表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/31

17、異世界救世主伝説

続きです!


「そろそろ休んだらどうだ」


王宮の執務棟の一室で、ゴーラン第一王子はオリエ・ラトランド公爵令嬢に声をかけた。


オリエは大量の書類が積まれたデスクに座ったまま、きょとんとした顔でゴーランを見た。


「珍しいですわね、ゴーラン様がそんなことを仰るなんて」


そう言うと、ゴーランは目を逸らしてぽつぽつと語った。


「……こないだ、私とジェニーが出かけられるよう、気を配ってくれたろう。あの時は、この忙しい時に何をと思ったが、どうやら私は、自分が思っているより疲れていたらしくてな……オルタンス楽団の演奏を聞いていたら、涙が止まらなくなってしまって……」


聞けば、オルタンス楽団は子供から大人まで楽しめる、人形を使ったミュージカル仕立ての曲を演奏する楽団だそうだ。


今やっている演目は、森で迷子になった末っ子を探しに行った兄弟たちが、いろんな生き物に会って仲良くなり、谷に落ちそうになっている末っ子をみつけて、みんなで救出しよう!と頑張る話らしいが、


「長男が……兄弟たちが雷に打たれないように、たった1人で木に登って、『長男だから頑張る!』と孤軍奮闘してな……ぐふっ」


思い出し泣きしているゴーランに、オリエは痛々しい視線を向けた。


(ゴーラン様、あなた疲れてるのよ……)


『ここそんなに泣くところだったかなあ?』という目で他の観衆がゴーランをチラ見する中、ジェニファー嬢がハンカチや売店のわたあめを差し出してきて、なにくれとなく世話してくれたそうだ。


「そのあと、泣いて仮眠を取ったら、えらくスッキリしてな。ジェニーには迷惑をかけてしまったが、詫びとして今度は劇場に本格的なオペラを見に行こうと誘ったら、許してもらえたようだ」


「それは良かったですねえ……!」


しっかりした性格で、すでに生え際にヤバい兆候が見え隠れしていても、ゴーランはやっと今年二十歳になる若者だった。

前準備がほとんどない状態で国王の不在を補い、改革に挑んでいるのだ。疲れないわけがない。


そんな彼をジェニファー嬢が癒してくれればと、オリエは願っている。


「というわけで、王太子命令だ。今日は仕事を早く切り上げ、王宮の自室に戻って休むように」


ちょうど仕事もキリのいいとこだったので、オリエはゴーランの言葉に甘えることにした。


というか、ここでオリエが休まないと、ゴーランも休めないだろう。

そのうち、クララが立っただけで蹲って泣き出しかねない。

※アルプスの少女ハイジ


書類の束を揃えて引き出しにしまい、残っている事務員に礼をしてから、執務室を辞した。


王宮には、彼女のために用意された、王子妃用の寝室があった。

こちらに来てからほとんど執務棟の仮眠室を利用しているので、あまり使ったことはない。


(たまにはふっかふかの布団で寝てやるか。実を言うと、あのベッド柔らかすぎて、逆に首や肩が凝るんだけどなあ)


いろいろ考えながら、侍従を連れて王宮に続く外廊下を歩いていると、がさがさっと植え込みが不自然な音を立てた。


「……下劣な異国人め!身の程を知れ!!」


何やら叫びながら、黒ずくめの男が数人飛び出してきた。その手には刃物が光っている。


咄嗟に侍従が庇ったが、オリエは表情を変えなかった。


「『救国の乙女の鉄槌(サルヴァトーレ)』」


オリエが小さく呟くと、(たちま)ち術式が発動する。


刃物を振り下ろす男たちひとりひとりに、太陽神を思わせるむくつけき壮年男性の幻影が現れ、その刃を掴んだ。


「な……何ィィ?!」


男たちは口々に驚嘆の声を上げる。


「習わなかった?神様に楯突くと、天罰が降るって」


オリエは無表情で告げた。

それを合図とするかのように、太陽神の幻影が、刃物を抑えていない方の腕を振りかぶる。


「あっ、あっ、イヤっ、ちょまっ」


焦って逃げようとした男たちの抗議も空しく、鉄槌(というか鉄拳)が彼らの脳天を思う様叩きのめした。


「お見事でございます、オリエ様」


侍従が深々と頭を下げている。


「はい、じゃ、そいつらを牢に連れてって、黒幕吐かせて適当に処罰して。報告は明日以降でいいわ」


まるで何事もなかったかのように、オリエは自室に向けて歩き出した。

近衛兵が速やかに男たちを捕縛し、連行していく。


襲撃は慣れたものだった。

そりゃそうだ、あんな短期間であちこち糾弾して、反発を買わないわけがない。


さすがに無茶ぶりが過ぎたと思ったらしき神々が、オリエに託したスキル『救国の乙女の鉄槌』。


これは、24時間絶え間なく発動し、オリエ本人の意志があろうとなかろうと、彼女に危害を加える者に対してオートで働く、恐るべきスキルだった。


ちなみに彼女に毒を盛ろうとした者には、月の女神を思わせるたおやかな女性の幻影が現れて、盛った奴の頭を押さえ付け毒入り飲食物をグイグイ口に突っ込むという鬼仕様である。


(このスキルがなかったらとっくに死んでたわ。転移チートがあって良かった)


「そういえば、本日の襲撃に関しては事前に告発がありました」


歩きながら侍従が言う。


「へえ。まあ何があろうともスキルがぶちのめしてくれるからどうでもいいんだけど、一応聞いておこうかしら。告発者は誰?」


「フォッカー・セルゲイ副人事部長です」


オリエはふと足を止めた。


彼の告発により、酒場でたむろしていた減給者や、元司祭からなる犯行グループの一味を逮捕できたそうだ。


「……そう」


一瞬、眉をひそめたが、


(フォッカーて誰だっけ……処罰した奴多過ぎて覚えてらんないな……)


「褒章として、3ヶ月減給期間を減らすよう指示しとくわね」


そう答えて、再び歩き出した。



今日はこれまでになります!

今週中には終わる予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おお、フォッカー君更生への道へと進んでる! 前話の引きでどっちに転ぶか不安だったけど、良い方向に行って良かった。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ