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19、聖女の帰還

少し内容修正しました。


「シンシア嬢。お国からは、可能ならばあと3ヶ月ほど貴女様を我がステイシア施療院に預けたいとの伝達がありましたが、よろしかったのですか?」


「はい。この通りすっかり元気になりましたわ。皆さんに大変良くしていただいたおかげです。わたくしは国に帰り、聖女としてのお務めを果たしたいと思います」


まぶしいほどの笑顔で、隣国から来た少女は答えた。

セラニー女医は、思わず立ちくらみを覚えてしまう。


この笑顔が、近日中に見られなくなってしまうなんて!


今まで、数多の神々や精霊の加護持ちの患者を治療してきたが、こんなにも胸キュンしたのは初めてだった。


しかし、医者がひとりの患者に入れあげるのは御法度である。セラニー女医はなんとか己を保った。


「……名残惜しいですが、わかりました、シンシア嬢。明日から帰国の準備に取り掛かりましょう」


「はい!3ヶ月間、誠にありがとうございました!」


シンシアは最初の2ヶ月を身体と魔力の回復に全振りし、残り1ヶ月は落ちた筋肉と体力の補強に費やした。


結果、彼女の身長はこの3ヶ月で3センチほど伸びた。


体つきもしっかりして、マッチ棒かつまようじとしか形容出来なかった手足もほんのりと肉付きが良くなり、ボサボサだった金髪も、なめらかな金糸の束の如く美しい光沢を取り戻した。


見違えるほど健康そうになったシンシアに、セラニー女医は目頭が熱くなった。


「辛くなったら、いつでもまた当施療院へお越し下さい。大歓迎しますわ」


「はい!必ず、また皆さんのお顔を見に参りますね!」


にこーっと、本日最大の笑顔が爆発する。


ああー、天使!天使がここにいるゥ!と、セラニー女医やナースメイドたちは、思わずシンシアを拝んだ。


‡‡‡


それから5日後、シンシアの帰還の準備が整った。


ステイシア施療院のスタッフに見送られ、シンシアは帰国の途についた。


ここからバルシリウムに帰るには、運河を船で丸1日下り、陸路に切り替えて更に2日かかる。


シンシアの乗る船は、ローゼステスの王族が手配した。

具体的に言うと、メリアラ王太后(60歳)の指示だった。


なんでも、シンシアが早朝に感謝の祈りを捧げるようになってからこっち、あれほど頑固だった偏頭痛がすっかり良くなったそうだ。


他にも体調が良くなった者が多数いたそうで、原因を突き止めた王宮の御典医は、隣国の聖女の力を誉め称えたという。


王宮でこれなら、その恩寵は王都全体に影響したであろう。


王家はシンシアに褒章を取らせようとしたが、彼女は聖女として請け負った仕事ではないので、と固辞した。


それならばせめて、と帰りの旅費を負担させてほしいと申し出たのを、バルシリウム側が了承した形だった。


「わぁー、この船速いですわあ!それに、全然揺れません!」


運河を渡る船上にて、シンシアははしゃいだ。


ローゼステス王家御用達の船は、乗り心地最優先の作りだった。


「この船ならば、明日の早朝には下流の船着き場に到着しますね」


はしゃぐシンシアを微笑ましく見つめながら、バルシリウムからついてきていた女官のアンヌが告げた。


「ふふ、あっという間に国についてしまいますわね」


シンシアは河岸の風景を見ながら言った。

その顔は少し険しかった。


(また一日中神に捧げる日々が始まりますわ。でも、わたくしは変わったのです。これまでのように、黙って言いなりになったりしません。……そう、訴えることはたくさんありますわ!麦粥のお椀をもう少し大きくしてほしいとか、ウメボシは毎回つけてほしいとか!)


彼女が決意も新たに気合いを入れていると、船に振動が走った。


「なんですの?」


さすがにローゼステスの船は傾くこともなく走行を続けたが、見れば、違う国籍の船が、この船に取り付こうとしているようだった。


「ははあ。シンシア様の評判を聞き付けて、警備の薄い船上で拐かそうって寸法ですか」


アンヌが低い声で呟く。


正直な話、こうなることは予測されていた。


陸路に入ってしまえばある程度安全は確保されるが、運河上は多国籍の船が行き交う。


賊が狙うとしたら、船上か船着き場。


滅多に国外に出ないバルシリウムの聖女は、7年前に魔獣による大きな被害を出したことで、他国からの信頼を失っていた。


しかし、シンシアが滞在した3ヶ月で、彼女がローゼステス王国王都に起こした奇跡は、口コミで近隣諸国に広まっていった。


「どうやら、今あの国にいる聖女は使えるようだ。ならば、ぜひ我が国にも寄っていただこうではないか!」と、良からぬことを考えた連中がいる。


アンヌはふふっと笑った。というか、嘲笑った。


「あまりやんな。甘う見ちょっと、痛か目を見っじゃ。あて達ん大事な聖女様を、あたたちんようなびんてん悪か人間には渡しもはん」


南国訛りの強い言葉で呟く。彼女は某査問室長と同郷だった。


シンシアを船室に避難させ、バルシリウムとローゼステスの護衛兵たちは戦闘態勢に入る。


謎の国籍の船のごろつきたちは、下卑た笑い声を上げながら、こちらの船に取り付くために、再び距離を近づけてきた。フックのついたロープが、何本も船目掛けて飛んでくる。


……彼らには、ローゼステス王国正規軍の印の付いた帆柱が見えないらしい。


医療大国とはいえ、運河沿いの国家として、ローゼステスは軍備を整えることを怠らなかった。


このごろつきどもは、よほど自分に自信があるか、単なるバカかどちらかだろう。


「バルシリウム並びにローゼステスの(つわもの)たちよ!不埒な輩を一掃せよ!」


「応!!」


隊長の檄が飛ぶと、船上の戦闘が始まった。



……そうして、シンシアが耳をふさいでじっとしてる間に、厄介事は全て済んだ。


そのあと、また別のごろつきがシンシア誘拐に乗り出してきたが、こちらも瞬く間に制圧。


一行は無事に旅を続け、予定より早めにバルシリウムに到着したのだった。


3日ほどの旅程だったが、ローゼステス軍とバルシリウムの護衛は親睦を深め、これ以降、両国は深い友好関係で結ばれる。


聖女を擁する王国と医療大国の連係は、大陸全体に大きな影響を与えるようになるのだが、それはまた別の話である。



もう少し続きます!

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