第五話 ギルドマスターとの会談
「ギルド内で騒動を起こしておいて、はいさようならはないんじゃないのかい?」
「先に突っかかってきたのはこいつらじゃ。ワシはそれに応じただけのこと。文句を言われる筋合いはないがのう」
フランクと名乗ったこの男。
見た目は優男じゃが、気配はかなりの強さを感じるぞ。
「そうであったとしても、君によって冒険者の数人が失神しているんだ。幾分かの責任はあると思うけど?」
「そんなことは知らんな」
「強情な子だねえ」
「ああ、周りからはよく言われるわい」
「……」
「……」
しばらくの間、無言でにらみ合う。
だがフランクの方が先に音を上げ、残念そうにため息をついた。
「はぁ……分かった。ギルドマスターとして明言しよう。さきほどの騒動に君の責任はない。これでいいかい?」
「それでよい。ではワシはこれで」
「ああ、もうちょっと待ってくれないか。君に話がもう一つあるんだ」
「なんじゃ?」
まだ他にあるというのか?
「こうしてみんなの目があるところでする話じゃないから、すまないけれど僕の部屋についてきてくれないかい?」
「なぜついて行かねばならぬ? もうこれ以上話をする意味は……」
「カイン君についてのことなんだけど、興味はないかい?」
「——っ!?」
しまった……思わず反応してしまったのう。
「ふふっ、正直だね。さあこっちだよ」
フランクが受付の奥に入っていくのを眺めながらワシは少し考えたものの、カインの名前が出たところで腹は決まってしまっていた。
「しょうがない……」
向こうの誘いに乗ってやるとするしかなかろうて。
ワシはフランクの後に続いて、奥にある部屋へと入っていった。
「まぁ座ってくれ」
部屋の中央にあるソファーへ促されてワシは座る。
「カインについて何を聞かせてくれるんじゃ?」
「せっかちだねえ。それじゃあ儲け話も逃げちゃうよ?」
「金儲けには興味ないのでな。ワシが興味あるのは自分の強さとこの世界にいる強者と戦うことだけじゃ」
「あはっ……あっはっはっは!」
向かいのソファーに座ったフランクが突然笑いだす。
「何がおかしい?」
「いやあ、まだ子供なのにその話し方といい考えていることといい、まるで歳を重ねた求道者みたいだから見た目との違いがあまりにも変でね」
「世界は広いのじゃから、こういう子供が1人おっても不思議ではないのではないかのう?」
「ふふ、それもそうだね」
他愛ない会話など今のワシには必要ない。
いい加減カインのことについて話してほしいところなのじゃが。
「それじゃあ本題に入ろう。まずカイン君についてだけど、彼はこの国からの依頼で凶悪な魔物が生息する未探索地域を調査に向かっている。ここに帰ってくるのは当分先になるだろう」
「そうか……」
やはりカインは一旦あきらめて他を探すべきかのう。
「すまないけれど彼はこのギルドで唯一、というか世界でも数人しかいないSS級冒険者だ。そう簡単に会えるものじゃないのは分かってほしい」
「納得はしかねるがのう」
「それに君はもしカイン君と会ったなら……彼と戦うのだろう?」
「ああ、当然じゃ」
「そうなると僕らが困るんだよねえ。さっきも言ったけどカイン君は冒険者ギルドだけでなく、国にとっても貴重な戦力。まずあり得ないだろうけど君みたいな素性も分からない子と戦ってケガか死ぬことでもあった場合には損失が計り知れない」
「それはそちらの都合じゃ。ワシには関係のないこと」
「そうとは限らない。もし君のせいでカイン君に何かあれば間違いなく世界中の冒険者ギルドや国から君は命を狙われる立場となる。それでもいいのかい?」
「もとより覚悟の上じゃ」
そのように脅したところでひるむようなワシではないぞ。
昔は実際に軍から追われたこともあった身じゃしのう。
フランクはワシが動じないのを見てか、苦々しそうな顔。
「……はぁ」
そしてこれ見よがしに大きなため息。
「君には危険を説くよりも利を見せたほうが良さそうだね」
「利じゃと?」
金を渡すからカインと戦うのをやめてくれとでも言うのかのう?
「単刀直入に言う。君も冒険者にならないかい?」
「はぁ!?」
あまりにも予想外の提案に思わず大声を出してしまう。
「いきなり何を言い出すんじゃ?」
「ふふっ、実はさっき君が叩きのめした冒険者はB級の者たちでね。腕っぷしにはかなり自信のある連中だったのさ」
「あんなに弱かったあいつらがか……?」
「そう言わないでやってくれ、彼らが弱いんじゃなくて君が強すぎるのさ」
「にしてもなぜワシを冒険者にしようとするのじゃ?」
うーむ、おおよそ見当もつかんわい。
「簡単なことさ、うちのB級冒険者を軽くあしらう君の強さを見込んだんだよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、ワシは冒険者なんぞになるつもりはないぞ」
「確かにただ誘っただけじゃ君は首を縦に振らないだろう。だから代わりに利益を提供するんだ」
「……具体的にはどんなものじゃ?」
「まず、カイン君と戦う場を提供しよう」
「ほう……」
初手でいきなりか。
「僕らが止めたって君はどうせカイン君を見つければ君は戦いを挑むだろう。それならむしろこちらで日程や場所などの条件は付けて戦えるよう調整してあげようというのがまず1つ」
1つ?
「君の話を聞く限りカイン君以外にも戦う相手を求めているのだろう? だから世界中に支部を持つ冒険者ギルドの情報網で他にも強い人物を見つけてあげるし、戦えるように用意してあげるのが2つ」
「それはありがたいが……別にワシはギルドの手を借りずとも自分で見つけるわい」
「ふふっ、力強いセリフだけど君は一つ見誤っていることがある」
「……?」
「この世界において強いと噂される人物が、全て陽の光の下を歩いているとは限らないってことさ」
「……なるほどのう」
合点がいったわい。
つまりこのフランクが言いたいことは、裏の世界を渡り歩いて決して表には出ようとしない強者も探してやろうということか。
「国やギルドでは犯罪を犯して逃亡している人物には賞金を懸けていて、その中には強力な力を持った戦士や元冒険者たちも大勢いる。けれどそういった連中はなまじ力のある分なかなか捕まらないし、悪の勢力が彼らを囲い込んでしまっている場合もあるんだ」
「ふむ……」
「だから君にそういう奴らの情報を提供して、僕たちの代わりに捕まえるか倒してもらおうってのが考えさ。君は強い奴と戦えるうえにお金も稼げる。僕らにしてみれば悪が1つ減る。どうだい? お互いにとっていい関係だろう?」
「……しばし考えさせてくれぬか」
ワシは腕を組んで目を閉じた。
うーむ……聞く限りでは確かに冒険者になることは利益が多い。
こちらとしてはカインと戦わせてくれる上に、金も稼げて面倒な人探しもせずに済むのだからのう。
「……分かった。冒険者になってやろうぞ」
「良かった……こちらとしても君みたいな強い子が冒険者になってくれて助かるよ」
お互いしっかりと握手を交わした後、フランクから出された冒険者登録の書類にサインをした。
「それじゃあ明日から君はSS級まである冒険者ランクの一番下、E級冒険者だ。頑張ってランクを上げてくれよ」
「おい、B級冒険者を倒したのなら最初はそこから始めても良いのではないのか?」
「それはダメだよ。万人に例外なくみんな始めはE級からなんだ。カイン君だってそうだったんだからね」
「むう、分かった」
やれやれ、まさかワシが働くことになるとはのう……。
昔の自分じゃ考えられなかった出来事に苦笑しつつ、ワシはギルドを出た。
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