生きている人
カーテンから漏れる光と小鳥たちの会話で目が覚める。
「もう朝?もうちょっと寝たい…。」
二度寝しようとした瞬間、ママの怒鳴り声が聞こえた。
「星来!早く起きなさい!いつになったら一人で起きれるようになるのよ!」
「わかったってば。うるさいな、もう。」
「何か言った?」
「なんにもー。」
顔を洗って、大好きな目玉焼きのせトーストを口に運ぶ。
お気に入りの服に着替えて、ばっちりメイクもしたら大学に行く。
いつも通りの朝。いつも通りの私。
でも最近飽きてきちゃった。
「なんか楽しいことないかなー。」
時刻は12時半くらい。
大学に着くと、そのまま食堂に向かう。
すると友達が私を見つけるなり抱き着いてきた。
「せーいらー!」
「光いたいってば。」
「ああ、ごめんごめん。それよりお昼食べよ!今日は星来の好きな親子丼の日だよ!」
「ほんと?食べる!」
「席とってあるから食券並んできなよ。待ってるね、あと希もいるよ。」
「りょーかい!すぐ行くねー。」
親子丼を食堂のおばさんから受け取り、後ろを振り向くと、光が漫勉の笑みでこちらに手を振っていた。
向かいの席には希がつまらなさそうに座っている。
「今日も暗いなー。」
でも、なんだかいつもと違う。
少し顔色が悪いみたいに見える。
席に着くと明らかに希の顔色が悪いのが分かる。
「希?大丈夫?顔色悪いよ。」
「ゆわれてみれば確かにー、真っ白って感じ。なんかあったの?」
無視られた…。
さっきよりも大きめの声で呼んでみる。
「希!」
「あっ、な、なに?」
「やっと返事したー、大丈夫?顔色悪いけど。帰ったほうがいいんじゃない?」
「大丈夫、ちょっと脱水気味なだけだから。」
「そっか!ちゃんと水分とらなきゃだめだよ?」
「う、うん。ありがとう。」
希は根暗だ。見ただけで分かる。
それでも大学の入学式の日、私が希に声をかけたのは、綺麗な女の子だと思ったから。
さらさらな黒髪に、整った顔つき。どこか不思議なオーラを放つ彼女を見て、すぐにでも友達になりたいって思った。
あんまり話さないし、表情が表に出ない子だけど、服の趣味はいいし、なによりすごく優しい!
私は希を尊敬してる。
でも私は知ってる。
こうゆう子は、なんかあったら相談しなよっていっても絶対にしてはくれないタイプ。
ちょっと寂しいけど、仕方ないよね。
私が親子丼を食べ終わってケータイをいじっていると、希が保冷バッグか何かをごそごそしているのが見えた。
希が取り出したのは真っ赤な液体が入ったペットボトルだった。
はじめはトマトジュースか何かだろうって思った。
トマトは貧血とかにも聞くってゆうし。脱水症状とかにも効くのかな?
でもなんだか様子が変。ただ飲み物を飲むだけなのに、何か遠慮している感じ。
光もそれに気が付いたみたいで…。
「あー、希何飲んでるの?ちょっと頂戴。」
光が勢いよく手を伸ばすと、ペットボトルが希の手から外れ…
「だめ、あっ。」
希が小さな声でそう言ったのが聞こえた。
赤色が宙に舞っている。
血独特のあの匂いがこの場を包んだ。
「希……、これって……。」
光が見たこともない顔をしている。
私はまだ何が起こったのか呑み込めずにいる。
希はというと、荷物を持つなり逃げるように食堂を出て行った。
どんどん見えなくなっていく。
周りからは悲鳴が聞こえる。血まみれの床を写メってる人もいる。
私は精いっぱいの声で希の名前を叫んだ。無駄だと知っていながら。
きっと希には聞こえていない。
私が一番悲しかったのは、希が血を飲もうとしていたことじゃない。
「待って。」
希が、友達であるはずの私達に何も話してくれなかったこと。
「行かないで。」
そうゆうタイプじゃないことは知ってたけど、なんにも相談できないくらい私達って頼りなかったのかな。
それとも、希は私達のことなんか友達だと思ってなかったのかも。
希はきっともう大学には来ない、というより来れない。
このままじゃ二度と会えない。
そんなの嫌。
追いかけなきゃ。
「光、追いかけよう!」
とっさに光の腕をつかむと、私の手は振り落とされた。」
「…てるの?」
光が何かを言っているけど、小さくて聞こえない。
「え?よく聞こえなかった、なに?」
すると光は私を突き飛ばした。
「何言ってるの?頭おかしいんじゃないの?あいつが何しようとしてたか知ってるでしょ?血を飲もうとしてたんだよ?全然喋んないし、つまんないやつとは思ってたけど、まさかこんなサイコ野郎だったとは!きっと殺したんだよ。あいつは人殺しの化け物なの!どうしてそれが分からないの?」
「分からないよ…。」
「は?」
「そんなの、聞いてみなきゃ何もわかんないじゃん。」
私は走り出していた。
「探さないと。会って話さないと。」
もう会えないなんて嫌だよ。
でもどうしよう。
わたし、希の家知らないんだった。
足を止めてその場にうずくまる。
「私、希のこと、なんにも知らない。友達なのに!」
涙が止まらなかった。
私ってほんとバカなんだもん。
「友達」
ただその言葉に安心してた。
大切なこと何も分かっていなかったんだな。
私は本格的に希を探すことにした。
まずは家に帰って準備しないといけない。お金と、飲み物と…
「あと、ママにメモも残しておかないとだ。心配するだろうし。一日では帰れないよね。絶対後で怒られる。」
でも、それでもいい!そんなことより今は希を探さないとだから。
走っていると運悪く信号につかまった。
「こんな時に。」
最悪だ、青に変わるの遅い!
そんなことを思っていると道路を挟んだ向こう側から変な視線を感じた。
ふと前を見てみると向こう側に男の人が立っている。
なんだかすごい違和感がある。
男の人なのにすごく髪が長くて、金髪で…。「綺麗。」
思わずそう呟いていた。
そしてなにより赤…。
真っ赤な二つの瞳と目が合った時、時間が止まったように感じた。
確実に私を見ている。私は目を逸らそうとしたけどできなくて。
なんだか体が乗っ取られているみたいですごく怖い。
「な、なに?」
すると次は耳元で声が聞こえる
凄く冷たい声で…
「もう、遅い…。」
確かにそう聞こえた。
怖い、すごく怖かった。
私の前を車が通りすぎたとき、その人はもういなくなっていた。
恐怖から解放された私は信号が青に変わってもすぐに走り出すことが出来なかった。
「今の、何…。」
あの人は誰?私のことを知ってるの?遅いって何が?
いろんな疑問が頭の中を飛び回る。
「希のことを知ってるの?」
話を聞きたくてももう遅い。男の人はもうどこにもいない。
「と、とりあえず帰ろう。」
訳が分からないまま私は自分の家まで走った。
よく眠っている。
どうやら泣き疲れたみたいだ。
「可哀そうに。死ねない体にされた上、居場所もなくしてしまうなんてね。でもこれで分かったでしょ?君はもう人間じゃないんだよ希。」
君はヴァンパイアなんだ。
「それより、あの人間はどうかしているよ。あんなことになってから友人頭するなんてさ。笑っちゃうよね。もう一人のほうなんか傑作だったよ。ふふふっ。」
これだから人間は好きになれない。
「希は何も心配しなくていいんだ。」