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アルメアSSD

作者: マダナイ

万能無双系主人公の設定書き出し、のようなもの

 「……はて?」

 こまった、とそれは思った。

 色々なこと、いや、およそすべての事が断片的にしか思い出せない。

 しかもそれぞれの記憶の断片は、まるで整合性が無い。

 文明の発展した都会で学生生活を送った?

 文明の停滞した辺境で巨大な害獣を駆除していた?

 機械の巨人を駆って戦場をくぐりぬけた?

 いや、もっと原始的な船で世界の果てを探していた?

 まて、海賊だったような?

 いや、海賊はライバルだったか?

 それとも支配下にいた下部組織だったか?

 すべてをあきらめた愛玩奴隷だったか?

 それを侍らせ、もてあそぶ迷宮の王だったか?

 迷宮の踏破を重ねた探索者だったか?

 絶望が汝のゴールだと言い放ったか?

 それとも我こそが最後の希望と宣誓したか?

 屈強な壮年男性だったか?

 たおやかな貴婦人だったか?

 自称平凡な男子学生だったか?

 物静かな文学少女だったか?

 無邪気な笑顔が似合う幼女だったか?

 こんなに自己の事が分からないのにプレスクールの男子だった気がしないのはなぜだろう?

 わからない。

 わからないが、暫定的にでも自分を確定しておかなければ不具合があるような気がする。

 まず自身の姿は、ストレートのハニーブロンドを腰まで伸ばしたハイティーンの女性であったのではないかと推定する。記憶の断片中でこの姿であることが一番多いように思えるからだ。

 名まえもいろいろと名乗っていたようなのだが、この姿の時は大体「アルメア」としていたはずだ。多分。きっと。

 よし。

 とりあえずそれで行こう。

 そこでアルメアは初めて周囲のことに意識を向け、全裸で草原に座り込んでいることを認識した。



 「はて?」

 あれはどこにやっただろうか?

 雑多にさまざまのものが積み上げられ、一部は倒壊して床に散乱する部屋でそれは首をひねった。

 「どうなさいました?」

 「うん?ちょっと探し物をな」

 「……こんなところに無造作に放り出せばなぬなって当然だと思いますが?主よ」

 ため息交じりに苦言を呈する天使・・にちらりと視線を走らせ、まあ言われても仕方のない有様でな、と思いつつそれは散らかった床に目を落とす。

 「もっともな意見だな。だが、我ともなれば探す手段はちゃんとあるのだ」

 「神力の無駄遣いですね」

 「まあ……そういう見解もあるだろうな」

 手厳しい突っ込みにあいまいにこたえつつ、それは探査の術を用いた。

 「む?どうしたことだ?」

 「何か異常でも?」

 「見つからぬ。この部屋にあるはずなのだが」

 神はさらにいくつかの術を展開した。

 「これは……ふむ、あきらめるか。追えなくはないが、それこそ神力の無駄遣いだな」

 「?}

 神があきらめる、という事態にどんな大ごとになったのかと天使は目で問う。

 「神器を無造作に放り込みすぎたな。力の偏ったところにできた空間のひずみが穴になっておった。そこから下界に落ちたのであろう」

 「ほうっておいてよろしいので?」

 「穴はふさいだ。だがまあ、確かにここはこのままでは別の穴ができかねんな。整理するように手配を頼む」

 「かしこまりました。早急に」

 神の指示に天使は一礼を返し踵を返す。ひとたび世界の運営が軌道に乗れば、神界はそれほど忙しくはないのだ。多少雑用が増えたからと言って特に不平不満はない。創造神直々の指示での仕事を得る栄誉の方が大きいくらいだ。

 「ところで、主よ」

 「なんだ?」

 退出しかけた天使が足を止め、神に問いかけた。

 「そもそも探し物は何だったのでしょう?」

 「地球産のシリーズ物のゲームの新作がリリースされるのでな、旧作をおさらいして伏線とか確かめたかったのだ。それでバックアップデータ詰め合わせの外付けストレージをな」

 「……確かに割とすぐにあきらめがつきそうな案件ですね」

 「だろう?他にもバックアップはとっているしな」

 納得した天使は再び踵を返し退出した。

 神は、それもまた神器であるストレージが下界に及ぼす影響をちらりと考えたが、落下の衝撃で壊れる可能性が高くまず問題になることはないだろう、と結論した。


 対角2.5インチの金属製直方体をしたそれは、高度1万mの高空に突如出現し、重力にひかれて落下した。航空を渡る渡り鳥の編隊をかすめ、雪を抱く山脈の頂で身を休める白竜の視界の隅をかすめたほかは特に何の目にも止まらず地表に落ちていく。長い落下で十分に速度とエネルギーを得ていたはずのそれは、いかなる超常の力を発揮したのか、地表に激突することなくふわり、と減速し、テーブルに手帳を放り出す程度の速度で地に落ちた。その後しばらくは何の変化もかった。

 一匹のトカゲがその上を走り抜け、一匹の蝶がしばしそのうえで羽を休めて飛び去ったころ、それは光を放ち始めた。

 球形に広がった光の直径はさいだいで3mに達し、形を変えながら反転収束を始める。

 160cmほどの人型に収束した光は、その内に現れた裸身の少女に吸い込まれるように消え、少女は草原にぺたりと座り込んだ。

 神の落し物が、「アルメア」と名乗る個として確立した瞬間だった。



 


 

 

 


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