4.会談
ポイントをつけていただきブックマーク登録されてるなんて感謝感激です。
12/6 誤字脱字間違いなど修正読みづらいので『やよい』→『弥生』に変更しました。
「筒井さん、回りくどい説明はお好きでないと思うので単刀直入に言いますと、とある方の代わりに高校に通っていただきたいのです」
そう言うと香田は一枚の写真をテーブルに置いた。
そこに写っているのは赤い髪をツインテールにしたかわいらしい少女が写っている。
道子は自分とは違う世界を生きる人間と感じていた。
「随分かわいいらしい方ですね、ですが話が見えないのですが」
「ここからは内密にしていただきたいのですがこの子はヒラノインダストリー社の社長の娘で『平野 弥生』さんです、今現在彼女は消息不明、正確には家出中なんです」
「はあ・・・?」
「この事を知られると大変まずい事になることが想定されました何とかごまかさなくてはならない事態になっています、つきましては道子さんあなたに影武者として『平野やよい』として生活していただきたいのです」
「ちょっ、ちょっと待ってください!理解できません!」
「混乱するのも解りますが今現在最善な手としてはこれしか実行不能な状態なんです」
「そもそも、やよいさんでしたか?私と似てもないのに影武者なんてできません!からかっているのですか?!」
「これを見てください」
そう言うと香田は写真をもう一枚テーブルに置いた。
その写真を見た道子は髪の色こそ赤いが自分が写っていたと言えるような写真に言葉が出ない。
「彼女はメイクではかわいくしてましたがメイク前は道子さんとうり二つです、我々はこの件に関して色々な手段をシミュレートしておりました。が、一番ありえなさそうなそっくりさんに影武者を立てれる人材を発見できると思いませんでした」
「自分で言うのもなんですが鏡を見ているようです」
「そこで、道子さんにはやよいさんに成りすまして金白学院高校に通っていただきたいのです」
「いや、無理です!」
金白学院高校とはA県でも金白学院大学を頭に幼稚園から一貫教育できる有名なお嬢様学校である。
そこに通う学生は淑女たれと教育されていると言われており、公立高校に通う自分には縁の無い世界である。
そもそも影武者って何なの?時代小説なの?という時点で本人の理解を超えているがそんな道子の心情を無視するかの如く香田は話を進める。
「ええ、明日からお願いしますとは言いません、今現在『弥生』さまは病気で入院しているという事になっております。夏休み明けには復学する予定にしてますのでそれまでに影武者になるための訓練をしていただきたいと思ます」
「そんな付け焼刃ではすぐにメッキが剥がれてバレてしまいそうなんですが」
「筒井さん、今メッキとおっしゃられましたが金白学院の名前に絡めた造語が有るのはご存知ですか?」
「いえ、聞いた事は無いです」
「幼稚園から入園する子供はプラチナ、小学校から入学するのは純金、中学からだと18金、高校だと24金、大学だとメッキとはよく言ったものです、でヒラノインダストリーはどこに出しても恥ずかしくない成り上がりですので24金となります、ですので清楚な立ち振る舞いをする必要は有りません、むしろ雑な感じでやって頂いかねばなりません」
「何もかも唐突すぎます、順を追って説明してください」
目まぐるしく変わる状況に考える時間が欲しく、苦し紛れに道子は口を開く。
そんな彼女の態度に隣に座る由里が苦笑する。
「もう香田、あんたね事実を隠して話すのは限界なのよ、道子ちゃんあのね弥生ちゃんが家出したことで家庭内の問題で終わるのならこんなお願いはしなかったわ。だけどこの事が会社の経営にかかわる話になってしまったのがそもそもの始まりなの」
「最初はよくある話なのよ、さえない男が高根の花に恋をしました、その花は生まれも育ちも日本有数と言えるぐらい高かくて大体の男はその高さに至る前にあきらめてしまっていたわ、だけどその男は頭が悪かったのよ『彼女とつりあえるぐらいえらくなってやるって!』ホントバカみたい・・・、エベレストよりも高いところに咲く花に手を伸ばそうとしてるようなものなのに。」
由里はすこし悲しげな表情をして話を続ける。
「でもあいつは諦めなかった、少しでも近づこうとしてヒラノインダストリーを起業して頑張ったわ、そんな男にほだされて女はその男を愛し始めて結婚して子供を作った、それでめでたしめでたしで終わればよかったけど問題はその相手の女は開高グループの開高銀行頭取の一人娘で、その父親の反対から逃げるように結婚して子供を作ったことよ」
開高グループ、戦前の開高財閥から続く歴史ある企業グループで戦後の財閥解体で解体されたが、その中の一つであったの銀行業が中心となり再結集させ結束を固めグループを作った。
開高グループに取り扱わない商品は無いと言われるぐらいの大きさであり世情に疎い道子にもその巨大さは知っている。
「可愛い一人娘を取り返したい開高銀行頭取は何かと会社にプレッシャーをかけてきたの、けど娘の手前が有って露骨な事は避けていわ、だけど二人の娘が思春期を迎えたころだったかな?女は大病を患って死んじゃった、でそこからタガが外れたように苛烈な嫌がらせをかけてきてね、男も女が死んだ事を考えたくなかったのか仕事に打ち込んじゃって娘を顧み無くなって出て行った、そんな昼ドラみたいな話」
一息に喋った由里はため息をつきながら話を続ける。
「ここからが道子ちゃんが絡んでくることなんだけど、なんだかんだ言って孫娘に対しては思う事は有るみたいで開高グループからの圧力は少し隙が有るのよ、だから家出したことが知られるとなるとどうなるか予想がつかないわ、そのせいで私たちはいいけど関係のない社員を犠牲にすることだけは避けたいの、そんなことになったら彼女に顔向けできないわ」
由里はそう言って道子の目ををまっすぐ見つめる。
「嬢ちゃ・・・道子さん、俺からも頼む!」
「筒井さん、もうすでに私から何を言っても軽薄に感じてしまうでしょうがお願いします」
伊集院、香田もそれに続き頭を下げる
道子より一回り以上年上の三人からの懇願に返す言葉が無く思わず。
「わかりました、その話お受けします」
と答えるのみだった。
「キャー!!ありがとう!!」
由里はテーブルを飛び越え道子に抱き着く、伊集院と香田もホっとした顔をしている。
「これから色々大変だけどアタシたちがバックアップするから安心して!」
「まあ、契約に関してはこれから話し合っていきますが筒井さんの悪いようにはしませんので安心してください」
「日常生活のトラブル回避に関しては俺が担当するぜ」
三人はそれぞれ嬉しそうに口を開く。
「とりあえず道子ちゃんには喋り方から変えてもらわないといけないわね、あの子わざと軽薄なしゃべり方してたから、道子ちゃんとっさに言えるようにしなくちゃね、朝のあいさつなら『おはよー、弥生ねー、』って感じで」
道子は早速自分の選択を後悔した。