第七話 宿屋を守るため
「マイク!」
「ああ、無事で良かった! 頼まれてた薬草がなかなか見つからなくて……帰るのが遅くなってごめん!」
「いいのよ……おじいちゃんのためにこんな夜遅くまで探してくれてありがとう」
マイクという若い男は駆け寄ったミランダに袋を渡す。
「ところでミランダ、テーブルに座っているあの子は?」
「ファルコくんっていって、さっき私バルザスの人たちに襲われたところを助けてもらったの」
「なっ!? それは本当か!?」
「ええ、本当よ。ファルコ君がいなかったら私、バルザスのところへ連れていかれる所だったわ……」
マイクは慌ててワシのところへ駆け寄り頭を下げてくる。
「ありがとう、本当にありがとう……」
「別にお礼はいらんわい。たまたま路地を通りかかってミランダが襲われていたのを助けただけじゃからのう」
今日の寝床を探していて偶然見かけただけじゃからなあ……。
「僕はミランダの幼馴染でマイクっていうんだ。いつもはミランダとこの宿を守るのは僕の役目なんだけど、彼女のお爺さんが最近病気がちでよく効く薬草の採取を頼まれて外に出ていたんだよ。それにしてもバルザスのやつらめ、僕がいない隙に……」
ちょうどいい、ここでそのバルザスとやらについて聞いてみるとするかのう。
「すまんがワシは王都に来てまだ日が浅い。そのバルザスとやらが一体なんなのかと、この宿とどういう関係があるのか聞きたいのじゃが」
ワシの問いかけに二人は顔を見合わせたが、やがてゆっくりと話し始めた。
「バルザス一家は王都ハイネスで大きな勢力を持つ集団です。あの人たちは賭博や娼館の経営をしていて、この宿の近くにある最近完成した大きな賭博場もバルザス一家のものなんです」
「今あいつらはその賭博場を中心に自分たちの勢力を広げるため、周りの宿や店を金や暴力で強引に自分たちのものにしてるんだ。おかげで昔からあった宿屋で残ったのはここだけになってしまったよ」
なるほどのう……。
「国のお偉いさんは動かないのか?」
「ああ、王都にいる役人や大臣はバルザスにたっぷりワイロをもらっているから、俺たちがあいつらの横暴を訴えても話すら聞いてもらえない。それどころか一緒に訴えに参加した仲間が何人も姿を消してしまっているんだ」
「この宿にお客様がいないのも、バルザスの人たちがこの宿屋を手に入れるためにいろいろ手をまわして人を寄り付かせないようにしてるからなんです……」
聞けば聞くほどアコギな商売をやっとるのう、そのバルザス一家とやらは。
話しを終えたミランダは悲しそうにうつむく。
「今まで大事なこの宿屋を守るために頑張ってきたけど、今日みたもうこれ以上は危険だし、ここを売って出て行ったがいいのかな……」
「そんな! 君の両親が亡くなった時、何があってもこの宿屋は守っていくって君は言ってたじゃないか! そんな大事な宿屋をあんなクズ野郎どもに踏みにじられていいのか!?」
「良くないわよ! でも、でもどうすればいいのよ……このままじゃあ私やお爺ちゃんだけじゃなくあなたの命だって――! うわあぁぁぁぁ――!」
そのままミランダは泣き崩れてしまった。
「くそっ――!」
マイクも悔しそうにテーブルを叩く。
「のう、国の連中が使えんのなら金で冒険者なり兵士なり腕自慢を雇って対抗すればよいのではないのか?」
結局のところ、力には力をが一番じゃしのう。
「それは……無理だ」
マイクが力なく首を振る。
「さっき言ったように、あいつらは大臣たち抱き込んでいるから俺たちが同じことをしたってこっちが捕まるだけ。だいいち向こうは頭目のバルザスを含めて何十人もいるし、なにより雇っている剣士がものすごい達人って噂なんだ」
「ほお……」
なにやら興味をそそられる話が出てきたぞ?
「その剣士について詳しく聞かせてくれぬか?」
「ああ……そいつはかつて世界でも最強って言われた剣士の弟子らしく、その人の奥義を会得して向かうところ敵なしなんだそうだ。A級の冒険者も一撃で斬ったとかなんとか……」
最強の剣士の弟子のう……。
「僕だって一応冒険者だけど、C級じゃあとてもそんな奴に敵うはずもないし、他の冒険者や傭兵も表立ってバルザス一家と敵対したくないから、依頼しても誰も受けてくれないと思う……」
「やっぱり……もう私たちに出来ることはないのよ」
「そんなことはない! きっと、きっと何か手はあるはずだ!」
落ち込むミランダに彼女を励ますマイク。
そんな時、大きな音とともに入り口近くの窓ガラスが突然割れ、拳ほどもある巨大な石が室内に転がり込んできた。
「きゃっ!」
「今のは!?」
マイクが急いで石を拾い、ワシらのところまで運んでくる。
石にはなにやら紙が括りつけられていた。
「こっこれは……!」
マイクが紙を広げて中に書いてあるのを見た瞬間、目を見開く。
「なんと書いてあるんじゃ?」
「……明日の夜までに宿の権利書を賭博場に持ってこなければ、大事な宿屋が跡形もなく消え、関係者全員に危害が及ぶだろう……と」
「そんな……ひどい……」
いよいよ実力行使というわけか。
マイクは紙をミランダに見せながら尋ねる。
「ミランダ、君はどうするんだ?」
「私は……この宿屋もだけどおじいちゃんもマイクも大事。悔しいけれど……あの人たちの要求を飲むわ……」
肩を震わせ、苦渋の決断をするミランダ。
マイクも唇をかみしめながら、悔しそうにうつむいた。
「ふぅ……」
ワシはそんな二人の様子を見て、旨い食事を食わせてもらった礼とバルザス一家の雇っている剣士と戦うため、少しばかり助けてやることにした。
「二人とも、諦めてしまう前にワシに全て任せてはくれんかのう?」
「えっ?」
驚いた表情でワシを見る二人。
「なあに、ちょいとばかり考えがあるんじゃ。大丈夫きっとこの宿は守ってみせるからのう。はっはっは!」
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