第八話 下準備
「さて……向かうはギルドじゃな」
「……やっぱり今からでも遅くないわ。この権利書を持って私がバルザスのところに行くから、ファルコくんは私に構わず逃げて」
「そうだ、君はまだ若い。僕たちのことは気にしないでくれていいんだぞ?」
「とは言うがのう……ワシの顔はやつらにしっかり覚えられてしまったし、なにより逃げるという言葉は頭の中にはないのでな」
「でもバルザス一家が欲しいのはあくまで月の盃亭。遠くまで逃げてしまえば君をしつこく追うことはないはずだ」
「そして代わりにお主らは権利書とともに命も奪われるのか? それではワシの負けも同然ではないか」
「そっそれは……」
「……」
「ワシはとにかく負けるというのが嫌なんじゃ。まぁ黙ってついてくるがよい」
昨日は月の盃亭で部屋を借り、久しぶりのベッドで気持ちよく目覚めて気分も高揚しているワシは、対称的に暗い雰囲気のミランダとマイクの2人を連れて大通りを急ぐ。
昨日のうちに考えた計画はこうじゃ。
まず2人は冒険者ギルドで保護してもらい、ワシが1人で賭博場に乗り込んで噂の剣士を倒し、ついでにバルザス一家を叩き潰す。
難しいことは考えず、ただ真っすぐ突っ切るだけの単純明快な作戦。
ただ不安なのは、すでにギルドがバルザス一家と手を組んでいることじゃ。
残念ながら可能性も低くない。
悪知恵の働くやつなら、力を持つ相手にすり寄って手を組もうとするのは自明の理じゃからな。
じゃが……他の職員ならともかく、ワシの見立てであのギルドマスターはそういうことはせぬ奴という妙な確信がある。
フランクと会ったときになんとなく感じたのは、強い相手に対する純粋な敬意。
組織の長だから腹芸なんかは出来るじゃろうが、悪の道に走るといったような男ではないとワシは決めてかかっていた。
「まぁとにかくギルドへ行くぞい。期限の夜まではまだ時間もあることじゃし」
気後れしている二人を励ましているうちにギルドへと到着。
早速ワシは受付でフランクに会わせてもらうよう頼んでみる。
しばし待たされた後、回答が返ってきた
「マスターは少々のお時間でしたらお会いできるそうです」
「ならば頼む」
職員に案内され、ワシら3人はフランクの部屋へと通された。
「やあ、昨日ぶりだね。カインくんはまだ帰ってきてないよ?」
「さすがのワシも今日明日でとは思わんよ。それよりも別に話があってのう……」
「……分かった、聞こう」
こちらの表情で何かを察したか、フランクはスッと真剣な顔に切り替わった。
そしてワシは昨日のミランダや月の盃亭での出来事、そして今日の夜にバルザス一家への殴り込みなど順を追って話し始める。
「ということでワシは強いと噂の剣士と戦うついでバルザス一家を叩き潰してくる。ギルドにはこの2人を匿ってもらいたいんじゃ」
「ははは……つくづく君という存在には驚かされるよ」
フランクは頭を抱えながら苦笑いし始める。
「はっはっは、これくらいで驚いてちゃこれから先の身が持たんぞい」
昔は1000人を超える軍隊を相手に戦ったこともあるからのう。
数十人程度物の数ではないわい。
「そんな危ないことは止めてくれって言っても君は聞く気はないんだろう?」
「当り前じゃ。なにせ向こうに強者がおるのじゃからのう。力づくでもワシは行くぞい」
「はぁ……分かった。2人は責任をもってギルドで保護しよう」
「すまんのう」
「ありがとうございます!」
「フランクさん……迷惑をかけてすみません」
ミランダとマイクがそれぞれ頭を下げる。
「その代わりにといってはなんだけど、なるべく死人は出さない方向で頼む。それと……」
「それと?」
「叩き潰すなら徹底的かつド派手に頼む。それこそ奴らが二度と立ち直れなくなるくらいにね」
「ほほう、腕が鳴るのう!」
ギルドのお墨付きをもらったとなれば頑張るしかなかろう。
「でもくれぐれも無理はしないでくれよ。せっかく僕がカインくん以来、久しぶりに見つけた有望な若者なんだ。バルザス一家ごときで命を失うなんてのは勿体なさすぎるからね」
「安心せい、ワシも雑魚どもにむざむざやられるつもりはないぞ」
「それならいいけど……ただ、心配なのは君の言う噂の剣士の存在だ。どうも聞くところによるとかつて最強の剣士と謳われたファルコの直弟子らしいからね」
「……はぁ?」
今なんと……?
「そうだ、確か君の名前もファルコだったよね? それなら知ってるんじゃないかい? 向かうところ敵なし、100戦100勝の剣士ファルコのことを」
知ってるも何もおそらくそれはワシのことなんじゃろうが……。
言っておくが今まで一度も弟子なんぞ取ったことないぞ?
誰か別のやつと間違えておらんか?
「そりゃまぁワシの名前はそやつにあやかってつけられたから知ってはおるが……」
会話は適当にごまかしたが、頭の中は過去の記憶をひっくり返していて混乱状態。
確かに弟子は取ってはおらんが、旅の途中気まぐれで剣の振り方や足さばきなどの簡単なものは人に教えたことはあった。
じゃがマイクの話その剣士はワシの奥義を会得しているとも言っておったし……ますます記憶にないのじゃが……。
「そんな最強の剣士の弟子だから相当な強さであるのは間違いないだろう。くれぐれも気を付けてくれよ」
「あっああ……」
混乱の解けきらぬワシは生返事。
それから2人をフランクに預けて部屋を出た。
「はぁ……まさか取ったこともない弟子が出てくるとは思わんかったのう」
衝撃の事実に少々驚いてしまったが、作戦に変更はない。
「まぁよい、恐れ多くもワシの弟子などとのたまう奴じゃ。どれほどの力があるのか見せてもらうとしようかのう」
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