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14、救国しないとヤバいのでした

2話目です!


今さらながら世界観について話そう。


この国はバルシリウム王国。

聖女の恵みでギリギリなんとかやってこれた、小よりの中といったくらいの王国である。


歴史はそれなりに古い。


謂れはわからないが、貴賤を問わず聖女がよく生まれるので、まわりの国からリスペクトされていた。


請われて外国に聖女を嫁がせたり、ポーションを譲ることもあった。

もちろん多額の報酬をいただいた。


その内、聖女に頼った政治をするようになり、ろくな産業もないのに俺TUEE状態でデカい顔をし始めてから、少しずつ情勢がキナ臭くなる。


聖女によって保たれている生活を当たり前と思い始めて、聖女を国の所有物のように扱い、『神に仕えるのだから』と無理な節制を課した。


自分たちは特に労力を使わず、大金を得られるようになった貴族や官僚により、国政は腐敗していった。


率先して聖女たちを搾取した司祭は、着服した報酬で肥え太り、大量の賄賂を回して、やりたい放題好き放題のパラダイスを満喫した。


そんな国がどうなるか?

はい、答えは簡単です。

滅びるに決まってますがな!


すでに神の恩寵は、この国を見捨てつつあった。

まず、聖女が生まれなくなってきた。


この国では女子が生まれると、17歳までに地元の神殿で聖女認定を行う。

故意に認定を避けると厳罰に処されるので、某男爵家では、妹の17歳の誕生日に、しぶしぶ神殿に行かせたとか。


今季の聖女は過去最低の人数だった。

中には某伯爵令嬢のように、資格もないのに寄付して捩じ込んできた者もいるので、実数は更に下がる。


今までのように聖女を使い潰ししていては、早晩、この国は外貨を稼げなくなり、破綻するだろう。


改革が必要だった。

国を根本から覆す、抜本的な改革が。


そこで、先々代の筆頭聖女だった王妃が、『救国』を神に祈り、『救国の乙女』を召喚した。


別に『救国の童貞』でもいいのだが、国に伝わる召喚の儀の術式の名称がそうなってるので仕方ない。


そうして、神の導きにより召喚されたのが、第一王子の現婚約者、オリエ・ラトランド公爵令嬢だった。


彼女の本名は、芋野山(いものやま) 織愛(おりえ)という。

日本で、コンサル会社のふつうのOLとして生活していた。


わけもわからず召喚された彼女に、いきなりこの国を救ってちょうだい!と持ちかける王妃も、大概だったと思う。


しかも召喚の儀には、召喚する聖女が一番愛している者を犠牲にする必要があったとかで、足元に王冠を被ったナイスミドルが倒れ伏しており、芋野山さんはえらくビビった。


戦慄しながら王妃の話を聞くと、王さまは昏睡状態なだけで、芋野山さんが無事に救国を成し遂げ、元の世界に帰ったら、自然と目覚めるそうだ。


『もっ、もし私が救国とやらを断ったり、失敗したらどうなるんですかねえ……?』


と、芋野山さんが恐る恐る聞くと、王妃は泣き濡れた顔で、ニヤァと口元に笑みを張り付けながら、言った。


『私の愛しい人は永遠の眠りについて、あなたは二度と元の世界に帰れなくなるわねえ……』



ひええええええええええええええ



……絶望の悲鳴は、長く遠くまで聞こえたという。


こうして芋野山さんは、見ず知らずのナイスミドルを人質に取られ、自分の進退も問答無用で賭けられて、バルシリウムの救国に全力を注ぐ羽目に陥りました。


いや、せめて実績のあるお偉いさんを召喚すべきだったのでは?!と抗議しようにも、全ては後の祭り。


なんだこの強制イベント。呪いか。日頃の行いが悪かったのか。


『あと私、日本人なんで、こちらの世界の基準で見ればティーンエイジャーに見えるかもしれませんが、アラサーな上に非乙女なんですが(彼氏いるし)』


『大丈夫大丈夫、黙ってればバレないから』


王妃様に太鼓判を押されてしまったので、後戻りはできなかった。


王妃は王さまに付きっきりになってしまったので、夫婦で国外に外交に出ているということにした。


ふたりが不在の王都は、第一王子を王太子とし、芋野山さんを次期王妃と定めて、裁量権を持たせることにした。


このため、12歳の頃から婚約していたジェニファー・ラトランド公爵令嬢のご両親に話を通し、仮の婚約解消をしてから、芋野山さんを養女にして、仮の婚約者として立てた。


オリエ・ラトランド公爵令嬢。

月の女神の(きざはし)にして、『救国の乙女』。

それが今の彼女の立場である。

……期間限定だが。


(やることが多い……やることが多い……!!)


今日もラトランド公爵令嬢は東奔西走した。


ぶっちゃけ、自分が救国を果たして、無事日本に帰れたとしても、あっちがどういう状態なのかは、王妃様にもわからないらしい。


(せめて、時間の経過はこちらと同じでありますように……!)


何にせよ、彼女は『転生者』ではなくて『転移者』だ。帰れるものなら帰りたい。


仕事から帰って、カバンを放り出してソファーに座った瞬間、着の身着のまま召喚されたので、恐らく行方不明者として処理されると思う。


玄関に靴を置いたまま、カバンの中に財布もスマホもメイク道具も入ったままだった。


……事件性がありすぎる。


(ああー、父さん母さん心配してるだろうなー、会社の人にもみやぞんにも迷惑かける、ヤバいよヤバいよ)


※みやぞんとは彼ピのあだ名です。


ペット飼ってなくて良かった、毎日水やりが必要な植物部屋に置いてなくて良かったと思いながら、彼女は目の前の仕事をこなすしかなかった。


とにかく当面は、残り少ない聖女を保護して、なるべく頑張ってもらうしかない。


特に筆頭聖女のシンシア・リギンズ男爵令嬢……彼女の聖女の力は、再検査前から顕著だった。


彼女には、ローゼステス王国でじゅうぶんに休養してもらい、この先も国を支えてもらわなくては。

3ヶ月で足りないというなら、もっと休んでもらって構わない。


初めてこの世界に来て、神殿で彼女を見た時はゾッとした。


ガリガリに痩せたこんな小さな少女に、この国の存亡がかかっているなんて。


他の力ある聖女も似たような状態で、こき使われて搾取されていた。


そんな彼女たちの姿を見て、オリエは救国がどうのと言う前に、彼女たちを救いたいと思った。


それと同時に、聖女以外の国力を高め、まっとうな国家に立て直す突破口くらいは見つけなければならない。


(どう考えても、一介のコンサル会社OLには無理ゲー過ぎるわあああ)


オリエはこの国の神とやらに、脳内で罵詈雑言を浴びせた。


しかし、やるしかないのだ。


オリエの執務室からは、今日も遅くまで光が漏れていた。



続きは明日以降になります!

なるべく毎日更新で行きたいです!

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