敗北にしない為の挑戦
生きろ、そして挑め。生き残らなければ飛べない。そんな当たり前。惚れる青さの空に千切れた雲が密集していた。死はその中に隠れていた。空中戦だ。目線を忙しなく動かし見失った敵を探す。どこに行った。操縦桿を頻繁に傾けては機体がジグザグに翼で空を切った。雲の狭間できらりと光る翼を見た。突っ込み、銃口を差し向ける。穴だらけの風防からは風が吹き込み真冬よりも手足を凍えさせた。弱音は吐かない。弱音は弱さになる。敵と絡みつくようにお互いを襲いあった。猛獣の戦いだ。牙をたてられたほうが死ぬ。空薬莢が空へばら撒かれ、銃弾が敵に食い込み、こちらにも食い込む。がん、がん、と当たるが、当たらないと思い込むことにした。死ぬなんて考えて戦はない。そうしていると、エンジンが小さく爆発した。火を吹き出し、見る間に出力が下がり機体を地面へと引きずりこむ。駄目だ、と脱出して数十秒で機体は地面とぶつかり爆ぜた。敵のエースは、落下傘の開いたパイロットの周囲を数周回ると、そのまま去っていく。何かを話したが、それが何かは墓場までの秘密だ。