20、帰ってきたらいろいろ変わっていてびっくりしました
続きです。
なんか長くなってきました…
シンシアが帰国してすぐ、ローゼステスからの派兵団との簡素な交流パーティーが開かれた。
第一王子ゴーラン、その婚約者オリエ・ラトランド公爵令嬢はシンシアを歓迎し、オリエに至っては泣きながらシンシアに抱きついた。
「シンシア様ぁ、良かった、すっかりお元気になられて……!ぶええ、良かったああ!!」
完全に面食らった状態のシンシアから、ゴーランが苦笑しながらオリエを引き剥がした。
「ウッウッ……シンシア様のお力には、この国の未来がかかっていたのですよ……回復されて何よりです……!」
ハンカチで鼻をかみながら感激するオリエに内心ドン引きしつつ、シンシアは姿勢を正した。
「オリエ様。ゴーラン第一王子様。この度はわたくしを治療のためにステイシア施療院に送って下さって、誠にありがとうございました。おかげさまでこの通り、すっかり回復いたしましたわ」
シンシアは頭を深々と下げてお礼を言う。
「礼には及ばん。我が国の国益のためにしたことだ。……むしろ、礼を言うのはこちらの方だ、リギンズ男爵令嬢」
ゴーランの言葉に、シンシアは顔を上げた。
「わたくし、何かしてしまいましたか……?」
不安げにシンシアが聞くと、ゴーランは武骨な笑みを浮かべる。
「そなたがローゼステス王国との友好の架け橋となってくれたおかげで、閉ざされていた我が国の外交が、開けたものになりそうなのだ。国王代理として礼を言おう」
そう言ってゴーランが軽く礼をしたので、シンシアはいよいよもって竦み上がってしまった。
「そんなっ!お、おやめください王子殿下!王族の方にそんなことをさせてしまったなんてお兄様にバレたら、鞭打ち50回の罰を受けてしまいますわああ!」
青くなって慌てるシンシアに、ゴーランとオリエは表情を曇らせた。
「あの、よいですか、シンシア様。後で、そのご実家のお兄様について、お話ししたいことがあります」
眉をひそめて話すオリエに、シンシアはきょとんとしてしまった。
「さあ、まずはローゼステスからの賓客をねぎらい、我が国最高の聖女が無事戻ったことを祝って、乾杯をいたしましょう。皆様、杯を!」
この国の宰相であるラトランド公爵が、杯を高く掲げた。
主賓であるシンシアにもグラスが配られる。中はワインではなく、ブドウジュースだが。
「両国の輝ける未来に!乾杯!」
乾杯!!とホールの中に声がこだまして、パーティーは穏やかに始まった。
‡‡‡
「ええっ、今日からここに住むのですか……?!」
パーティーのあと、出国前に居住していた神殿の仮眠室に戻ろうとしたシンシアは、女官に手を引かれて、リフォームされた聖女用の屋敷に連れてこられた。
そこは、寄付額の高い富裕層の令嬢が暮らしていた部屋を仕切り直し、いくつかに分けた部屋だったが、シンシアにしてみれば、豪華すぎるしつらえだった。
「ひぃっ、ベッドがきちんとありますわ!クローゼットに、ドレッサーに、ティーテーブルまである……!ま、窓にカーテンがありますわ?!あ、アンヌ様、ここはどこかの裕福なご令嬢のお部屋なのでは?!」
慌てたシンシアが女官のアンヌに聞くと、にっこりと笑顔で返された。
「間違いございませんわ、シンシア様。ここは貴女様のお部屋です。あれから王宮は変わったのですよ、いろいろと」
シンシアが目を白黒させているうちに、アンヌはシンシアのパーティー用の服装を部屋着に改めた。
「ひぃぃっ、備え付けの温かいお湯の出る浴槽がありますわあああ!!」
「ひぃぃっ、クローゼットにキレイなお洋服がたくさん並んでいますわああ!!」
「ひぃぃっ、寝間着がレースですわああ室内履きスリッパが可愛いですわああ!!」
ローゼステスの兵士たちとのパーティーのしたくは、王宮のゲストルームを使わせてもらったため、湯浴みや着替えはそちらで済ませていた。
シンシアは、どうせ神殿に戻れば前のような質素な暮らしに戻ると思っていたので、あまりの待遇の良さに、すっかり面食らっていた。
「お風呂は、ご希望でございましたら一階にある大浴場もご利用いただけます。夕方4時から夜9時まで、いつでもご自由にどうぞ」
「かっ……変わりすぎです!!変わりすぎですわ聖女の館!!理解が追い付きませんわ?!」
そんな風に騒いでいたシンシアだったが、アンヌがベッドに入るように促し、部屋の灯りを消すと、あっという間に眠りに落ちた。
長旅の疲れが出たのだろう。
‡‡‡
翌朝、夜明け前に目覚め、さっそく神殿の掃除に行こうとした所を、アンヌに止められたシンシア。
浴槽のある小部屋で、冷水により身を清めたあと、礼拝用の白い制服に着替えようと全裸のままクローゼットを漁っていたら、笑顔のアンヌが入室してきたのだ。
「シンシア様、昨日、1日のスケジュールの説明をさせていただいたはずですが?」
笑いながら怒る人みたいになっているアンヌに、シンシアは小さくなってスイマセンと謝るしかできなかった。
自分でやりますわ!というシンシアの抵抗むなしく、部屋着に着替えさせられてしまう。
せめてもと、日が昇る前の紺色の空に向かって、祈りを捧げる。
朝6時、アンヌに連れられ、シンシアは1階の食堂に行った。
厨房では既に湯気が上がっており、A朝食とB朝食を選ぶことができた。
Aは玉子と麦粥、Bはたっぷり野菜スープと黒パン。
お茶と水は飲み放題だった。
「……メニューは日替わりなのですか……?こ、こんな、自由に朝食が取れていいのでしょうか……?」
見れば、食堂のあちこちで聖女たちが食事をしている。
中には見たことのある聖女もいたが、筆頭聖女であるシンシアは、主に単独で職務に当たっていたので、顔見知り程度でしかない。
ただ、気が付いたことは、どの聖女も、3ヶ月前より生き生きとしていて、近い席の聖女同士で笑いあったりしていたことだった。
(食事中に喋ると司祭様の叱責が飛んできますのに)
そう思ってシンシアがキョロキョロまわりを見渡しても、監視している司祭の姿はなかった。
「どうぞ、A朝食とお茶です」
アンヌがトレイを持ってきて、シンシアの前に置いた。
温かい玉子粥から、ふわりとブイヨンとハーブの良い香りが立ち上る。
アンヌはB朝食にしたようだった。
黒パンをちぎってスープに浸している。
「昨日もお伝えしましたが、今一度、お食事を召し上がりながらお聞きください。本日いっぱいまで、シンシア様の聖女のお仕事はお休みです。朝10時になりましたら、ローゼステスの兵士の方々をお見送りし、お昼は王宮で王子殿下とラトランド公爵令嬢と昼食。その後、お二方からお話があります」
アンヌの話を聞きながら、はふ、と麦粥を口にしたシンシアは、目を見開いた。
「嘘でしょう……匂いだけでなく、味まできちんとついていますわ……!麦も、真っ黒いのや砂利が混ざってませんわ!美味しいですわ!」
アンヌは目を細めてシンシアを眺める。
その時アンヌの思ったとおり、その日一日中、シンシアは「ひぃぃっ!」「ありえませんわ!」を連呼していた。
「むぜじゃっどん、少し面倒なしじゃなあ」
彼女はぽつりと呟いた。
全何話になるかわからなくなってきました…
最後までお付き合いいただければ幸いです…!