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17.逢魔

 表に出ると太陽が少し傾きかけ、ビルの影は伸び始めている。

 街に落とす影は一日の終焉を感じさせているが、それに反して街を歩く人々の活気は、今からが始まりと言わんばかりに人々が大きくなっている。

 友人と談笑しながら歩く学生、お互いの指を絡ませながら歩くカップル、そして両親に挟まれそれぞれの手をつないで歩く子供。

 片方の手には父親の、もう片方には母親の手が握られ、両側から手を持ち上げられブランコのように揺らされたり、夕餉の相談を語りかけられ嬉しそうにはしゃいでいる。

 そういった人たちを見るわけでも無く眺めていた。

「ちょっとさっきので疲れたみたいですね、さて夕食の買い出しが有るのでそろそろ帰りますか」

 少し伸びをして体のコリをほぐす。

 道子も女の子の端くれ、キレイな衣装で着飾って褒められるのは悪い気がしなかったが、ゴールが見つからず、相手の気分次第で終着点が決まる終わるか終わらないか解らないファッションショーは非常に疲れさせていた。

 一息つこうとカフェを探して周りを見渡す。

 路面に有るカフェはどこも、美味しそうで綺麗に飾られてインスタ映えするパンケーキ等のスイーツを売りにしている店が多い。

 道子としては洋菓子よりも和菓子が好みで、華美な甘い香りは苦手だが贅沢は言ってられない。

 だがしかし、そういったカフェに向かってみるもどこも蛇のような行列を作っており、並ぶ気力が消失している道子にとってそこに参戦するという事は死刑執行に近い。

 空いている店は喫煙者ばかりで、店内は霧が立ち込めているような状況になっており、妥協するにも限度が有った。


 いい加減、人ごみに酔ってき流れに合わせて動こうとしても流されてしまいそうだ。

 逃げる様に路地に入る。

 一本、道を替えるだけで別世界のように人通りが途絶える。

 先ほどまでは前を歩く人に邪魔され足元は見えてなかったのに、しかしこの通りに入ると足元のアスファルトが向かいの通りまで誰にも邪魔されずに見えている。

 左右に面しているビルの壁には店舗も入口は無く寂しさが強調されている。

 壁の所々には思い思いにスプレー缶で描かれた意味が有るのか無いのか解らないペイントに飾られている。

 それの自己主張が、夜になるとこれ以上に人通りが無くなることを教えてくれる。

 この瞬間だけかもしれない、今この場に人の通りが無い様に見えづ、実際、向こう通りを歩く人や通過する車が引っ切り無しに横切るのが誰にも邪魔されずに見えている。

 路地には等間隔に電柱が物を言わぬ人のように静かに立っているだけだ。

 その一本に大通りから身を隠すように電柱に持たれて立っている少女がいた。

 少し暗くて表情までは見えなかったが、その金髪は美しくたまに流れてくる風に揺らされている。

 少し近づくと、膝丈ほどのチェックのフレアスカートに白いブラウスは素人目にも解るような丁寧な作りで、うらびれた通りに浮いていた。

 この場にそぐわない子だなと思いつつ通り過ぎようとした瞬間、何かに気づいたように少女が首を持ち上げた。

 少女と目が有った、その瞬間自分の引きの悪さを感じる。

 その少女は先日、金白学院の校舎屋上で道子に平手を繰り出した少女だった。

 なぜこんなところにいる? という疑問が一番最初に上がったが、それよりも本能的に面倒に巻き込まれることを予感させた。

 ドツボに嵌まり込む事から脱出するために足早に駆けようとするも、右腕をベアトラップに挟まれたように掴まれる。

「ねえあなた、少し助けていただけないかしら」

 輝くような笑顔で話しかけてくる。

 美少女の無自覚に庇護欲を引き出す行動を本能的に出してくるところは心底卑怯だなと思ってしまう。

「お断りします」

「か弱い少女が助けを求めてるのよ、なんとも思わないの」

 少女は道子の右腕をその両腕できつく抱きしめる。

「自分の事を自己申告して表現する方の意見はロクでも無いと経験則から学んでいますから自動的に却下します」

 無視して歩き続けるも、がっちりと腕に巻き付いた少女は、両足を引きずりながらも獲物に食らいついた大蛇のように放さない。

「待ちなさいよ、かわいそうと思わないの? 人の血は流れてるの? あなたの血の色は何色なの?」

「散々な言葉ですね、そんなあなたの血の色こそ聞きたいものですね」

「もちろん赤よ!」

「そういう意味では無いですよ」 

 頭を抱えながら道子は口から大きな大きなため息をつく。

「解りました、用件を聞きましょう、何をさせたいのですか?」

「連れの人間に連絡を取りたいの、スマフォを貸して下さらない?」

「スマフォですか? 忘れましたよ、近くに公衆電話でも有れば良いのでしょうけど」

「公衆……?」

 前の学校の同級生も知らない子が多かった、そういえば今頃どうしているんだろう、守秘義務からろくに挨拶もできずに今の仕事をやることになった。

 こんな事なら家に帰った時、ちょっと友人に会っていけばよかったと取り留めも無く考えていたら手を引かれ体をゆすられる。

「ねえ、ぼおっとしてないで何とかして下さらない」

「それでしたらこの先に交番があります、警察官なら色々手を尽くしてくれると思いますよ、それでは」

 そう言って先に進もうとするも少女は両腕を放さず、道子が進むのを邪魔する。

「それはいや!あなたが私を案内しなさい、礼はしますわ」

「今すぐ私を返していただくのが一番の礼の形なんですが……」

 ほとほと今日は人に絡まれる日だ。

 しかし、このままこの子を置いていこうかと思う反面、これだけの自己中心的なところに少しばかり好奇心が沸いて来てしまっている。


「なんにしても移動した方がいいようですね、連絡手段を探さなくては、行きましょうか」

〝クーーー″ 

 下の方から虫の音が聞こえ来る。

 自分から発せられる心当たりは十分にあったが横を向くとお腹を抱えた少女と目が有った。 

「随分お腹から可愛らしい音が出てきましたね」

「な……、なんのことですの?」

 にっこり笑うが頬が羞恥で桜色になっていた。

「どこかで休憩しましょう、私は腰を下ろせる場所に行こうとしてましたので」

「ま、まあ、仕方ありませんわ、あなたがそうおっしゃるなら休んであげなくてもよろしくてよ」

 歩行者天国の方へ戻りことも考えたが、少女を連れて歩く労力を考えるとそのまま向かいの通りに出た方がマシかと思い歩を進める。

 不意に左手を握られる。

「そう言って逃げるつもりではありませんこと?」

 きゅっと小さく柔らかい手で握りしめる。

「もう諦めましたよ、それにあなた自身にちょっと興味が湧いてきましたから」 

「フフーン、私の魅力は性別を超えるって事ね」

「いえ、珍獣の括りです」

「なんですって!」

 興奮のあまり少女はブンブンと空いている手を振り回す。

 その表情はコロコロと変わり気持ちを素直に表現していて好感を持てる。

「それにしてもあなたの手ってずいぶん硬いですわね、本当に女の子かしら、志乃も少し硬いけどここまで硬くないわ」

 確かに常日頃木刀などを振るって硬くなっている道子の手とは拳ダコや武具を握り続けた事でだいぶ皮が厚かったりしているが、それは道子にとっての大事な思い出であり歴史であるのでとても愛しいものだった。

「それにしても私は『あなた』という名前ではありません、道子という親にもらった名前が有ります」

「ごめんなさい、失礼でしたわね、あたしは麗よ」

 不意に真顔になって、予想外に素直に謝罪されたことに道子は驚いた。

 先ほどの流れからもっとこうギャーギャー言われるかと思ったが素直に首を垂れるなんて思いもよらず煩いのは元々の性格なのかと思うようになってきた。

 そうやって歩いていると一軒の和菓子屋が目に入る。

 周りの近代的なビルの間にポツンと若干古びた和式建築の店舗で、道路に面している部分のガラス張りからは店内が良く見え、室内のにはガラスケースには大福や桜餅、鬼饅頭など数々の和菓子がきれいに並べられて道子を呼んでいるようだった。

 しかも奥には長椅子が置かれ、イートインスペースが有りそうなことに思わず喜びで手に力が入り、心の中でガッツポーズが出た。

「結構趣のある家です事、何かのお店かしら?」

「和菓子屋ですよ、食べたこと無いですか? おいしいですよ、あっ奥で座って食べれそうですね、ここにしましょう」

「えっ、嫌ですわこんな得体のしれない店、ってちょっとお待ちになって、手を放しなさい!」

 手を離そうとする麗の手を優しくがっちり握り有無を言わさず店内に連れていかれる彼女の脚元には2本のラインが残っていた。



「おやおや、ずいぶん可愛らし娘さんらだね、何にするかね?」

 引き戸を開くとガラスケース越しに店番の老婆ニコニコと笑いながら道子と、憮然とした表情の麗に声を掛ける。

「おいしそうですね、できればここで食べていきたいんですが可能ですか?」

「丁寧な娘さんだね、大丈夫だよ、そこの椅子に座って食べていきなさい、何にするかい?」

「それでは、んーどうしましょうか、おすすめとかありますか?」

 老婆はにこにこしながら

「ではドラ焼きとこの草餅を1個づつお願いします」

「隣の嬢ちゃんは何にするかね、外国の子だとあんまり口に合わないかもしれんけどね」

「あたしは日本人よ、何食べていいか解らないわ、同じものを頂戴」

「はいはい、560円だよ、そこで座って待っとくれ、今お茶を出すから」

 奥に促され、背もたれの無い長椅子に腰を下ろして脚を休ませると固まった筋肉に血が流れるような感じがして思ったより体が疲れているのを実感する。

「ドラ焼き? 草餅?」

 お盆にのせられた和菓子と日本茶に少女は不思議そうな目をしている。

 金髪に翡翠色の瞳が日本人と名乗り日本語を話すとは言え、その文化と縁遠い事を思わせる。

「どら焼き、食べたこと無いですか? ちょっと食べますか?そのまま齧りついて下さい」

「本来ならそんな下品な真似はしませんが今は致し方ないですわ」

 可愛らしくカプリと食いつく。

「おいし・・・」

 道子もそれを見てから草餅をかじる。

 控えめな甘さの餡子とヨモギの風味のバランスが良く上品に仕上がっている。

 飛び上がるほど美味しいという訳では無い、ただ調和のとれた味のバランスに疲労していた気持ちを落ち着かせてくれた。

 急須から出された緑茶の鼻を抜ける香りも久々でうれしくなる。

 少女もドラ焼きを平らげ同じようにお茶をすする。

 カタリとお盆に湯呑を置くと改めて少女を見る。

「そういえばさっきの支払い、麗さんの分建て替えたんですけど」

「お金は持ってないわ、連れの者と合流したら支払うわ」

 着ている服は仕立てが良く嘘を言っているようには見えないが、財布もスマフォも持ち歩かないで出かけるなんて考えづらく何か訳有りかと道子は考えていた。

「なんで、あんなところにいたのですか?」

「……言いたくない」

 そう答えてバツが悪そうに下を向き、膝の上に乗せた手が強く握られる。

「そうですか、言いたくないなら構いません」

「いいの?」

「話したくない事も有るでしょう、それでもお連れさんのいる場所だけでも教えてもらえれば助かりますが」

 沈黙が続く、静かすぎて耳鳴りがする中、壁に掛けられた時計の針の音がカチコチと聞こえてくる。

 老婆は気を使ってか何事も無い様に外を眺めている。

「……たの……」

「はい?」

「はぐれたのって言ってますの」

 恥ずかしかったのか麗は羞恥に顔を赤らめている。

「はい、よくできました」

 ちょっといたずら心で頭をヨシヨシと撫でると睨まれた。

「子ども扱いしないで、失礼ですわ」

「はいはい、解りました」

「真剣にお聞きなさい!」

「少しは元気ななったようですね、そろそろ行きましょうか」

 勢い良く立ち上がり道子に向かってくちばしを尖らせたが、言い込められたかと思たのか少しばかり悔しそうな顔をした。

「もう行くのかね」

「はい、お騒がせしました、大変おいしかったです」

「あたしは何時でもここで立ってるから、今度はババアの相手でもしておくれよ」

「その時はよろしくお願いします」

 満面の笑みでカカカッと屈託なく笑う老婆に一礼して表に出る。


 外に出ると太陽が沈みかけており空から降りてくる闇が水墨画の墨のように上からにじんで降りてくるようだった。

 通りを走る車はヘッドライトを点灯させ始め、光の線が大河の流れのようになっている。

「お連れさんと離れ離れになったにはこちらの方向ででよろしいですね」

 道子は麗がはぐれたと言う方向へ向かって歩いていく。

 帰路につく人、遊びに行く人、各々が自分が進みたい方向に動いているので、人の流れがパレットに混ぜられた絵の具のように渦を巻いて混じっている。

「この大通りを抜けた先のホテルですわ」

 永江町のメイン通りを渡る交差点のところまで来ると麗は進行方向を指さす。

 示している道路は道幅が100m程あり、片側4車線づつとっても中央部に公園が作れるスペースが有り、市民の憩いの場所になっている。

 歩行者信号が青に変わり渡り始める二人。

 その公園は反対車線の車がハッキリ見えないくらい植林されている。

 ちょうど繁華街との境目になっているので人通りが少なくなっており、中央部にはライトアップの街灯やベンチ、噴水が有り、日が出ている時ならば利用する人もいるだろうが今はうら寂しくなっている。

 その噴水のそばに黒い背広を着た二人組と金白学院の制服を着た三つ編みの少女がスマフォやタブレットPCを眺めながら顔を突き合わせている。

 横断歩道を渡りながら違和感のある取り合わせを見ていると、向こうもこちらの視線に気づいたようで振り返るが視線が交わった瞬間に目を見開いた。

「貴様! 麗お嬢様に何をしている!」

 制服を着た少女がそう叫んだ瞬間、道子に向かって駆け出してきた。

 隣に立っていた背広の男達は呆気に取られたようで微動だにしない。

 どんな事情が有るかは解らないが、道子の体を貫くような殺意は十二分に感じ取れる。

 麗とは庇うように距離を取り、相手がどうアクションを起こしてもいい様に歩幅を広く取り猫足で立つ。

 目の前に来たと思った瞬間、相手が視界から消えた。

 次の瞬間道子の左斜め上から袈裟懸けのように踵が降ってくる。

 目の前でいきなり前宙をしての回転蹴りだ。

 何とか十字受けで止め、バランスを崩したところを追撃しようと思ったが、相手はパッと離れると麗の前に転がって移動していた。

 どうやらあくまでも牽制だったようだ。

 じりじりと距離を詰める道子。

「麗お嬢様、ご無事でしたか」

 麗の前に立つ少女は振り向きもせず道子を睨み続けていた。

 顔には見覚えが有る、先日麗と校舎の屋上でもめた時に割って入った少女だ。

 その時は申し訳なさそうな顔をしていたが、今はうなりを上げる猛犬のように睨みつけてくる。

「話し合う気は無いようですね」

「志乃!やめなさい!」

「麗お嬢様、お下がりください」

 二人の声を無視して志乃と呼ばれた少女は一足飛びに道子に向かって飛び出してくる。

 そのスピードのまま鋭い横蹴りが飛んでくる。

 素早い動きに才能を感じるが、如何せん興奮しているせいか大技を狙いすぎて簡単に道子は簡単に躱したが、振り切り下ろした脚を今度は軸足にして後ろ回し蹴り、それを躱したと思えばまたその脚を軸に横蹴りと独楽のように蹴りが止まらない。

 見た事も無い動きだが、構えの状態で左右に体を大きく揺するさまはどこかリズミカルだ。

「何のつもりですか?」

「お前が麗お嬢様をさらったんだな!」

「いやいや、状況をよく考えてなさい、犯人が……」

「問答無用!!」

 前蹴りが飛んでくる、道子が体でその蹴りを受けるとその反動でバク転をし、着地の瞬間に一歩踏み込み足刀が喉元を狙う。

「そんな大技ばかりでどうにかなると思ってましたか」

 だがその脚は道子の横を抜ける。

 素早いタックルで懐に入り蹴り足の太ももを脇でキャッチされ軸足を脚で払われる。

 倒れる少女。

 何とか受け身を取るがその瞬間、志乃の腹の上に道子が馬乗りになり両足で腰に回して組み伏せ、暴れられないよう左ひじを顎にねじりこむ。

 それでも動きを止めない志乃は抜け出そうと体を激しく動かすが、がっちり決まってしまってもぞもぞするだけで抜け出せずいたずらに体力を消耗していた。

「志乃!いきなり何やってんだ!」

 少女と一緒にいた背広の男達が慌ててこちらにやって両者の間に太い腕を楔のように差し込み二人を引きはがし立たせる。 

「志乃が申し訳ない、何か手違いが有ったようだ、すまないがそいつを離してもらえないだろうか?」

 道子のちらりと志乃呼ばれる少女を見ると喰い殺さんばかりの形相でこちらを睨み続けている。

「どうやらお連れさんは見つかったようですね、それでは失礼させてもらいます」

「え……、ちょっと……」

「それではさようなら、もう、私とは(・・・)会う事は無いでしょうね」

「ごめんなさい・・・」

「いえ、私が悪かったですね、ちょっと疲れて余裕がありませんのでここで失礼させて貰います」

 志乃の周りにいる背広の男達、その志乃は麗の傍におり道子と間には人一人分の距離が有った。

 後ろに向きこの場から離れようとする道子を引き留めようと麗は手を伸ばすが、先ほどの事が気に引けた為に腕は凍ったように動かず道子が立ち去るのを只々見つめるだけだった。

 




 今日は厄日なのかと思うような一日だった。

 疲れやトラブルで余裕が無くなり事も有ろうか麗に八つ当たりしてしまった自分に腹が立っていた。

「おじいさまに何を教わったというのでしょうか……」

 お腹は空いてしまったが食事を作る気力は消失してしまった。

 一瞬、夕食はコンビニかファミレスで済まそうかとも考えたが近所のスーパーでタイムサービスの総菜と焼くだけで済む魚の切り身を買ってきたのは見えない何かに対しての抵抗だ。

「食事の準備をして、その間に洗濯を明日の朝に終わるようにセットして……」

 一人ぶつぶつと呟いて自分のマンションの前に来ると見覚えのある大柄の男がこちらに気づいて走り寄ってくる。 

「伊集院さんどうしたんですか?」

「嬢ちゃん、スマフォはどうしたんだ?」

「忘れてましたが何か用事でも?」

「できれば常に持ってもらいたいんだが兎に角訳は後だ、一刻も早く本社に来てくれないか?」

「拒否権は無いですよね?」

「今回に限って言えば皆無だ」

 買った夕食が無駄になりそうだと攫われるように車に乗せられ向かった先はヒラノインダストリー本社ビル、その会議室に足早に連れていかれると社長の平野光が憂鬱な面持ちで椅子に深々と座っていた。

 そこには無表情の香田と少し困った顔の由里もおり場の空気がただ事ではない重さを感じさせていた。

 平野は道子を認識した瞬間重々しく口を開く。



「君は何をしてくれたんだ?」


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