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18、先代の聖女

すいません遅れました…

ちょっと重い話になります


「えっ、シンシア様が帰国されるのですか?」


正神殿視察中にて、オリエ・ラトランド公爵令嬢は、侍従から報告を聞いて声を上げた。


「お身体はもう大丈夫なのですか?あと3ヶ月くらいゆっくりしても良かったのに」


オリエは心配そうな顔をした。


ローゼステス王国に送る直前の、ギリギリでボロボロな様が思い起こされる。


「ステイシア施療院のセラニー医師からの報告書によりますと、お身体の方はすっかり良くなったとか。何より、ご本人が早く聖女に復帰したいと強く希望されているそうです」


侍従が封書を差し出した。


中には確かに、治療は完了しましたとの医師の診断書が入っていた。


「……あの歳でワーカホリックか……いや、彼女の場合は、まわりの環境がそういうふうにしてしまったのね」


苦笑いしながら、オリエは封書をしまい、侍従に渡す。


「あら、当代の『筆頭聖女』が戻るのなら、私はもう用済みではないの?」


軽やかな女性の声がした。


そこには二十代半ばといった容姿の貴婦人が立っていた。


エヴァ・ロクシタン伯爵夫人。


シンシアの先代の『筆頭聖女』である。


結婚に伴い引退した彼女を再雇用したのは、ニック・ポワゾン二級魔導技士である。


彼はオリエの意図を正確に理解し、力のある元聖女に対して、積極的に再就職の勧誘を仕掛けた。


そのおかげで、かつて聖女再検査会場で放った言葉「お母さんでもおばあちゃんでも聖女」が実現しつつある。


現在の最高齢聖女は86歳のマギー婆さんだ。

(なんかもう聖女というよりは魔女ぽくなってたが)


「ロクシタン伯爵夫人。せっかく先代の『筆頭聖女』をお呼び立てしたのですから、そう簡単にはお帰しいたしませんよ。貴女には、シンシア様とふたり体制で、トップを張っていただきます」


オリエはそう言って、シフト表の草案をロクシタン伯爵夫人に見せた。


夫人は興味深そうに見る。


「聖女の分業制度、ね。なるほど、これなら高位能力者が潰れた時の下支えになるわね」


オリエはニヤリと笑った。


さすが元筆頭聖女、わずかな麦粥でこき使われた彼女には、このシステムの有用性が理解できたようだ。


エヴァ・ロクシタン伯爵夫人は、元は貧乏騎士爵の末娘だった。


14歳で聖女認定を受け、父親の所属する辺境警備隊近くの田舎から、王都に召し出された。


もちろん寄附するお金はなかったので、最低の待遇だった。


「それでも12年前はまだ良かったわ。聖女の数も多かったし、前回の魔獣大量発生(スタンピード)の記憶も今ほど色褪せてなかったから、上層部の方で聖女の重要性を理解してくれていた」


神殿の司祭たちがおかしくなったのは、8年前、当時のトップが高齢のためにごっそり抜けて、いわゆる団塊の世代的な層に入れ替わってからだ。


彼らはコストダウンコストダウン騒ぎだした。


「効率的な神殿運営」の名のもとに、まず削ぎ落とされたのが、聖女に関わる経費だった。


「あいつらあったまおかしいのよね。卵を増産しよう、でも鶏の数もエサも減らそう!って、簡単な算数もわからないのかしら?って」


昔は少しでも聖女の資格(スキル)を持っている女子は、問答無用で聖女に召し上げられていた。


しかし、経費削減のために、力の低い女子は見て見ぬふりされた。


その代わり、力はなくても寄附金を高く積む女子は、厚待遇で受け入れる。


力の強い聖女を何人か確保して使いまわし、他は体裁を繕うために頭数さえ揃っていればいいという考えで、状況はどんどん悪くなった。


「7年前の東ロクシタン領の魔獣被害は、私ともうひとりの上級聖女が、灰熱で一週間寝込んで、国境の結界が弱まってしまったのが原因よ。この国は長いこと聖女の結界に頼っていたから、魔獣との闘い方なんて忘れてしまっていた……」


淡々と語るエヴァ・ロクシタン伯爵夫人の瞳は、ここではないどこかを見ているようだった。


オリエは口を差し挟まず、無言で話に聞き入る。


……魔獣の群れにより、東西に長く伸びたロクシタン領の半分は、壊滅的な被害を受けた。


神殿は実情を隠蔽し、聖女たちの怠惰と傲慢により、神の寵愛が薄まったのが原因だと主張。


聖女に対して、より厳しい制限をかけ始めた。


「灰熱は、灰麦のカビが原因で起こる熱病ね。あの頃、私たちみたいな待遇の悪い聖女には、灰麦のパンが支給されてた。……さすがにあの後、すぐふつうの麦粥に変更になったけど」


ふふっと夫人は笑った。乾いた笑いだった。


「私たちの俸給は、ロクシタン領への賠償に充てるとかで、その月からゼロになったわ。以降、6年間ずっとそのまま。……で、ある日突然、次の筆頭聖女が見つかったから、債権の一部として私をロクシタン伯爵に降嫁させることが決まった、って言われたの」


伯爵夫人といっても名ばかりだった。


伯爵にはすでに正妻も子もいる。


彼女はロクシタン領の小神殿に半ば軟禁され、伯爵や領民のために聖女の力を使う暮らしを余儀なくされていた。

癒しの奇跡を使っても、領地の半分を失った原因とされている聖女に対して、伯爵も領民も、心を開くことはなかった。


「……ねえ、ラトランド公爵令嬢。私のお願いを聞いてくれる?」


ロクシタン伯爵夫人が問うた。


「何なりと」


オリエは答えた。


「……もう、聖女をあんな辛いめに遭わせない、って約束して。聖女というだけで、ぼろくずみたいに使い捨てにされたり、駒みたいに好きに扱われたりしないようにしてほしいの」


お願い、という小さな呟きは、震えていた。


オリエは彼女の手を握り締める。


「その願い、確かに承りました。……お任せください、わたくしはそのためにこの国に来たのですよ?」


力強く語りかけると、ロクシタン伯爵夫人……旧姓エヴァ・スーンは、震えながらうつむいた。


そのあと、オリエはエヴァをソファーに座らせ、温かい紅茶と茶菓子を供し、これから始まる新しい聖女制度のことを熱く語って聞かせた。



ここに◯◯します!と具体的に書くとだいたいうまくいかない気がするので、ぼちぼち更新していきます、としか…


お待たせしてすいませんでした…!

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