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12.哀歌

仕事の忙しかったのです。

 丸井町の隣町にある銀四町、オフィス街の隣と言うことで接待に使えるような高級なナイトクラブやキャバレーから疲れたサラリーマンが立ち寄る飲み屋がひしめく不夜城になっている。


 道にはふらふらと飛び回る羽虫のみたいに飛び回る酔客を食虫植物よろしくに客引きが腕を絡め引いる。

 そのそばでは男達の視線を導かせるように胸元や太ももを露にした熱帯雨林の華のように艶やかなドレスで着飾った女たちが立っている。

 そんな下世話なところが見せると思えば店の前まで高級車で乗りつけ店員に車のドアを開けさせてうやうやしく入店する人もいる。


 そういった人の欲を飲み込むビル群。

 そんなビルの店の個室に男達が集まっていた。

 ビルの中は階ごとにタイプの違う店舗が入っており、その一つ一つが一介の会社員が入れなさそうな高級感が出ている。

 個室の一つに3人組の男達が深刻な顔で詰めている。

 室内は薄暗くいが落ち着いた木目の壁に備え付けらえた棚に飾られた生花がおもてなしにコストをかけ、部屋を使う客に品位を求めていたが3人とも品の無い柄シャツに8分丈のズボン、安っぽいピアスに手間だけ掛けて軽薄さしか見せない髪型は丁寧に仕上げたスイーツに白砂糖をぶちまけるような空間を作りだしてた。

 

 注文したビールを不安感をトコロテンの様に押し出す勢いでグラスを空け、口の周りが白い髭が生えたようになっているのも気にせず天野は喋る。

「ふー、天野これからどうしよう・・・」

「バックレっか?」

「それはマジでヤバいって、お前ら知らないと思うけど龍二さん怖いん(コエーン)だよ」

 

 以前クラブで酔っぱらった外国人がイキって暴れたことが有った。

 身長が高く、軍隊上がりか格闘技をやっていたらしく肉厚な体から繰り出される攻撃は止めに入る店員を紙切れの様に吹き飛ばしていた。

 すると龍二が流ちょうな英語で何やら話しかけたと思ったら、相手は突然激高し動物の様に飛び掛かり殴りつけようとする。

 だがその拳は龍二を捕らえる事は無い、闘牛に向かうマタドールの様に振り回される拳を体をひねり躱す。

 そのままひねった先に有ったカウンターチェアーを掴み思い切り相手の顔面にたたきつける。

 一度二度三度と容赦なくたたきつけ動きが鈍った相手を押し倒しマウントをとる。 

 うつろな目で泣きながら壊れたレコードの様に『SORRY SORRY』と繰り返し謝る外国人に対して満面の笑みで。

「頭の悪い日本人だから日本語で謝ってくれないと解んないんだよね~」

 などと言いながら大きく質量のある灰皿で顔面が熟しすぎたトマトの様にグズグズになるまで殴りつけ、地上に釣り上げられた鯖バリにピクピク痙攣しだした頃。

「なんだ、見掛け倒しか・・・つまんないの、ねえこれ捨てといて」

 そう言い放つと何事も無かったようにVIPルームに戻っていった事を天野は思い出し背中に寒い物を感じていた。



「それにしても龍二さんって何者なんだろうな、こんな高級店名前を出しただけで金も払わずに使わせてくれるなんて」

「ああ、それは俺も思う、龍二さんに聞いてもはぐらかされるし、直也さんに聞くと『龍二が言わないなら俺が言うべきじゃ無い』の一点張りなんだよなぁ」

 見つからない答えに思考は出口の見えない巨大な迷路に閉じ込められたような気分になり3人同時に溜息をつく。

「とにかくこれからどうするか決めるぞ!」

「金白学院なのは解ってるからさらっちまうてのは・・・」

「3人がかりで手に負えなかったのにか?」

「じゃあ、あの時のちっこいのが友達だろうからそいつを捕まえれば」

「・・・お前ら俺らを犯罪者にしたいのか?」


 落ち着いた低い声がしたと思い、声のする方向を見るとドアのところに男が一人たたずんでいた。

「いいご身分だな、ここは気軽に使える店じゃないんだぞ」

「直也さん!どうしてここに?」

「このトンチンカンどもが、龍二の顔で利用できると言ってもお前らが気軽に使える店じゃないんだぞ」

「でも直也さん、龍二さんはここ使っていいって言ってくれたし、俺ら内密に話せる場所なんてここしか・・・」

「うるさいトン吉、いいからお前ら女たちの覚えている事全部話せ、俺が話を進めてやる」

「いや、オレ天野です」

「騒ぎしか持ち込まないお前なんざトン吉で充分だ、お前はチンペイでお前カン太な」

「チンペイって・・・」

「そんなぁ・・・」


「とりあえず金白学院の学生なんだな?名前とかわかるか?」

「俺らを投げ飛ばしたのは『平野』って呼ばれてました、もう一人は舞だとか言ってた気がします」

「平野な、とりあえずそっちが解ればいい、そいつは見れば解るか?」

「はい、結構身長が高くて赤毛のツインテールなんてそんないないから解るッス」

 それを聞くと直也はカバンから片手では収まりきらない黒い塊を取り出した。

「なんっすか?そのカメラ」

「お前らなあ、これ取り出した時点でその平野ってやつを撮って来いって解らんのか?」

「えっ!でもそれじゃあまるでストーカーみたいじゃないっすか!」

「さっきまでさらってこようとか言ってたやつのセリフじゃないだろ!四の五の言わずとっとと行け!」

「でもまだビールが・・・」

「殺されてえのか!?」

 射貫くような瞳に睨まれた3人は、大きな音にびっくりして羽ばたく渡り鳥の様にバタバタと出ていく出ていく。

 あんな感じでも生きていけるんだと思うと直也は人生の理不尽さを感じさせる沈痛な面持ちで眉間に手を当てため息をついた。



「で、これがその写真なんだ」

 タブレットに映し出された写真をパラパラと眺めながら

「龍二、いい加減にしろよ、おまえのたのみだからってなんで俺があんな知恵遅れどものしりぬぐいをしなきゃいけないいんだ」

「馬鹿は俺の予想外の行動してくれるから面白いんだよね~、あの店使っていいって言ったけどまさかあの後に使うなんて腹抱えて笑ったよ、今回も色々興味深い事になってきたしね」

「いい加減遊んでないで将来の事をだな・・・」

「この子が満足させてくれたら考えるよ」

 龍二は写真の道子を見ながら心底愉快だと言わんばかりの笑みをたたえている。

 その様は欲しかった玩具を見つけた少年のようだった。




 秋空に響き渡る終業のチャイム。

 道子と舞は二人で帰宅の途についている。

 いつも送り向かいをしている伊集院は別件の仕事で来れないとの事だが舞がついてるなら大丈夫だろうと何故かの発言を残していた。

 だったらと舞から近くに穴場のスイーツの店が有るのでお茶して帰ろうとの誘いに乗り二人で歩いているところだった。

「道子さん、最近学校の周りに変な男たちが現れるから気を付けてくださいって連絡ありましたけど知ってました?」

「そういえばホームルームで言ってましたね、たしかカメラを構えた男が校門を行く生徒を撮影していたとか?」

 声が聞こえる範囲に生徒がいないせいか舞は本名で話しかけてくる。

「怖いですね、何か有ったら助けてくださいね」

 そう言って舞はニコニコしながら左腕に自分の腕を絡めた、ビルの一件以来、舞がボディコンタクトが増えた気がする。

 ふと前を見ると一人の男性が前から歩いてくる。

 その男の短く整えられた黄金のような金髪にサファイアのような青い瞳は吸い込まれるようだった。

 身近な男性と言ったら近所の少年かむさい道場の門下生しか知らない道子は、あんな人も存在するんだと思いながらすれ違う。


「すみません、落とされましたよ」

 背後からさわやかな声を掛けられる。

 振り向くと先ほどの男性が屈託のない笑顔で一枚の紙切れを差し出しながら近づいてくる。

 そして道子にだけ聞こえる様に

「弥生ちゃん久しぶり」

 とつぶやくとその紙きれを道子に手渡す。

 

 その紙きれには電話番号とメッセージが掛かれていた。


『お前は誰だ?』


 と

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