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21、イケメン3人と面談しました

続きです。

コメディ……?


ローゼステスから来た兵士たちを見送るセレモニーに参加した後、シンシアはゴーランとオリエと一緒に昼食を取った。


シンシアに合わせて、カリフラワーとブロッコリーのテリーヌ、川エビを使ったシンプルな蒸し料理といった、簡素なメニューだった。


食後、ゴーランは所用で席を外し、場所をティールームに移して、シンシアはオリエと共に、三人の青年と引き会わされる。


「初めまして、シンシア・リギンズ男爵令嬢。私はダニエル・ゼイビスと申します、お会いできて光栄です」


「同じく、初めまして。マークス・エルロットです」


「ニック・ポワゾンだよ、よろしく!」


「は、初めまして、シンシア・リギンズと申します」


シンシアは初めて会う紳士たちにちょっと気圧されながら、挨拶を交わした。


(なんといいますか……ゴーラン王子殿下もそうですが、皆様たいへんに見目がよろしいですわ……目がチカチカしますわ)


「それじゃあ、まず僕からだね。リギンズ男爵令嬢、3ヶ月前も測ったけど、もう一度この水晶球に手を置いてもらえる?」


ニック・ポワゾンが計測用の水晶を取り出して、テーブルに置いた。


シンシアは「わかりましたわ」と答えて、水晶に触れる。

すると、透明な球体はわずかに色を変えて激しく発光した。


「すっごい!3ヶ月前より、明らかに魔力量が跳ね上がってる!やはり長年の過酷な生活で、リギンズ男爵令嬢の魔力回路が損なわれていたんだね。うん、ローゼステスでの療養のおかげで、状態異常もばっちり回復してます!」


ニコニコと笑いながらニック・ポワゾンが言う。


「え?わたくし、状態異常だったのですか?」


「そうだよー、『肉体疲労』『不眠』『栄養失調』、あと『洗脳』とかね、大変だったんだよ!ラトランド公爵令嬢に頼んだらすぐに施療院行きを提案してくれて、ほんと良かったー」


「『洗脳』ですか……」


シンシアは思わずうつむいた。

オリエが心配そうに彼女を見る。


ニック・ポワゾンは王弟の息子だ。

王弟が若い頃、身分を隠してローゼステスの医療学校に留学していた時、現ステイシア施療院長と知り合った。

そのツテで、シンシアを任せることができたのだ。


「シンシア様の他にも、状態異常が出るほど疲弊していた聖女には、1ヶ月以上静養してもらいましたわ。……こういう時、『聖女には癒しの奇跡が効かない』というのはネックですわね……」


オリエはうーんと唸った。


「まあまあラトランド公爵令嬢、今後はこの水晶球の複製を聖女の館に設置して、専門職員も派遣しますんで、聖女の体調管理にお使いください。聖女は我が国の宝ですので!」


ニック・ポワゾンは終始笑顔だった。

彼はシンシアの計測結果を今日中に提出しますね!と朗らかに笑いながら、ティールームを出ていった。


「次は私ですね、シンシア嬢、新しくなった聖女の労働条件と、給与について説明しますので、同意書にサインをお願いします」


ダニエル・ゼイビスは、そう言いながら何枚かの書類をシンシアの前に出した。


「……ひぃぃっ!そっ、そんなに手厚くしていただいて、本当によろしいんでしょうかっ?」


内容について説明されるたび、シンシアは目を丸くした。


どの話も、3ヶ月前には考えられないことだった。


そもそも聖女に給料はないし、休みなど存在しない。

朝から晩まで働き詰めで、誰に誉められることもなく、毎日、国境の結界の維持に努め、国民に奉仕する。


そういうものだと思っていたので、給与は月一回、季節の賞与は年二回、週休1~2日、夏期に長期休暇を与えますと言われても、ピンと来ない。


「正当な報酬です。これまでがおかしかったんです。神殿で貴女方聖女を搾取していた司祭は全て更迭しました。これを機に、旧態依然だった王宮の体制を改めたのですよ」


ダニエル・ゼイビスは口元に笑みを浮かべる。

人によっては、その笑みに闇を感じたかもしれない。


彼はずっと『上層部に従順な部下』として過ごしてきた。


そして今の地位に就いた。人事部のトップに。

改革を成し遂げることのできる立場に。


このタイミングで同じ思想を持つラトランド公爵令嬢が月の女神の(きざはし)に立ったことは、彼にとって僥倖だった。


「では明日、他の聖女と顔合わせがてら、シフトの打ち合わせをしましょうね」


シンシアが魂を売るかのごとくの表情で、書類にサインを済ませると、ダニエル・ゼイビスはウィンクをして席を立った。


アラフォーイケメンパワーが炸裂して、シンシアは思わず目をつむってしまった。


残るは、マークス・エルロットだけ。


前のふたりに比べて、明らかに剣呑なオーラを漂わせている彼に、シンシアは少し緊張した。


「さて、あなたのお兄様について」


マークス・エルロットは、片眼鏡をハンケチで拭いながら話し始めた。


「こういった罪状で、現在、王宮の地下牢に収容されています。お会いしますか?」


ヒラリと置かれた書類に目を通して、シンシアは驚愕した。


「公的書類偽造、身分詐称、脅迫、シンシア・リギンズ男爵令嬢への、虐待の、罪……?!」


シンシアは唇をわななかせた。


虐待。


言われてみればそうなのだろう。


5歳で両親が亡くなってから、兄のブラストはシンシアに辛く当たった。


ノロマ、グズ、不細工、役立たずと罵り、事あるごとに鞭を振るった。


シンシアは痛みと叱責に耐え兼ね、ひたすら兄の機嫌を取った。


ろくな教育も受けさせないくせに、言葉遣いが悪い、品がないと責め立てるので、シンシアは月一回の礼儀作法の教師について、必死に学んだ。


17歳の誕生日に、しぶしぶ行かされた教会の聖女測定で、近年まれに見る数値を出して神殿に招かれることになった時も、罵声を浴びせながら鞭を当ててきた。


――いいか、お前は聖女くらいしか能がない、役立たずなんだ。いい気になるなよ、他になにひとつまともにできないから、仕方なく聖女をやるしかないだけなんだからな。二度とこの家に帰ってくるな、穀潰しめ!!


シンシアは兄の言動を思い出して、ぶるりと身を震わせる。


「シンシア様、無理に会わなくてもよろしいのですよ。罪状は明らかで、弁護のしようもありません。彼は罪を償うために、この後、開拓地に送られ、強制労働に従事することになります」


オリエはシンシアを気遣った。

もう裁判は終わっており、今さらシンシアが判決を覆すこともできない。


マークス・エルロットは、黙ってシンシアの様子を窺っている。


「……この、身分詐称というのは……?」


他の罪状は、あの兄ならやらかしそうなので、今は問わなかった。


「彼は貴族の血が一滴も流れていないことを隠蔽し、不当に男爵家当主を名乗っていたのです。リギンズ男爵領の正当な後継者は、シンシア・リギンズ男爵令嬢、貴女です」


端的に答えるマークス・エルロットに、シンシアは目を見開いた。


「お兄様は、クロフ男爵のご子息では?それに、リギンズ家の養子として受け入れられていたのでは」


「いいえ。貴女のお母様と、平民の男の息子です。クロフ男爵もリギンズ男爵も彼を養子にしていません。ブラスト・パーツという単なる平民に過ぎない」


シンシアはその答えに、押し黙るしかなかった。



次回からはっちゃけます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 僥倖とかの難しい漢字にはふりがなを振って頂けると読みやすいです。 あと訛りのときも()で何を言ってるかその下に書いて貰えると助かります。
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