第二話 第二の人生はどう生きる?
「はは……はははっ! 本当に若返っておる!」
ワシは部屋の中を飛び跳ねて喜ぶ。
だがしばらくの間、我を忘れて狂喜乱舞していたところでふと思い返した。
「そうじゃ! ワシの力はどうなっておるのか?」
まず魔力を見るため意識を集中し、体内の魔力をまわして量を確認する。
「久しいのう……身体を水が流れるようなこの感覚」
魔力がグルグルと循環を始め、やがて身体の隅々まで流れが行き渡る。
「おお……やはり魔力量もしっかりと若いころに戻っておるようじゃ。だが20代のころと比べるとやや少ない感じじゃのう。さて次は……」
ワシは部屋の隅に置いていた木箱のフタを久しぶりに開け、中から一本の剣を取り出す。
「よもやもう一度お前を持つ日が来るとは思わんかったのう」
これは若い頃に決闘で勝利したとある国の騎士からもらい受け、ずっと愛用していた剣。
豪華な飾りや魔石などは一切ついておらず素朴で頑丈な両刃剣だが、希少なミスリルをふんだんに使ったものでサビや刃こぼれをすることは決してないと聞いた一品じゃ。
「さて……試してみるか」
剣を右手で握りながら魔力を込めていく。
「『炎剣』」
久方ぶりに使う剣技を発動させた瞬間、天井に届かんばかりの炎が剣から立ち上る。
「おっと、魔力を込めすぎたか。このままだと部屋を焼いてしまうわい」
慌てて剣に込める魔力の量を抑え、炎を小さくしていく。
「うむ、15歳の時には覚えていなかった剣技も発動できておる」
となれば今度は実際に相手を立てて技を使ってみたいところじゃが……。
「さすがに部屋の中では無理じゃのう」
そう考えたワシは街にある練兵場に向かうことにした。
あそこには弓の的や打ち込み用の木人形が置いてあり、一般人でも使えるのでお試しにはもってこい。
ワシは今まで着ていたヨレヨレの服から動きやすい服に着替え、鞘に納めた剣を腰に提げて外へ出る。
「『疾風』」
魔力を足に集めて速く走る体技も久々に使ってみる。
「この風を切る感覚——! 久しぶりだがやはりたまらんのう!」
そしてワシは大通りを避け、鳥のように家々の屋根を飛び移ってあっという間に家から反対側にある練兵場へ到着。
「着いた着いたっと」
幸いにもそこには誰もおらず、貸し切り状態。
これなら心置きなく剣技を使えるというもの。
逸る気持ちを抑えて剣を抜き、手近な木人形へ近づく。
「『炎剣』」
再び剣技を発動させ、ワシは燃え盛る火のついた剣を右手一本で振りぬく。
「ふんっ!」
その瞬間、木人形は真っ二つに裂け、真っ赤な炎が人形の残骸を包み込んだ。
「うむ、威力は問題なし。どんどん試していくぞい……!」
それからワシは2時間ほど人形相手の試し斬りに没頭し、40年ぶりに使う様々な剣技の感覚を身体にしっかりと思い出させていく。
「ふう……いい汗かいたのう」
額の汗を袖で拭う。
「覚えていた剣技は軒並み使えるようじゃが、昔と比べて魔力の残量が少ないし感じたことのなかった軽い疲労感もある。身体は15歳相応になっておるようじゃな」
試しが済んだところで考えるのは今後のこと。
「とりあえずはここを出て、身体を鍛えつつ強い相手でも探すとするかのう」
となると、まず向かうなら人の多いこの国の王都ハイネス辺りが良さそうじゃな。
人が多ければそれだけ強い相手もいるじゃろうし、面白そうな情報も集めやすいじゃろうて。
「そうと決まれば善は急げじゃ。帰って荷支度の準備をせねばのう」
そしてワシは部屋に戻り、隅に置いてあった黒革のカバンを引っ張り出す。
「これを使うのも久しぶりじゃなあ」
こちらも昔に剣王を名乗って勇名をはせていた男に勝利し、戦利品代わりにもらってきた品。
どんな大きさや重さのものがいくらでも収納できるうえに腐ることがないという魔法のカバンらしく、その後の旅では大いに役立ったものじゃ。
「とりあえず中に金と食糧と着替えやらを入れておくとして……あとは身体に合う革鎧なんかも買うとするかのう」
年老いてからはギリギリの生活だったもので手持ちの金は残り少ないが、まぁ道中は野営をすればよいし極力金を使わないようにすればなんとかなるじゃろう。
そうして準備を整え、いよいよ出発の時。
「さあて、どうやって王都までいくべきか……」
のんびり行くなら馬車にでも乗るのが一番じゃがそれでは味気ないのう。
「鍛錬もかねて走っていくとするか!」
ここから王都までは馬車で2週間ほどのはず。
体力をつけるにはもってこいの距離じゃな。
「待っておれよ、ワシの知らぬ強き者たちよ! 今会いに行ってやるからのう!」
街の城門を抜け、ワシは一目散に駆け出した。
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