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早朝の来訪者

自分の投稿した一話スマホで読むと見づらいですね。

時間を見て修正します。


11/14修正しました。

日が昇り、新聞を配達する単気筒エンジンの音が遠くから道場に聞こえてくる。


広い室内で道子は淡々と両手に持った木刀をよどみなく動かしている。


その動きは武道の経験が無いものでも見えない相手が見えるような動きをしている。


空を切る音、板の間を踏みしめる音、複雑ながら何かしらリズミカルな音が続いていたがだんだんとそれが乱れていく。


無心で動こうとするも少しでも気を許すと動きが乱れてしまう。

何故なら彼女は昨日の出来事を思い返していたからだ。




「とある方の変わりにとある高校に通っていただきたいのですよ」

あの時香田と名乗る男はそう言い少し間を置き

「申し訳ありませんがこれ以上は少しばかり口外出来ない内容となりますのでこれ以上は次の機会にお願いします、私の事が信用できなければ会社のホームページから電話していただき私の名前と道子さんの名前を出していただければ私に直接連絡がいくよう伝えておきますので」


男はそう言い終わるとちゃぶ台に名刺と少し膨らんだ封筒を差し出した。


「これは何ですか?」

「私の連絡先と少しばかりの謝礼です」

何故、少し話を聞いただけで金銭を受け取る話になるいかがわしさ、そもそも働きもせず金銭を受け取るというのは祖父の教えに反していた。

「名刺はいただきますが謝礼は結構です」

「いや、しかし・・・」

動揺の色を隠せない香田に隣に座る伊集院が少し眉間にしわを寄せながら。

「香田やめろ!嬢ちゃんに失礼だろ!すまないな、こいつなりに気を利かせたつもりなんだがこういうやつで別に嬢ちゃんを軽く見た訳じゃないんだ」

今まで丁寧な物腰だった香田は急にあらぶった口調になり

「俺を失礼って言うなら彼女を『嬢ちゃん』っていうお前も失礼だろ!」

そう言われると少しばかりしまったと言う表情をした伊集院は

「あー、そうだったな、とりあえずまた来るからその時はいい返事を聞かせてもらえると助かるよ」

そう言い残しその日、二人は家を後にした。




どうして私なんだろう?先の見えない話に思考がまとまらない。

祖父が生きておりお金の話が無ければ迷うこともなかった。

しかし今はお金が必要であった。

家とこの道場は大切な思い出のある場所であり、道子にとってこの場所を手放すというのは体が引き裂かれるような思いが有り、たとえ祖父が手放して自由に生きろと言われても無くしたくはなかったからである。

まとまらない思考に、少し落ち着こうと動きを止めた時低い男の声が割り込む。



「朝早くからすまねえ、訪ねてみたら奥の方から子気味いい音が聞こえたもんでお邪魔させてもらったよ」

道場の入口には大柄で鍛えあがられた体を持つ男が立っていた、伊集院が立っていた、よく見なくても解る、昨日道子に会いに来た二人の内の伊集院である。


「いえ、日課ですのでかまいません、それにしても仕事とはいえ大変ですね、伊集院さんでしたね、こんな朝早くから何の御用でしょうか?お連れ様はいかがしました?」


「うーん、なんかやりずらいな、騒がれたくはないけどそこまで冷静に対応されると調子が狂うな、これは仕事じゃ無くて個人的な思いで来たんで一人なんだ、俺からもこの仕事を受けてもらいたいんだ金銭的な面では何にもできないが何でも言う事を聞く、こんな安い頭ならいくらでも下げる、むかつくやつがいたらいくらでもぶっ飛ばしてやるって、嬢ちゃ・・・いや、道子さんの力ならその必要は無いか、とにかく頼む!」

伊集院は短く髪を刈った頭を深々と下げた。


自分の父親が生きていれば同い年ぐらいの男性に頭を下げられると、普段あまり心を乱さない道子も少し焦ってしまう。

「頭を上げてください、私も悪い事をされてないのに年上の方から頭を下げられるとどうしていいか解りません、とりあえずいう事を聞いていただけるなら少し組手の相手をしていただけませんか?」

道子はそう言うと手に持った木刀を壁の置き場に戻した。


伊集院は一瞬キョトンとした表情をし

「剣道はやったことは無いんだけどな」

と、言いながら靴を脱ぎ道場に上がる。

道子はそんな伊集院の拳を見ながら

「いえ、無手ですので」

「ここは剣道場じゃないのか?」

「はい、おじいさまは筒井流古武術を指南していました、その中に無手も有ります、今まではおじいさまが相手をしていただいたのですが一人だと型の練習しかできないもので、それにかなりやられてますよね」

道子の祖父は代々続く古武術を習得ており、両親を亡くし引き取られた道子に幼い頃からその技術を叩き込まれていた。

祖父はもっと女の子らしい事をさせたかったが、そのころには連れ合いを無くしていたのでそういった事を教えれる訳も無く、また幼い道子も祖父の教えを嬉々として学んでいた。


「あんた、本当に高2なのか?いや、しまった『あんた』も失礼だな」

伊集院はしまったと顔をするが道子は軽く笑顔を見せ

「いや、構いません」

と言った。

「確かにかじったけど空手とかじゃなぁ、それに体が温まってないから希望に添えるとは思えないんだがそれにしてもそんな顔もできるんだな」


そう言うと伊集院は道場に上がり背広とシャツを脱ぎ捨てタンクトップ姿になり少し変わった中段のような構えをとる。


「別に私も可笑しければ笑います。それと実力差を考えるとそれ位のハンデが有って対等だと思います」

対する道子は右手を引き左手を上げ掛け受けの構えをする。

「プレッシャーかけてくるね」


張り詰めた静寂の中伊集院の右手が動く、道子はその素早い拳を回し受けをする。

「おいおい、縦拳をを受けるか」

伊集院は関した顔で口を開く。

「防御に徹してましたので」

道子はすました顔でしゃべりながら反撃を加える。



それから数刻お互いの攻防が続くが数分が立つ頃、示し合わせたようにお互い動きを止める。



「ありがとうございます」

道子は息を上がらせながら頭を下げる、対する伊集院も上気した顔で

「やれやれ、なまってるつもりは無かったけど鍛えなおさないとな」

と言いながら腕で顔の汗をぬぐう。

「久しぶりに充実した練習ができました」

祖父が亡くなり相手がいなかった道子は今日まで一人祖父に教わった型を一人黙々と行っていたので、久しぶりの刺激に少しうれしそうだった。

「そう言ってもらえると少しはお役に立てたかな?それにしても、もう少し柔らかい感じで対応して欲しいな」

伊集院はウインクしながらそう言い放つも

「すみません、おじいさまとの生活が長かったもので」

そのウインクを無かったことのようにスルーする道子に対し、伊集院は道場の板の間を踵で軽くたたきながら不満を口にする。

「あー、もう!」



お互い汗が引き始め伊集院はシャツと背広に袖を通しながら口を開く。

「とりあえず、俺の言いたいことは言った、ちょっと考えてもらえないか?」

伊集院は真剣な顔で道子見ながら口を開く、その顔は先ほどまでのおどけた様子は無く真摯な表情であった。

「それでしたらこの話もう少しお聞きしたいと思います」

そう言う道子に唖然とした表情になる伊集院。

「えっ、本当に?一回聞いたらめんどくさい事になるぜ?」

「はい、それは想定できますが香田さんに伊集院さんが若い私に頭を下げるなんてよほどの事でしょうし、いやらしい話ですがお金が必要なのも事実ですし」

破顔一笑、伊集院は道子の手を両手を取り上下に振りながら嬉しそうにしゃべり始める。

「本当にすまねえ、とりあえず香田にこのこと話してくる、一回話を聞いたからって無理やり手伝わせようとしたらあいつぶっ飛ばしてやる!」


そんな伊集院を見る道子は、この裏表のなさに悪意を感じずもう少し話を聞いても良いかと考えるようになっていた。


そうして伊集院は忙し気に靴を履き忙しそうに道場を出ようとしたが、不意に立ち止まり後ろを振り向き道子を見ながら満面の笑みで口を開く。


「そうそう、嬢ちゃんとかあんたとか悪かった!今度から『みっちゃん』って呼んでいいか?!」

「お断りします」

そう言った後の道場の空気は夏を手前にした季節とは思えない寒さになっていた。

こんなつたない話にポイントが着くなんて恐悦至極です。

不定期で書かせてもらいますが今後ともよろしくお願いいたします。



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