表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/31

22、ボーン・トゥ・ザ・アス(前編)

お待たせしました!

再開します!


「兄と、会います」


そう答えたのは、シンシア自身だ。


「シンシアっ!この恩知らずがぁ!12年も無駄飯喰わせてやった恩を仇で返しやがって!!お前なんか殺しておけば良かったんだ!!あれっぽっちの遺族年金のために、お前みたいなクズを生かしとくこたぁなかったんだ!!」


……会うなり『クズはテメーだよ』と切り返したくなる罵詈雑言を飛ばしてきたのは、その兄、ブラスト・リギンズであった。


いや、正確にはブラスト・パーツか。


「「◯◯ばつんごってやりもんそか?」」

「◯◯をへし折ってやりましょうか?」


地下牢に付き添ってくれたマークス・エルロットとアンヌ、オリエが見事にハモったので、シンシアは首を真横にブンブンと振る。


※◯◯にはお好きな言葉を入れてください。


シンシアが聖女に選ばれ、ローゼステス国のステイシア施療院に送られてから半月後、王宮の調査により、リギンズ領主・ブラストの不正が発覚した。


追い討ちをかけるように、ステイシア施療院から『シンシア・リギンズ男爵令嬢の虐待の痕跡について』という報告書が送付され、更に罪は上乗せされた。


「お兄様……」


すえた匂いのする地下牢は、明かり取りの窓すらない。


薄暗い鉄格子の奥、鎖で両足を繋がれ、やつれた顔で目だけらんらんと輝かせながら罵倒を続ける兄は、とても話が通じるようには見えなかった。


そう、シンシアが今何を言っても、兄の耳には届かないだろう。


シンシアはため息をついた。


「……オリエ様。わたくし、オリエ様の言いつけを守って、ずっと『聖女の祈り』を捧げることを封じてきました」


「……シンシア様?」


ブラストに対して青筋を浮かべていたオリエが、シンシアの呼び掛けに反応する。


「……わたくしが今、お兄様にできることは、『聖女の祈り』ではありません……お兄様が心の平穏を得られるように『願う』こと、ただそれだけですわ……」


『聖女の祈り』は、術式が決まっており、ある一定の奇跡を行うためのものだった。


豊穣の雨を降らせたり、国境に外敵を阻む結界を張ったり、怪我人を癒したりポーションを作ったり。


それらは国家のための技術で、魔力もかなり使う。


対して、『願い』は、魔力を消費しない。

この世に生まれ落ちた人々全てが、朝な夕なに捧げる、単純な祈りそのものだ。


通常であれば誰にも咎められるはずのない行為も、魔力が人より高いシンシアが行えば、何かしら奇跡に近いことが起きてしまうらしい。


『聖女の祈り』に比べればかなり威力は低いが、ローゼステスの王都に起きたことを思えば、慎重にならざるを得ない。


……ましてや、刑の確定した罪人に対して行うとなれば、なおさら。


シンシアは胸の前で手を組み、オリエを見上げた。


「許されましょうか?オリエ様。兄のために『願う』……祈ることを」


切なげに聞かれて、オリエはぐぬぬと唸る。


「こんな底辺野郎のために、シンシア様がそこまでしなくても……ああっ、でもシンシア様なら、兄君にそうしますよね…………仕方ない、許します、許しますよ……」


さも不満ですとばかりに歯をギリギリと食い縛りながら、オリエは許可を出した。


「ありがとうございます!」


ふわりと笑って、シンシアは兄に向かって両手を合わせ、跪いた。


そしてそのまま、願う。

彼の心に、安寧が訪れますように。

刑が執行され、開拓地に送られた後も、体に気をつけて、健やかにすごせるようにと。


(わたくしは、怠惰でしたわ。全てから目を反らして、何も考えず……わたくしは、傲慢でしたわ……自分さえ我慢していれば、全てうまくいくと信じて、何もせず)


その結果がこれだ。


シンシアが声を上げていれば、何かが変わったかもしれない。


逃げるばかりでなく、兄と向き合えていれば。


……そうすれば、自分も兄も、もっと違う形で助け合えたかもしれないのだ。


「己が為したことならば、お仕置きを受けねばなりませんね……」


シンシアが呟いた。

すると、彼女の体が真っ白な輝きを放ち始めた。


「これは……?!」


オリエが怯んで、マークス・エルロットがオリエとアンヌを庇うように前に出る。


輝きはどんどん強くなり、やがて真っ直ぐな一条の光となって、ブラストに注がれ――――


…………そして、地獄が始まった。



もう1話上げます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ