑顔を浮かべた。

聖女が将来の夢や希望を語るなんて、今まででは考えられないことだった。


彼女の他にも、ここで働いて行こうと決意した聖女がたくさんいて、みなそれぞれ、これまでの悲惨な境遇を嘆き、これから先の未来に期待していることを語った。


(……ああ、神殿は、聖女は、本当に変わったのですね……)


シンシアはその光景を眩しそうに眺めた。


司祭たちも変わった。


ホルン・ダンスト大司祭を始め、聖女予算を食い物にしていた司祭はまるごと失脚。悪質と見なされた場合は、咎は一族郎党に及んだ。


新しく大司祭におさまったサイモン・グレファスは、ダンスト一派に追いやられていた信仰に重きを置く派閥で、聖女を尊重し、天文学や教典の守護に努めていた。


経文の一節も暗唱できないような生臭坊主だらけだった神殿を、一新してくれることだろう。


シンシアは久しぶりに正神殿の祭壇に立ち、太陽神と月女神の神像を見上げた。


シンシアがいない間も、掃除はきちんとされていたようだ。

久しぶりに見たことで、よくこんな広い祭壇を自分ひとりで毎日掃除していたなと客観視できた。


今でもやれと言われればできるし、聖女としての心映えを思うなら、した方がいいとは思う。


確かに聖女の待遇は良くなったが、それによって増長したり、勘違いする輩も出て来るかもしれない。


忘れてはならない……聖女とは、神からその力を託された者たちだということを。


神からの信頼を裏切り、背徳的な思想に陥れば、必ずや神罰は下るだろう。


(今までは、過剰とはいえ、司祭たちが全てを監視し、管理されてきた。でもこれからは、己のことは己で律しなければ)


むしろ、聖女はこれから神に試されるのかもしれない、と思った。


傲慢にならず、怠惰にならず、日々神に感謝し、恵みが人民に行き渡るように祈る。


「お父様、お母様。どうかわたくしを、正しくお導きくださいませ」


シンシアは祭壇の前にかしずき、祈りの姿勢を取った。


3ヶ月ぶりに帰参した『筆頭聖女』を歓迎するように、神殿は静謐な神気に満ち溢れた。



だいぶ修まってまいりました!

なるべく更新します!

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