第三話 行きがけの賊退治
王都へ向け街道を走り始めてはや1日。
少々疲れを感じていたワシは速度を緩めた。
昔はもう少し長く走れていたが、やはり今の身体には全盛期ほどの体力はないようじゃな。
「王都に着いたらみっちり走り込みじゃな」
まぁ身体を鍛えるのはもとから好きじゃし、それもまた新しき人生の楽しみの一つと思えば楽なものよ。
「ん? この匂いは……人の血じゃな」
ふと街道の先から微かに鉄臭い匂いが漂ってくる。
そしてわずかながら金属音や人の叫び声なども耳に入ってきた。
「はぁ……なにやら面倒ごとがこの先であるようじゃ」
迂回したいところだが、この街道を通らねば王都にはたどり着けない。
ワシは足を速め、匂いと音のする場所へと向かうことにした。
「へっ! さっさと金目の物を置いてくたばりやがれぇ!」
「みんな! 背後を取られないように各自の位置を確認しあうんだ!」
着いた先では道の中央で幌付きの大きな馬車が横転しており、それを守るように5人の男女が武器を構えて陣取っている。
そして彼らの周りには武器を持った十数人の男たちがいてにらみあいの真っ最中。
男女の方は深い傷を負って膝をついている者もおり、人数差も相まって形勢は不利な印象だ。
「どう見ても賊が荷馬車とその護衛を襲っている光景じゃな」
こんな真昼間に大胆な奴らじゃのう。
「頭ぁ! 呑気に旅人が1人近づいてきやしたぜ!」
「ちょうどいい! そいつもぶっ殺して手間賃に加えちまえ!」
おっと、不用心に突っ立って眺めていたせいで見つかってしもうたわい。
すぐさま男たちが4人こちらに走り寄り、剣を向けてくる。
「へっへっへ、運が悪かったな。まだガキのくせに死ぬことになるなんてよぉ」
男たちは自分たちが優位に立っているものと思い込んで余裕の表情。
「ふっ、運が悪いのは貴様らじゃ、このワシに出会ってしまったのじゃからな」
「なんだこのガキ? もうすぐ殺されるっていうのにえらく落ち着いてやがるし、爺くせえしゃべりをしやがって」
「きっと怖くて狂っちまったんだろうぜ。ヒャッヒャッヒャ!」
男の1人が剣を向けたまま近づいてくる。
「まぁそんなことはどうでもいいさ。さっさとぶっ殺して仲間のところに戻らねえとな」
やれやれ、久しぶりに戦う人間がこんな小物どもとはのう。
「おい」
「ああ? 命乞いか?」
「ワシに剣を向けるということは、死ぬ覚悟があるということじゃがそれでよいか?」
「何言ってんだこのガキ? 死ぬのはてめえだよ」
男が剣を振りかざす。
「はぁ……警告はしたぞい」
男が剣を振りぬく前にワシは剣を抜き、軽くその首を跳ね飛ばした。
「……あ?」
男のあっけに取られた顔が宙を舞い、首元から血しぶきが吹き上がる。
そのままワシは一気に前に進み出て、残りの男たちの首を次々と斬り飛ばしていった。
「弱いのう……これでは鍛錬にもなりゃせんわい」
数を頼みにするしかない連中では仕方ないともいうがのう。
「なんだよあのガキ……仲間を一瞬で!?」
「くそっ! こっちは後回しだ! 先にあのガキをやっちまうぞ!」
馬車の男女を囲っていた残りの賊8人もワシめがけて一斉に走り出してくる。
「よし、ここはひとつ剣技の練習といくかのう」
迫ってくる男たちに剣を向け、ワシは魔力を込め始める。
「死ねえっ!」
そして男たちの武器が身体に届く瞬間、魔力を解き放って剣技を発動させた。
「『八双』」
ワシの同時八連斬りが男たちの首をはね、瞬く間に血の霧と海を作る。
「ふぅ……」
剣を収めた直後、軽いめまいを覚えて足元がふらつく。
むう、思いのほか魔力を消費したようじゃな。
「大丈夫か? お主たち」
何度か深呼吸をして体調を整えたあと、馬車の周りにいた男女のもとへ向かう。
「ああ、大丈夫だ」
リーダーらしき男と握手を交わす。
「助けてくれてありがとう。まだ子供なのにすごい剣だったね」
「なに、少々剣には自信があっただけのことじゃよ。それではワシは先を急ぐので失礼するぞ」
そう言って彼らと別れようとしたところ、馬車の中から太った商人風の男が出てきて慌ててワシのところへやって来る。
「まっ待ってくれ! 先ほどの戦いを見た限り君は相当強いのだろう? 頼むから我々をハイネスまで護衛してくれんか? 金はいくらでも払うから!」
「むう……」
護衛か……。
確かに今は持ち合わせが少ないし、今後のことを考えると多少なりとも金は持っておきたいところじゃが先も急ぎたいしのう……。
「すまないが僕たちからも頼みたい」
悩んでいると助けた男女からも一斉に頭を下げられた。
「僕たちはこの商人の護衛依頼を受けた隣国の冒険者なんだけど、先ほどの襲撃で見ての通りみんな満身創痍でもう一度賊に襲われたら多分次はない。君が良ければ目的地のハイネスまで同行してくれないか? もちろん僕たちの方からもできる限りの謝礼は払うつもりだ」
しばし考えたのち、ワシはうなずいた。
「……はぁ、分かった。護衛を引き受けよう」
ここまで頼み込まれてしまうと断るのも難しいのう。
その分報酬はしっかりもらうがな。
▼
護衛のついで、リーダーの男から強さで名の知れた人物がいないか聞いてみることにした。
「ワシは強い奴を求めて旅を始めたんじゃが、誰か心当たりはないか?」
「そうだなあ……あっ! そういえば今向かっているハイネスには双剣のカインっていう凄腕のSS級冒険者ってのがいるらしい。僕は会ったことはないけれど、噂じゃかなり強いんだってさ」
「ほう、それはいいことを聞いたのう」
やはり王都に向かうのは正解じゃったか。
他にも男からは、戦場で1000人を殺したという戦士や世界一の槍の使い手と言われる騎士など世界にいるたくさんの強い人物の話を聞けた。
「やはりワシが老いていた間にもどんどん新しき強者が世に出てきておる。これは腕が鳴るわい」
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