うたかたシノプシス;
登場人物
望月準 18歳 / ぺーぺーのラノベ作家 暇さえあれば、10インチくらいのノートPCを広げて文章を打っている。
望月初芽 21歳 / 準の姉、ひきこもり
糸倉つくば 高2~3 / 準のファン
(年齢は見た目だけの物)
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〇アバンタイトル・イメージ映像
準(18)、布団で寝ている。
初芽(準の姉、2~3歳上)、準の頬をそっと撫で立ち上がる。
初芽「ちょっと、行ってくるね」
初芽の手が光りだし、光の玉が出来てくる。
どんどん大きくなり、初芽の体を包む。
シュン、と光が小さくなり初芽の体もろとも消える。
○タイトル
「うたかたシノプシス;」
○昔の自宅・おふろ(回想)
子供の頃のお風呂。
準(小5くらい)、湯船に使っている。
準「勇者が宝箱を開けると、そこにはさっき倒したはずのネズミの怪物がいました」
初芽(中2くらい)、頭に泡、体をスポンジで洗っているが聞き入って手が止まっている。
初芽「それでそれで?」
準「ねえ、お姉ちゃん、もうのぼせちゃうよー」
初芽、体を適当に洗い出す。
初芽「えー、準君のお話しもっと聞きたいなぁ。面白いんだもん」
準「もう、出るよー」
初芽、シャワーで泡を洗い流している。
初芽「まってよ、洗い終わるから一緒に入ってから出よう」
準「えー」
初芽「準くんは未来の小説家だね」
泡が流れだし初芽の裸が見えそうになった時に画面が揺れる
○山手線・電車内・夏
山手線の電車の中。
周りに誰も居ない電車の中で準が椅子に座りノートPCのキーボードを叩いている。
放送《ただいま、当車両は運行上のトラブルにより急停車いたしました。復旧までしばらくおまちください》
ノートPCの画面アップ。前シーンを活字化したものが写っている。(画面上では「姉」「弟」になっている。)
準、タイピングを一瞬止めるが、特に気に留めることもなく、すぐにタイピングを再開する。
つくば、横から覗いている。
準「覗きは感心しないぞ。つくば」
糸倉つくば(高2~3)「先生、また会いましたね」
つくば、セーラー服を着ている。
いつの間にか横に座ってノートPCを覗き込んでいる。
準「ああ」
つくば「で、ちらっと見えてしまったのですが……」
準M「ガッツリ覗いてたけどな」
つくば「新作は幼ポ物ですか?手が後ろに回りますよ?」
準「アホか。これは昔の記憶だよ」
つくば「記憶?」
準、再びキーを打ち始める。
準「昔のことを思い出して今後の作品のネタにするんだよ」
つくば「なるほど」
つくば、再び画面を凝視し、姉(中二くらいだったかな?)の表記を見つける。
つくば「でも、お姉さんが中2で一緒にお風呂というのは……?」
少しの間。
つくば「…うらやましい。せんせい、今度わたしとお風呂に入りましょう」
準「入りません」
つくば「残念です」
準、チラッと横目でつくばを見て、再びキーボードに向かう。
つくば、画面を見ている。
放送《電車動きます》
電車が動き出す。
つくば「…お姉さんからは、まだ連絡はありませんか?」
準「ああ。もうどれくらい経つんだろうな」
つくば、なんともいえない表情。
準「あのヒキコモリが急に居なくなっちゃうんだもんなぁ。やることが極端なんだよ」
放送《つぎは~○○》
準「じゃ、俺は帰るな」
つくば「それでは~」
つくば、ドアの前まで行き見送る。
つくば「…そろそろかな。心を動かすには時間がかかるもんね」
○自宅そば~玄関前(日が沈んで暗くなった頃)
準M「今日も電車に半日乗って執筆。」
準M「今後の作品のネタか…」
準M「たんに姉ちゃんとの思い出を忘れない為に書いているだけなんだけどな…」
準、家のドアを開けうつむきながら靴を脱いでいる。
準「ただいまぁ」
準M「と、言っても」
初芽「お帰りなさ~い」
準M「と、いう返事が返ってくるわけでもなく……って返ってきたな?」
初芽、トテトテと駆け寄ってくる。
初芽「お食事にする? お風呂にする? それともわたし~? えへへ~」
準「……ね、ねえちゃん!?」
準、びっくりするが、気を落ち着ける。
初芽「え?!わたしなのー、それはそれで~」
初芽、準がびっくりしたのを微妙に勘違いしてブツブツと独り言を言っている。
準「ねえちゃん、逆だよ」
初芽「?」
準、少し微笑んだ感じで、しっかりした口調で
準「おかえりなさい」
初芽「ただいま~。えへへ」
準、ドアを閉める。
そのままロングショットで空。
準M「いきなり帰ってきた姉ちゃんは、まるで家出なんてしていなかったかのように、夕食を用意してくれた」
準M「姉ちゃんがいた頃の日々が戻ってきた。灰色だった背景が一気にパステルカラーになった気分だ」
準M「気が緩むとニヤニヤしてしまいそうだったけど、クールな弟ぶって平静を保つのが大変だったよ」
○自宅・リビング(朝)
BGMがわりに点けているTVからニュース音声が流れている。
TV 《昨日、全国的にネットが不安定になった件に関し、総務省は各プロバイダに原因の追究に全力で当たるよう指示を出しました。》
コメンテーター男《なんか、数年前にはこういうこと結構ありましたよねぇ》
(この辺からOFF気味)
コメンテーター女《当時も結局原因はわからなかったんですよねぇ》
コメンテーター男《海外のハッカーの仕業なんてうわさもありましたよね》
コメンテーター女《今回は原因がわかるとよいのですが……》
テーブルには朝食を食べたあとの食器。
準「姉ちゃんは、今日はこれからどうする?」
初芽「わたしはヒキコモリ~」
初芽「準くんは?」
準「俺も姉ちゃんと一緒に引きこもろうかな……」
初芽「ダメだよ~。いつも通りにお仕事しなくちゃ~。電車で執筆でしょ。センセー」
準「先生はやめろよw
初芽「準くんはおしごとにいってらっしゃーい」
準「はいはい」
○山手線・電車内
準、電車内でPCのキーボードを叩いている。
画面には姉ちゃんが帰ってきた事が書いてある
つくば「先生、お姉さんとのチョメチョメ日記かっこ仮題は順調ですか?」
と、画面をのぞき込んでいる
準「勝手に変なタイトルを付けるな」
つくば「……こんにちは」
準「その姉ちゃんだけど、昨日唐突に帰ってきたぞ」
つくば、変わらずノートPCを覗き込んで文章を読んでいる。
つくば「そのようですね」
準「……覗きはよくないぞ」
つくば「彼女の特権です」
準「誰が彼女だ」
つくば「じゃあ、ファン活動の一環です」
つくばが覗いているが準は気にせずふたたびキーを打ち始める。
準「ひどいファン活動だな」
準、しばし無言でキーを打つ。
オーバーラップとかで時間の流れを表現。
つくば、画面を見るのをやめ準の顔をじっと見る。
つくば「先生。ファンサービスがなってません」
準「ん?」
つくば「なにか話しかけてきてください」
準「ん~」
つくば「何でも聞いてください」
準、めんどくさがってキーを打ちながら適当に。
準「あ~、じゃあ、どんなパンツはいてるの?」
つくば、前に立ちスカートをめくり上げる。
つくば「こんな、パンツですよ?」
準、瞬間的に手で払い手を下ろさせる。
あたりを見回し、人がいないのを確認する。
なかったことにする。
やれやれといった感じで、
準「あ~、じゃあ、超能力って信じる?」
つくば「はあ?」
準「ふと思い出したんだけど」
準「昔、姉ちゃんが超能力みたいなのを使っていた気がするんだ」
つくば「はぁ、それは、どのような?
準「手のひらで、色々な物を消していたような」
アバンの手が光るシーンのリフレイン、もしくは同じ感じのイメージカット。
つくば「いつごろの話ですか?」
準「そういえば、いつだったかなぁ?最近だったような、昔だったような…」
つくば「夢?」
準「う~ん」
つくば「本人に聞いてみるのが一番かと」
準「まあ、そうなんだけど」
つくば「超能力で思い出しましたが、ちんからほいと唱えると、とてもいい事が起きると聞いた事があります」
つくば、準の前に立ち、スカートを手にする
準「…いわない」
○自宅・姉の部屋
本棚には量子力学の本や、ネットワーク系の難しい本が並んでいる。
1冊だけ準の書いたラノベがテーブルの上に載っている。
初芽「やっぱり、もうダメだったよ」
初芽「消すしかないかな」
初芽、胸の前にあるボールを掴むようなしぐさをする。
手のひらの間が光りだす。
が急に光を無くす。
初芽、んっ?っとなる。
初芽「サスペンドされた?」
初芽「…まあ、そうだよね。」
○自宅・リビング(夜)
準、ドアを開けてリビングに入る。
準「ただいまー」
初芽、ぺたんと座り半べそでいじけている。
準「どうしたんだよ」
初芽「う、う、おそいぃ~~」
初芽「新婚一日目なのに、こんなに遅いなんてぇ……」
準「誰が新婚だ!」
初芽「う~」
初芽、急に素になり準に話し出す。(今のはただの冗談で、それは準も比較的慣れっこ。)
初芽「あっ、で、準君、お仕事のほうはすすんだの?」
準「なんか、最近俺のファンとかいう女子高生に邪魔されてるんだよなぁ」
初芽、むむぅ~っとした顔で
初芽「女子高生ぃ~?いつから~?」
準「いつごろからだったかなぁ?なんか最近記憶があやふやで覚えてないなぁ」
初芽「新婚なのに思い出せないほど昔から不倫してたなんて、ひ~ど~い~~」
準「はいはい」
初芽「じゃあ、その女子高生とわたしどっちが可愛い?」
準「ん~?あー、そういや、あいつどんな顔してたっけ?」
準、本気でちょっと悩む。
初芽「ひどいなぁ準くん、ファンは大切にしなよー」
準「どっちの味方だよ!」
○自宅・リビング
準、一人でちゃぶ台の上のノートPCのキーを打っている。
○過去・病院
今より幼い感じの準、ICUのベッドで安静にしている。ガラス越しに初芽を見ている。
初芽「わたしが助けてあげるからね。
イメージの世界っぽくなり、初芽が暗闇に走って消えていく。
準「おねえちゃん…行かないで」
準「死ぬ時はおねえちゃんのそばが良いよ…」
準「おねえちゃん、おねえちゃん」
○自宅・リビング
キーを打つ手が止まる。
準「……ん?なんだこれは?」
準「俺の記憶……なのか?」
○同・お風呂
初芽、湯船に入ってリラックスしている格好をしているが顔はやや険しい。
謎の力で誰かと話している。
初芽「なんでサスペンドするかなぁ」
*「……」
初芽「時間無いのにー」
*「……」
初芽「そんなこと言ってもねぇー」
*「……」
初芽「準くんだけ居ればわたしはOKなんだよー」
*「……」
初芽「うん、とにかくデータ見てよ」
○同・リビング
風呂から上がってタオルを巻いている初芽が、ドアを開けひょこっと顔を出す。
初芽「でたよー」
準「おー」
初芽「こんど昔みたいに一緒にはいろーか?」
準「アホか」
初芽「あははー」
準、ちょっと考えて
準「なぁ、ねえちゃん
準、指をちょいっと振って
準「ちんからほい」
初芽、ちょっと考えて、ああって顔をして、わざとらしくバスタオルを落とす
初芽「わー」
初芽「準君のえっちー 魔法でタオルが落ちちゃったよー」
準、そこそこ見慣れている感じで、特に焦ったりはしない。
準「いいからパンツくらいはきなさい
初芽「はーい、ってあったかなぁ?
初芽、タオルを拾って出て行く。
準「魔法か…
超能力のシーンのリフレイン
準、じっと自分の手を見る。
○初芽の部屋
暗い部屋、モニタの光がついている。
つくばと話しているけど、特に通信機器を使っているわけではなく、テレパシーのような物。
今度ははっきりとつくばの声が聞こえる。
つくば「それでどうでした、あちらは?」
初芽「転送に時間かかりすぎだよー」
つくば「もともとこっちを監視するのに必要な回線速度しか用意されてませんからね」
初芽「まあ、そうなんだけどさぁ」
つくば「それはともかく、その成果ですが…」
初芽「…もう、ダメでしょ?
つくば「このデータを見る限りでは相当厳しいですね」
初芽「あっちのシステムは判断をこっちに任せるみたいだから、さっさと消しちゃってよー」
つくば「わたしはこちらのシステムにのっとった判断しか出来ませんから、消去命令のサスペンドの解除は不可です」
初芽「頭固いなぁ」
つくば「それは、わたしのシステムを作った人に言ってください」
つくば「なんにしても先生次第です」
初芽「う~ん」
○同・リビング(次の日の朝)
準、朝食を食べている。
TVからは昨日と一字一句同じニュースが流れている。
準、微妙な違和感を覚える。
準「ん?なんか前にも…(見たような?)」
初芽、寝起きで、リビングに入ってくる。
初芽「おはよー」
準「おはよ……ってなんだその恰好は!」
初芽、準のパンツに、準のTシャツを着ている。
初芽「だってー、着るものなかったんだもん」
準「だからって、俺のパンツを履くな!」
初芽「何も履かない方が良かった?」
準「アホか」
準、初芽のおでこを軽く小突く。
準「……服、買いに行くか?」
初芽「うん」
○自宅から駅までの道
2人で並んで歩いている。
初芽、着る服がないので準の服を着ている。
初芽「♪~ぶかぶか~」
準M「姉ちゃんと一緒に外を出歩くなんて、ここ最近あっただろうか?」
準、初芽のほうを見る
準「なあ、姉ちゃんってヒキコモリだったよな?」
初芽「準くんの住む世界を守ってないとダメだったからねぇ。」
準「なんじゃそりゃ?ネトゲの話か?ってかヒキコモリをやめたらこんどは不思議ちゃんか?」
初芽「ちがうよー、世界が危ないんだよー」
準、ハイハイと言った感じで
準「はぁ、で、世界は救われそうなのか?」
初芽「う-~ん、もうダメだねぇ」
準「ダメなのかよ!」
初芽「でも、どうにもならないから一緒にデートできるよー」
準「デート、ね」
準M「まあ、それはうれしいので、享受しよう」
○山手線・電車内
つくば「ひゅーひゅー(棒読みで煽る)」
準「またお前か。
準「ほら、こいつが昨日言った女子高生のつくばだ」
つくば「どうも、始めまして」
初芽「こうして会うのは、はじめまして、だね」
準「?」
つくば「先生とおつきあいさせていただいている、つくばと申します」
準「なにいってるんだ?」
初芽、準をにらみつける。
初芽「じゅーんくーん、やっぱりー、わたしというものがありながらー」
つくば、したり顔。
準、棒読みな感じで。
準「はいはい、俺は姉ちゃんの物です。だから心配しないで平気です」
初芽、顔がほころび、更にしたり顔になる。
つくばは、むむむ顔。
初芽「ふふん」
つくば「むむ」
準はどうでもいいって感じの様子。
準M「まてよ、下着売り場にもつき合うことになりそうだし、つくばと一緒のほうがいいんじゃないか?」
準「なあ、俺たちこれから服を買いに行くんだけど、一緒に行くか?」
つくば「いきます、そして、わたしも買います。お姉さん服で勝負です!どっちがせんせいを悩殺できるか!」
初芽「むむ、受けてたつぞ!」
準M「ん~、俺が判定する以上、姉ちゃんの勝利は確定だ。そもそも、俺が一番好きな服はセーラー服だ。つくば、着替えた瞬間、更にレベルが落ちるぞ」
○しまむら的なそんなに高くない洋服店
客や店員は全く居ない店内。
勝負の割にはきゃっきゃしている2人。
ファッションショー的な感じ。
セリフなしでフリル系とかフォーマル系、下着とか、ベタな感じで2人が試着して準に見せているイメージカット。
○山手線・電車内
準「勝負のわりにはほぼ俺抜きで楽しそうだったな」
つくば「で、勝敗は?」
準「姉ちゃんの圧勝だけど」
初芽「ほら、わたしの勝ち~」
つ「ぐぬぬ~」
初芽「じゃ、勝ったんだからつくばちゃんはわたしのお願いを何でも1つ聞いてくれるんだよね」
つくば「いつからそんな話になったんですか?」
初芽「じゃ、お願い言うね。いいよね?準くん」
準「んあ?ああ、あんまり無理なこと言うなよ」
初芽、やや、まじめな顔で
初芽「デリートの実行許可を出して」
準「?」
つくば「…それは、…出来かねます」
初「準くん、OKしたじゃーん」
つくば「いや、そっちの返答ではないと思います」
初芽「む~」
準「おいおい、なんだ?唐突に話がわからなくなったぞ」
つくば「…初芽さん、そろそろ、説明しないと」
初芽「う~ん、そうだよね」
少しの間。
初芽「見ててね」
初芽、両手の上に10円玉を置く。手が光りだし、10円玉が宙に浮く
初芽「消去」
つくば「許可します」
宙に浮かんだ10円玉がフワーッと消える。
準「…超能力!?」
準、2人の顔を見る。
準「えっ、どういうこと?!」
初芽「うすうす感じてると思うけど、準くんこの世界に違和感があるよね」
ここで、いつもの電車停止の放送。
つくば「いま私たちがいる、この世界はコンピュータの中なんです」
準「え?」
初芽「で、メインコンピュータからの命令を判断するのが私の仕事」
つくば「その判断を許可するのがわたしの仕事です」
準、自分の手を見る。
準「コンピュータ内?…ほんとか?」
初芽「いま、準くんにはこの世界が正常に思えるように思考に制限をかけてるんだよ。ちょっと破綻が出始めてるけど」
つくば「よく思い出してみてください、お金を使った覚えはありますか?」
つくば「何年前からこういう生活していますか?」
つくば「そして、わたしたちのほかに人間を見ましたか?」
準、言われて初めておかしいことに気付く。
準「…」
つくば「そしてここからが本題です。端的に言うとこの世界を構成しているコンピュータが壊れかけています」
つくば「ノアの箱舟として作られたこのコンピュータ上の世界にはデータ化された数十万の人間が生活していました」
つくば「しかし、間もなくリアルワールドで何らかの災害が起きたようで、コンピュータのほぼ全てがダウンしてしまいました」
つくば「そのような状況ではこの世界のデータ量を処理できません、そこで先生以外の数十万の人のデータを圧縮して凍結しました。建物やインフラ等も張りぼて状態です」
準「なんで俺だけ?」
初芽「それはお姉ちゃんの管理者特権で準くんを最重要人物に指定したからだよ」
準、ほんとかよって顔。
つくば「わたしたち3人しか居ない状態で、情報密度と認識能力を極限までカスタマイズしています。そこまでしてやっと現状を維持しています。今この瞬間にこの世界が終わってもおかしくない状況です」
つくば「特に凍結しているとはいえ数十万の人のデータは重荷になっています」
初芽「で、邪魔だから消そうとしたんだけど、つくばちゃんが許可してくれないんだよね」
つくば「そこまでの重大な判断は私のみで出来るようには任されていませんので。判断には市民の過半数以上の承認が必要になります」
準「過半数以上って、俺しかいないんだろ?」
初芽「そう。だから、準くんはどう判断する?」
準「…俺は」
つくば、真剣な顔で
つくば「……圧縮されたデータの中にはいろんな人がいます」
つくば「可愛い子、しかってくれる人、理不尽な人。あなたを好きになってくれるかもしれない子」
つくば「その人たちの生活もあります」
つくば「先生はどう判断しますか?」
準、平然とした顔で
準「判断も何も姉ちゃんさえ居れば問題ないからなぁ。その他数十万には悪いけど」
つくば「なかなかのサイコパスなシスコンっプリですねw さすがです」
初芽、ニヤニヤしている。
つくば「本来ならここで市民同士が倫理観とか公平性とかで喧々諤々の選挙のはずなのですが、都合の良いことに市民は先生だけです」
つくば「承認です」
初芽「ヤッター」
つくば「では、処理を開始します」
つくばの目がチカチカと1秒程度光る。
つくば「削除完了です」
準「はやっ」
準M「この一瞬で数十万人が消えたと思うと…、別にどうとも思わないな。特に変化ないし」
つくば「ふぅ、ひと仕事終わりました。これである程度は時間が稼げるでしょう」
初芽「良かったねー」
準M「なんだろう。全然実感がないなぁ。いいんだろうか?」
電車再開のアナウンス。
準M「こういう放送は自動音声みたいなもんなんだろうか…」
電車が走っている雰囲気のカット(つり革が揺れているとか)
3人は寝てしまう。
小1時間後、準が起きる。2人はまだ寝てる。
あれ、結構寝ちゃったかな。
準、2人を見る。
準「これがコンピュータの中なのか?」
準、姉のほっぺをかるくひっぱる。
準「う~ん」
準、姉の胸をつっつく。
準「これなら、コンピュータの中でもいいや」
準、ふたたび寝る。
○山手線・電車内(数日後~)
準の思考制限は多少緩くなってきていて、世界の違和感に気付けるようになっている。
いつも通りに電車内でキーを打つ。
いつもの車内放送。
全くの無人。
準M「なんだろう、世界が変わったように見える」
準M「窓から見える景色も安っぽいアニメの背景みたいだ」
準M「壊れ行く世界か。実感ないな。」
つくばが横から覗いている
準「覗かないで、いただけますか?」
取り合えず平穏が戻ってきた感じ。
つくば「それ、まだ続けているんですね。」
準「ああ。世界が消えるかもしれないのにな。」
○時の流れ的な物(半年後くらい、季節は夏のまま)
○家の最寄りの駅(夕方)
準、ノートPCを片手に帰途に付こうとしている。
準「今日はつくばが来なかったな」
準が外をちらっと見ると背景が簡略化されていく。ノイズも出始めている。
準「ん?なんか、いつにも増して見え方がおかしいような?」
つくばが目の前にワープしてくる。
準「わ、びっくりしたー」
つくば「先生!初芽さんが呼んでいます。急ぎましょう」
○家路
2人がそこそこの駆け足で家に向かっている。
背景がどんどん簡略化されていく。
つくば、初芽からの矢継ぎ早の命令を受けている。
つくば「許可します」
つくば「許可します」
準M「その時が来たって事だろうなぁ」
○家・リビング(夜)
準、少し息が切らしながら、リビングのドアを開ける。
準「はぁはぁ、姉ちゃん」
初芽「オカエリー、まってたよー」
準、テーブルの上を眺めて
準「なんだ、これは?」
テーブルの上には酒が並んでいる。
初芽「ほら、飲もう!」
初芽「飲み会だよー」
準、ちょっと呆れた感じで。
準「世界が危ないんじゃないのか?」
初芽「う~ん、世界の最後くらい楽しくしようと思ってねー」
準、姉ちゃんらしいといった面持ちで、
準「ふふっ、まあ、俺には何にも出来ないんだから、姉ちゃんに任せる」
つくば「わたしもお付き合いします」
各自、酒の缶を持つ
初芽「はい、じゃあ、かんぱーい」
○同・リビング(時間が経過)
初芽、眠くなってしまい寝ている。
つくば、初芽をつっついて遊んでいる。
準は、缶ビール片手にそれを見ている。
準「弱いくせに意外と酒好きなんだよな」
準「で、どうなんだ?」
つくば「危ない状況ですね」
準「俺たちも、これまでって事か…」
つくば「いえ…実は、もう1台コンピュータがあるんです」
準、つくばのほうを見る。
つくば「この世界は、純粋な人間、純粋なAI、それと生体コンピュータの3人で管理されています。
つくば「純粋な人間は初芽さん」
つくば「純粋なAIは私」
準、なんとなく納得した表情。そして、気になる
準「生体コンピュータってのは?」
つくば、順を追って話し出す。
つくば「先生が子供の頃、病気で生死の境をさまよった時の事は覚えていますか?」
準「ああ、なんとなく」
つくば「その時、初芽さんが居なくなりましたよね?」
この辺から当時の映像がカットバック。
つくば「初芽さんの脳は、世界で数人しか発見されていない生体コンピュータに適合した物だったんです」
つくば「本来準さんはこちらの世界に来るはずのない人間でした。ただ、準さんを助けるには、こちらの世界でデータとして生きていくしかなかったんです」
つくば「それを条件に、初芽さんは自分の脳を提供しました」
準、神妙な顔で聞き続ける。
つくば「そしてその生体コンピュータは完成と同時に宇宙へと打ち上げられ、ここの管理体制が完成しました。
地上のスパコン施設からパンして人工衛星に、その中の透明なケースに入っている脳から配線が出ていてパネルにはHATSUMEの文字。
準「…宇宙かよ」
準、初芽の寝顔を見る。
準「ともかく、そっちのコンピュータに引っ越せばいいわけだな」
つくば「そうなんですが、セキュリティ上、あちらにいける権限があるのは初芽さんだけです」
準、じゃあ?と言う顔
つくば「制限を解除する方法もあることにはあります」
つくば「人口の過半数以上が許可しないとダメですが」
準「またそれか」
つくば「先生、どうしますか?」
準「解除してくれ」
つくば、すこし悲しそうな顔をして
つくば「許可します」
準「で、どうするんだ」
準、つくばのほうを見ると、つくばの足元がノイズになって消えていっている。
つくば「…では、お別れです」
つくば「私が居なくなることで制限がなくなります」
準「おい、それって」
つくば「いいんです、住人が居なくなるこの世界には必要のない存在ですから」
つくば「せんせい、最後にお願いが、
準、真剣な顔持ち
つくば「チューしてください」
準、微妙な顔。
準「なんじゃそりゃ」
つくば「わたし、本気です、ほらぁ~」
つくば、くちを「3」にして、ん~っとやってくる
初芽の寝言。
初芽「むにゃむにゃ、準く~ん」
準、いったん初芽のほうを見てから、つくばのくちびるに指を置き、首を振る。
つくば「ですよね。サイコパスなシスコン野郎ですもんw」
準「まあな」
つくば、どんどん足が消えていく。
つくば「さよなら、お二人で幸せに」
準「ああ」
準、消える寸前につくばのおでこにチュー。
準「じゃあな」
うっすら涙を浮かべて笑いながら消えるつくば。
世界全体がザザッとノイズに包まれる。
○同・リビング~ベランダ(しばらく後)
準「夢か?」
準、ボーっとしている。
ノイズが晴れて背景が見え出す。
初芽がベランダに立って満月を見ている。
背景の簡略化が激しいが、どこか印象的。
準、つくばが居ないのを確認。すべてが現実と言うことを認識。
準、初芽を見つめる。
準「じゃあ、いくか」
初芽「いいの?」
準「ああ」
初芽「あっちの世界は小さいよ」
初芽「ほとんど精神だけの世界」
初芽「二人がまぜこぜになってしまうかもしれない」
準「うん」
初芽「こっちで、この世界が壊れるまで二人で居ることもできるんだよ」
準「俺はどういう状態になろうともずーっと姉ちゃんと2人で居たいんだ。ねえちゃんは?」
初芽「もちろんわたしもだよ」
準「じゃあ、こんな先のない世界とはおさらばだな」
初芽、うなずく。
初芽「でも、転送には時間がかかる」
初芽「2人の転送が終わる前に、こっちの世界が壊れたらおしまい」
初芽「いい?」
準「ああ」
初芽「じゃ、わたしから」
初芽、鼻息荒めで
初芽「向こうで、準君を一人にさせたくないからねっ」
準「姉ぶるなよw」
初芽「お姉ちゃんですから」
初芽、チョイまじめな顔に戻り
初芽「計算上はギリギリかな」
初芽「じゃいくよ」
準「ああ」
周りが電脳世界になり、転送が開始される…かに思ったが、戻ってしまう。
初芽「あれ?拒絶された?」
準「どういうこと?」
初芽「向こうのコンピュータが準くんを異物とみなして転送を拒否してるみたい…」
準「それはつくばが何とかしてくれたんじゃないのか?」
初芽「そのはずなんだけど…」
準「宇宙の姉ちゃんは意地悪だな」
初芽「あっちの脳には私の記憶も人格もないんだけどね。全部こっちに移動したし」
準「そうはいっても姉ちゃんだろ」
準、ちょっと考えて
準「あっちに話しかけるようなことはできるのか?」
初芽「データを送ることはできるよ、転送速度は遅いけど」
準「文庫本数十冊分くらいは?」
初芽「それくらいなら余裕かな」
準「どうやったらいい?」
初芽「えっとメアドは」
準「メールかよ!」
準、メーラーに今まで書いてきた姉との思いでメモを添付する。
初芽「なにそれ?」
準「秘密だ」
初芽「えー」
準「じゃあ、送るぞ」
準「そっちの姉ちゃん、思い出してくれ!」
準、エンターキーを置す。
少しの間の後、電脳世界に戻る。
初芽「どうやったの?
準「向こうの姉ちゃんにラブレターを送ったんだよw
初芽「えー、よみたいーい」
準「あっちでな」
初芽「うん」
初芽「じゃ、今度はほんとにいくよ」
準「ああ」
初芽、足から消えていく、準はサスペンド状態になり凍結している
初芽、準を見ながら
初芽「おねがい、間に合って…」
初芽もサスペンド状態になる。
* * *
○あっちの世界
うやむやな世界。
初芽「準くん起きてよー」
準M「あれ? ここはどこだろう? ベランダ…じゃあないよな」
抽象的な模様から、人間らしき物が見え出す。
初芽「……準くん」
準M「姉ちゃん!?」
初芽「心の中の目を開けてみて」
眼下に地球。(衛星についているカメラ。専用で無いので解像度は低い)
夜の部分に光は無い。
準M「宇宙?」
初芽「わたしの中だよ。」
準M「姉ちゃん。姉ちゃんが見えない」
初芽「平気、私を思って」
初芽の顔が見える。
うやむやの世界の中で初芽と準が溶け合っている。
準「姉ちゃん」
初芽「準くん。やっとあえた……」
準「やっと?」
初芽は複雑な顔をするが、すぐにふっと笑う。
初芽「ふふっ。そこでこんなデータ見つけちゃった~」
冒頭の日記のおふろのシーンが横切る。
初芽「こんな事考えてたんだ、えっち~」
準「なんだよ姉ちゃんだって、そんなところ見てたのかよー」
初芽「こら~、そんな私の記憶見ちゃダメー」
お互いの思い出のデータやら記憶を引っ張り出している。
記憶のデータが入り混じり、二人共有の物になってしまっている。
初芽「あ、これは夏祭りで準君が指輪を買ってくれたときのねー……
準「あ、こんなのもあるのかよ~、なつかしいなぁ」
向かい合って、手を取り合い、微笑みあう。
初芽「ね、なにかお話してよ。時間はいっぱいあるんだし。」
初芽「子供の頃好きだった、宝箱とねずみの話が良いなぁ
準「うん。昔々~……
2人しかいないうやむやな世界で永遠にキャッキャウフフを続ける二人。
終わり
最後まで読んでいただきありがとうございます。
2019年4月現在、これを元にした自主製作アニメを作っています。
そちらの方もよろしくお願いします。