第九話 殴り込み
「おい! バルザスはおるか! 月の盃亭の権利書を持ってきてやったぞ!」
夜になりワシは早速バルザス一家の拠点である賭博場へと乗り込んだ。
入り口にいた警備を殴って気絶させ、扉をけ破ってド派手に中に入っていく。
「きゃああぁぁ!」
「逃げろぉ!」
中でカードゲームに勤しんでいた客たちはクモの子を散らすように逃げ出す。
代わりにワシの周りには、剣や斧を持った厳つい男たちが集まってきた。
「権利書を持ってきたって割にはずいぶん穏やかじゃねえ入り方だな……ここがどこだか分かってるのか?」
目の前の大きな階段からでっぷり太って高そうな服に身を包んだ男が降りてくる。
おそらくあれがバルザスなのじゃろう。
「ああ、知っておるぞ。チンケなコソ泥どもがあくせく人の金を巻き上げている場所じゃろ?」
「ほお……子供のくせにジジイみてえなしゃべり方で大層な口を利くじゃねえか。どうやら命が惜しくないようだな」
「はっはっは、命が惜しくないのはお主らの方じゃ。ワシに目をつけられたことを後悔するといい」
「あ――っ! こいつです! こいつがミランダを攫おうとしたところを邪魔しやがったガキです!」
見ればバルザスの隣にはワシがナイフを投げ返してやった男。
憎らし気にこちらを指さしている。
「ほう、探す手間が省けたってことか。俺の部下を傷つけたお礼をたっぷりしてやらねえとなあ」
「なぁに、礼など気にせずとも良い。ここにいる全員一人残らず叩きのめしてやるからのう」
「ちっ! お前ら! さっさとこのガキをやっちまえ!」
バルザスの一言とともに男たちが一斉に向かってくる。
「雑魚はすっこんでおれ!」
こんなやつらに剣を使うまでもなかろう。
ワシは拳を構え、男たちを迎え撃った。
「死ねえ!」
「このくそガキがぁ!」
剣を振り下ろしてくる男のアゴを拳で打ち抜き、斧を振り回す奴の脇腹めがけて3連撃。
「ファイアーボルト!」
魔法を撃ってくる輩にはかわして飛び蹴りをかます。
「フンフフーン」
鼻歌交じりでワシは男どもを叩きのめしていく。
「くそっ! なんだこのガキは……タダ者じゃねえ!?」
途中から賭博場の外に出て戦い続け、現在は21人目の男を戦闘不能にしたところ。
すると突然、背後に強い殺気を感じた。
「むっ!」
振り向かず前に飛びすさる。
その直後、ワシのいたところを剣の一撃が通り過ぎて行った。
「ほう、避けたか。やはりただのガキじゃねえな」
体勢を立て直して後ろを向けば、剣をゆらりと構える黒ずくめの男。
鎧の類は着けず軽装の出で立ちだ。
ワシは剣を抜いて男と対面する。
「貴様が噂のファルコの弟子という剣士か」
「ほう、お前みたいなガキにも噂になっているとは。俺も有名になったもんだぜ」
「なあに、ワシの名前もファルコじゃから覚えていただけのこと」
「はっ、そりゃ名前負けだな。本物のファルコ様の方がよっぽど強かったぜ」
その本物なんじゃがなあ……。
というかやはり顔を見てもこんな奴、ワシは知らんぞい。
「お主の名を聞いておこうかのう」
「ガキに名乗るまでもない……と言いたいところだが俺は優しい性分なんでな。この先二度と聞けることはないだろうが教えておいてやろう。フィッツ、残影のフィッツだ」
「フィッツのう……」
うむ、さっぱり聞いたことのない名前じゃ。
「さあ、あの世へ行く前の土産を見せてやるぜ……」
フィッツは剣を中段に構えて魔力を込め始める。
「話に聞いたファルコの奥義とやらか」
「そうだ、これを食らって生き延びたやつは今までいねえ。お前もその仲間に入るんだよ!」
「よかろう、早く見せてくれぬか」
「強がり言いやがって! 後悔するんじゃねえぞ!」
うーむ、確かにワシには奥義というかとっておきの技がいくつかある。
あの構えから出す技は3つほどあったが……。
はて、いったい何が飛び出てくるのやら。
「食らえ! 『八剣夜行』!」
フィッツが剣を振った瞬間8体の分身が出現。
すぐさま一斉に斬りかかってくる。
「なん……じゃと!?」
「はっはっは! 驚いたか! これがファルコ様より会得した奥義だ! そのまま全身を斬り刻まれて死ね!」
フィッツとその分身は余裕の笑みを浮かべながら、ワシへ次々と攻撃を仕掛けてくる。
「どうしたどうした!? 避けてばかりか!?」
「……はぁ」
もうよい……。
「これで終わりだ!」
「ワシを……ワシを馬鹿にしとるのか貴様!」
もうこれ以上奴の技を見ているのは我慢がならん!
怒りに震えるワシは魔力を足に込める。
「『縮地』!」
瞬発力を高める体技を発動させ、迫る分身を全て瞬時に斬り捨てていった。
「なっ!? 俺の分身が!?」
「おい、フィッツとやら」
「おっお前はいったい!?」
「ファルコを舐めるのも大概にせい!」
大声でフィッツを威圧する。
「ヒィッ!?」
甘く見られたものじゃ。
魔力によって分身を生み出す技は確かに以前の勝負でよく使っていたもの。
おそらくこの男はどこかで技を見て、鍛錬の果てに会得したのじゃろう。
じゃが……!
「ファルコの技を使うのは許そう。技術を盗み、覚えて我が物にするのは強くなるためには必須のこと。しかし、たかが8体の分身による攻撃をファルコの奥義などと言いふらしおったことは決して許せぬ」
「なっ何を言っているお前は!?」
「ファルコの名を汚した愚行、その身をもって償うがよい」
今回は剣技を使わず、魔力を温存して戦うつもりじゃったがもうよい。
こやつにワシの技を見せつけてやるとしようぞ!
「ゆくぞ……」
剣を中段に構え、魔力をどんどん込めていく。
「くっくそ! 死ねえ!」
フィッツは剣を振りかぶり襲い掛かってくる。
「見よ、これぞ奥義! 『百剣夜行』じゃ!」
ワシは剣を真横に一振りした。
「なっ!?」
そうして目の前に現れたはワシの分身100体。
瞬く間に賭博場正面の庭を埋め尽くしていった。
「「「さて、フィッツとやら。お仕置きの時間じゃ」」」
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