第六話 厄介事
「やれやれ……口車に乗ってしまった感はあるが、人探しを肩代わりしてくれるしカインとも戦わせてくれるのだからまぁ良しとするか」
なにせ冒険者ギルドのマスターの言うことだ。
口から出まかせということもなかろう。
「さて……そうなると次は」
今日の寝床をどうするか、じゃなあ。
今までは野宿が当たり前じゃったし、商人の護衛でも雨露をしのぐだけの所で寝ていたからのう……。
「どこかに潜り込めそうな空き家でも探すとするかのう」
そう考えてワシは裏路地へと入っていく。
人のにぎやかな大通りとは違い、ゴミが散乱し悪臭漂う路地には人っ子一人見当たらない。
「ん? 何やら声が聞こえるが……」
「——けて! 誰か!」
周りのボロ家を見て回っていると、路地の向こうから声。
その直後、目の前を若い女性が厳つい男ども数人に追われて通り過ぎていく。
「人さらいか……?」
ふと気になったワシは彼女らの後を追うことにした。
「へっ! ようやく捕まえたぜ!」
「離してっ!」
追いかけた先では袋小路に追い詰められた女性が男たちに腕を捻り上げられていた。
「そうはいかねえ。頭からはお前を丁重に連れてこいと言われてるんでな」
「たとえ何をされたって、私たちの宿屋は渡しません!」
「おうおう元気だねえ。だがうちの頭に可愛がられてもそんな強気でいられるか?」
「うぐ——っ!」
女性は抵抗するもさるぐつわをかまされ、男に担ぎ上げられる。
ここまで来て見て見ぬ振りもできぬなあ。
「ちょいと待たぬか。お主たち」
ワシは男たちの前に立ちふさがった。
「誰だてめえ!?」
「ただの旅人じゃよ。女性の叫び声が聞こえたもんでな、気になってお主たちの後をつけてきたんじゃが、女性1人さらうのに男数人とは大人げないのう」
「そんなこと知ったこっちゃねえ! 見られたからには死んでもらう!」
男たちが短剣を抜いてワシの周りを囲む。
「やれっ!」
女性を抱えた男の合図で一斉にとびかかって来る男たち。
「仕方がないのう……——はぁっ!」
ワシは身体から魔力を一瞬だけ放出して男たちを吹き飛ばす。
「ぐえっ!」
「ぎゃっ!」
男たちは壁に激突して残らず意識を失った。
そして残ったのは女性を抱えている男のみ。
「さて……後はお主だけじゃがどうする? その女を置いて逃げるか、担いだままワシと戦うか」
「ぐうっ……てめぇ、俺たちがバルザス一家のもんだと知ってのことか!?」
「バルザス? ワシはそんな奴らのことなど知らぬ」
「なっ!?」
「それよりもお主が動かないのじゃったら、ワシからいくぞ?」
「くっくそったれ! 死ねえ!」
男はナイフを投げつけてきたが、ワシは難なく掴み男の太ももへと返してやる。
「ほいっと」
「ぐあっ!」
男は痛みで体勢を崩し、担いでいた女性を落とした。
「大丈夫かのう?」
「ぷはっ――! だっ大丈夫です……」
こちらを睨みつける男を尻目に女性へ近づき、口からさるぐつわを外して無事を確認した。
「くそう……おめえの顔とその口調は覚えたからな……!」
男がワシを睨みながら苦々しそうに吐き捨てる。
「俺たちバルザス一家に手を出しやがった報いを必ず受けさせてやる!」
「そりゃどうも」
ワシは男たちをその場に放置し、女性とともにその場を後にした。
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「本当になんといっていいか……ありがとうございました」
「なぁに、たまたま通りがかっただけのことじゃ。気にせんでええ」
「あの……私ミランダっていいまして、この先にある宿屋の娘なんです。お礼も兼ねてそこで食事をお出ししたいのですが、どうでしょうか?」
ほう、宿屋とな。
そういえばさっきも男どもに私たちの宿屋は渡さないとか言っておったのう。
「ワシもそろそろ腹が減っておったところじゃ。ありがたくご馳走になるとしようかのう」
「よかった! 私たちの宿屋はこっちです!」
彼女に連れられ、しばらく歩いて着いたところは一軒の古い宿屋。
「ふむ、『月の盃亭』とな」
「ふふっ、いい所でしょ? この都ができ始めた頃からの老舗なんですよ」
なるほどのう。
レンガの壁は所々欠け落ち、深い汚れも目立つがむしろそれが良い雰囲気を醸し出していると言えるわい。
「ただいまぁ」
ミランダは正面の扉を開け中に入っていく。
「邪魔をするぞ」
ワシも後に続いて中へ。
「それじゃあ私は食事の準備をしてきますから、あなた……ってそういえばお名前を聞いてませんでした……」
「ワシはファルコじゃ」
「じゃあファルコさん。向こうのテーブルに座って待っていてくださいね」
ミランダはそう言うと厨房らしき部屋に入っていき、ワシは指定されたテーブルに座って改めて宿の中をぐるりと見渡す。
「ふむ……高い宿という感じではないが、きれいに掃除がなされておるし飾られた家具や絵画、花などもしっかり手入れされていて居心地は良さそうじゃ」
ワシが昔泊まった安宿なんかじゃと、そこら中にクモの巣が張っていて掃除も全くされておらず、あげく部屋には壊れかけのベッドだけなんていう所もあったからのう。
「じゃが、その割には人の気配を感じぬ。これほど雰囲気の良い宿なら客でごった返していても不思議はないはずじゃが……」
今座っているテーブルも十数人が一度に座れる大きなもので、泊まりの客はここで食事をするのじゃろう。
だがワシがここに来てからそこそこ時間が立っているというのに、二回の客室へ続く階段から降りて来る者はおらぬし、扉を開けて入ってくる客も皆無。
「さきほどのバルザス一家を名乗った男たちと何か関係があるのやもしれぬな……」
などと考えていると、ミランダが食事を持って戻ってきた。
「すみません……あり合わせのものですけど」
「いやいや、ワシにとって手の込んだ食事というものは久々じゃ。ありがたく頂くとしよう」
それからワシはミランダの食事を味わい、その旨さに思わず舌鼓を打った。
「いやはや、これほど旨い食事は久しぶりじゃ!」
「ふふっありがとうございます」
ミランダはワシの前に座り、こちらの食事の様子を嬉しそうに眺めている。
……今なら聞けるやもしれんな。
「にしてもこれほど良い雰囲気の宿と旨い食事があるというのに、なぜ客が見当たらんのじゃ?」
先ほどから抱いていた疑念をこの際とばかりにぶつけてみることにした。
「そっそれは……」
さっきまで明るかったミランダの顔が一気に暗くなる。
やはり……何か事情がありそうじゃのう。
彼女の抱えている事情に多少の興味を持ったワシが話を聞こうとしたその時、突然玄関の扉が開き、若い男が息を切らせて駆け込んでくる。
「ミランダ! 無事か!?」
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