第四話 冒険者ギルドにて
「着いたか……」
王都に着いたワシは護衛していた商人や冒険者たちから報酬を受け取って別れ、今は大通りを歩いている最中。
「さて……では冒険者ギルドに向かうとするかのう」
目指すは彼らから聞いた双剣のカインという人物。
冒険者となればギルドにいるものじゃろうし、まず行くべきはそこじゃろう。
「にしてもここもずいぶん変わったのう……」
ワシが王都に来たのは実に30年ぶりのこと。
今歩いている大通りも以前より広くなり、建物の数も増えた。
「時代は常に先へ進むということじゃな……」
などと詩人みたいな感傷にふけっている間に冒険者ギルドへ到着。
ワシは扉を開け、中へと入っていった。
「さて、カインとやらはどこにいるのじゃろうなあ?」
ギルドの中は男女を問わず、各々剣や槍、弓や斧など装備を整えた冒険者たちでごった返している。
だが、そんな冒険者たちの中には強者を感じさせるような気配を出す者はいなかった。
「ううむ、ここにはおらんのかのう……?」
さてどうしたものかと悩んでいると、冒険者の1人が近づいてくる。
「おい、そんなにキョロキョロしてどうしたんだ坊や。田舎からはるばる冒険者登録をしにやって来て俺らにビビっちまったか?」
話しかけてきたのは頭のきれいに禿げたひょろ長い男。
「双剣のカインとかいう冒険者に会いに来たのじゃが、お主居場所を知らんかのう?」
「ああ? お前カインさんに何の用だ? サインでも貰いに来たのか?」
「ワシはそいつと戦いに来た。凄腕と聞いておるのでな」
その瞬間、ギルド中から笑いの渦が巻き起こる。
「あっはっは! まだガキのくせに何言ってんだ?」
「カインさんと戦いたいだなんて命知らずの馬鹿だなあ」
「思い出作りってやつだろ? 僕はあのカインさんと剣を交えたんだぞってなあ」
はぁ……こいつらではダメだな。
ギルドの職員にでも話を聞くとするかのう。
ワシを指さし笑い続ける連中を尻目に奥にある受付へと向かう。
「すまんがカインの居場所を知りたいんじゃが、お主は知っておるか?」
「えっ? えっと……あなたは今おいくつなの?」
受付の女性はけげんな顔で聞いてくる。
「ワシか? ワシは今80……じゃなくて15じゃ」
「15……? にしてはお爺ちゃんみたいなしゃべり方ですね」
「ああ、これは昔からのクセでな。別に気にせんでくれていいぞ」
「はっはあ……」
そう言えばワシの口調は賊の連中にも言われていたし、助けた冒険者や商人にも変な顔をされておったな。
老いてからずっとこの話し方だったせいで気にしてなかったが、今の15の身体ではちと変なのかのう……?
まぁ今更子供の声をまねるというのも面倒じゃし、このままでいくとするかのう。
「それよりもじゃ、カインというのは今どこにいる?」
「えっと……カインさんは現在国からの依頼でここにはいませんよ」
「なんじゃと……戻りはいつくらいになる?」
「そこまでは私どもにはなんとも……」
「むう……」
いきなり出鼻をくじかれた感じじゃのう。
しょうがない、話で聞いた他の強者を探しに行くとするか。
そう思ってギルドを出ようとしたところ、さきほどワシを笑った禿げた男が前を遮ってくる。
「ちょっと待てよ。カインさんに会いたいってことは剣の指導でもしてもらいてえのか? だったら俺がみっちり教えてやるよ、へへっ」
男を軽く値踏みしてみたが、強さは微塵も感じられぬ。
格をつけるなら下の下といったところじゃな。
「ワシはお主のような雑魚に興味はない。目当てはカインという男だけじゃ」
「ああ!? なんだとてめぇ!?」
「そこをどけ、お主たちに構ってやれるほどワシは暇でないのでのう」
「このくそガキがぁ!」
男は顔を真っ赤にして掴みかかってくるが、ワシは飛んできた男の手を掴んで軽くひねるとともに足払いをかけて空中で一回転させ、床に叩きつける。
「ぐぇっ!」
男は潰されたカエルみたいな声を上げて気絶した。
「このガキ! ロイスになにしやがる!」
その様子を見て、気絶した男の仲間であろう他の男たちが周りを取り囲んでくる。
「はぁ……そこをどけ。床でノビておるこやつのようになりたくなければのう」
やれやれ、カインを探しに来ただけというのに無駄なケンカを売られてしまったのう。
「舐めたガキだな。ここは大人がいっちょお仕置きしてやる!」
拳を鳴らしながら大柄な男がワシの前に進み出て、勢いをつけて殴り掛かってくる。
「食らいやがれ!」
だが、その拳は止まっているのかと思うほど遅い。
「ぎゃふっ!?」
拳がワシに届く前に、14発ほど顔と腹を殴って男を吹っ飛ばす。
「お主らではワシに勝てぬ。実力の差を自覚するがよい」
周囲を見回して威圧する。
「くっくそおぉ!」
男のうちの一人が腰の剣に手を掛けるのが見えた。
「やめておけ」
一足飛びにワシは男へ近づき、剣を抜かせないよう柄頭を抑える。
「それ以上は命のやり取りになるぞい。死にたくなければ手を離せ」
威圧のため抑揚を抑えた声とともに、男と周囲の人間たちを睨みつける。
「あっ……あっあっ……」
「ひぃっ――!」
ワシの気迫に剣を抜こうとした男だけでなく他の者たちも腰が抜け、床にへたり込み股間にシミを作っていた。
「おいおい……」
軽く殺気を飛ばしただけなのに、戦意を失うとは情けないのう。
ワシの若い頃にはそこまで気の弱い奴はおらんかったぞい?
「まぁ良い。また日を改めるとしよう」
「待ちなさい」
今日はもういいじゃろうと思ってギルドを出ようとしたところ、突然後ろから呼び止められる。
「誰じゃ?」
振り返るとそこには青いギルド職員のものであろう制服を着た男が1人立っていた。
「私はこの冒険者ギルドのマスターであるフランクだ。君にちょっと話がある」
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