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13/31

13、実は偽装婚約でした

続きです!

王宮サイドのお話になります!


「あら、ジェニファー様。ゴーラン様なら、お庭のガゼボで休憩中でしてよ?ご一緒されたらいかが?」


オリエ・ラトランド公爵令嬢は、打ち合わせの帰りに、王宮の廊下で見かけたご令嬢に声をかけた。


「オリエ様……」


小さく身を震わせている彼女は、ジェニファー・ラトランド公爵令嬢。

明るい茶色の髪に青灰色の瞳の、17歳の美少女だ。

正真正銘のラトランド家のお姫様である。


翻ってオリエは、黒髪に焦茶色の目の、十人並みの容姿。

諸事情あってラトランド家に養女に入った。もちろん、血の繋がりはない。

戸籍的にはオリエが長女になっているので、オリエがお姉ちゃんでもある。


「あのっ、……あの、わたくし、オリエ様に申し上げたいことがあって、こちらに参ったのです……!」


意を決したようにジェニファー嬢が言う。


「はい、何でしょう?」


オリエはジェニファーに向き合った。

すうっと息を吸い込んで、令嬢は声を張り上げた。


「ゴーラン様は……ゴーラン様は、わたくしの婚約者です!これ以上、馴れ馴れしくしないでくださいませ!」


「はあ?」


涙目で訴える麗しいご令嬢に、オリエはポカンと口を開ける。


「わ、わたくしたちの婚約は、国王陛下に認められた正式なものですわ!い、いくらオリエ様が『救国の乙女』だとしても、ゴーラン様の婚約者は、わたくしなのです!勘違いなさらないで!!」


言いたいことを言い切ったらしきジェニファーは、ぜいぜいと息を荒げる。

後ろに控えていた彼女の侍女が、そっと寄り添った。


オリエは大きくため息をついた。

手に持っていた打ち合わせの資料を侍従に渡し、つかつかとジェニファーに詰め寄って、その細い肩をがっしと掴んで、言った。


「あったりまえですがなああ!!私は仮初めの臨時婚約者に過ぎませんよお?!天にも地にも、ゴーラン様の真の婚約者は、あなたお一人ですがなああジェニファー様ああ!!」


間近で大声を浴びせられ、ジェニファーはびくびくと身を竦ませた。


‡‡‡


「というわけでですね、あなたの本当の婚約者殿が、不安に怯えておいでです!ちゃんとフォローしてくださいって、こないだも伝えたはずですが、ゴーラン様!」


ジェニファーを連れてガゼボに突撃したオリエは、ゴーランに向けてぷりぷりと怒った。


ゴーランはティーカップをソーサーに置きながら、オリエと、その後ろに所在無さげに立つジェニファーを見比べる。


「……ジェニー。執務棟には入らないよう、申し付けてあったはずだが?」


ゴーランは少し眉を顰めて言った。

愛称で呼ばれた彼女は、一瞬ぱああと顔を明るくしたが、続く叱責の言葉に、しゅんとしてしまう。


「で、ですが……ゴーラン様は、オリエ様と、ずっと執務棟に籠られているではありませんか!わたくしがお誘いしても、お茶会にも来てくださらないし……お顔も拝見できなくて、わたくし、わたくし……」


もじもじとしながらジェニファーが言い募るが、ゴーランは軽くため息をついた。


「今は王宮の改革時期であり、最も施政に力を入れるべき時だ。そなたもわかっているだろう?些事に割く時間はない」


冷たい物言いに、ジェニファーは硬直する。

横でオリエはしょっぱい顔をしていた。

ゴーランはテーブルに置いていた懐中時計に目をやった。


「……20分経ったな、休憩は終わりだ。クリフ、会議室の準備は整っているか」


第一王子付きの秘書官に声をかけ、ゴーランは椅子から立ち上がった。

そのまま、ジェニファーに構うことなく、ガゼボから出ようとすると。


「はいっ、ゴーラン様、それまでです!クリフさん、私に会議の資料を渡していただけますか?!」


オリエが割って入った。

目を見開くゴーランを押し退けて、書類を受け取って軽く目を通した。


「オリエ、何を」


「あー、大丈夫ですゴーラン様。この内容なら私でも対応できます。クリフさん、問題ありませんよね?」


問うと、話を聞いていたクリフが頷く。

オリエはゴーランとジェニファーに振り返った。


「というわけで、この会議にはわたくしが出席して取りまとめておきます。報告書は19時までにはお渡ししますので、それまでゴーラン様は、ジェニファー様とおデートに行ってきてください。確か、今ならティーガーデンでオルタンス楽団がコンサートしてますわ」


ティーガーデン?とジェニファーが目を輝かせた。


先月、王都に出来たばかりのティーガーデンは、百種の薔薇を植えた広い庭園の中に、可愛らしいガゼボやテーブル席が並んでおり、軽食やスイーツ、お茶が供されて、ステージでは日替わりで寸劇や演奏会が行われている。

今話題沸騰中のデートスポットだ。


「いや、私はそんな」


「なーに言ってんのー!はい!なーに言ってんのー!はい!物足りないから言ってんの!はい!デーエートデートデーエート!グイ!グイ!グイグイよし来い!グイ!グイ!グイグイよし来い!」


謎な囃子に乗せて、オリエはゴーランとジェニファーを外へ押し出した。


「ゴーラン様。いくら国政を改善したとしても、あなたの隣からラトランド公爵令嬢が消えてしまえば、面倒なことになりますよ。ここはひとつ、国の未来のためにも、可愛い婚約者とキュウリサンドイッチでも摘まんできてください」


ゴーランの耳元でオリエが囁くと、彼は苦虫を噛み潰すような顔をした。しかし、ティーガーデン?素敵ですわあと呟きながら目をキラキラさせている婚約者を見て、観念したようだ。


「……わかった。会議と、報告を頼む。19時までには戻る」


かくして、若い婚約者同士をにこやかに送り出したオリエは、すぐに真顔になって第一王子が使っていたガゼボに座った。

未使用のカップをトレイから取り、少し冷めたお茶を手酌で注いで、一気に飲み干す。


「よしっ、気合い入ったぁ!クリフさん、あと5分ください。資料を頭に入れます」


タンっとカップをテーブルに置いて、資料を1ページ目からじっくり読み始めた。

クリフは無言で頷き、手元の懐中時計に目をやった。

会議の開始が少し遅れるのは、勘弁してもらうしかない。


(そうよ、私には時間がないの。一刻も早く仕事を完遂しなきゃ、この国は滅びてしまう)


オリエは険しい顔で資料をめくった。



今日は午後4時にもう1話更新します!

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