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頭を抱えてうずくまるッ!

昨日は悪の手から弱きを助く、正義のヒーローとして主人公を活躍させた。陰ながらの行為だったため、主人公が被害者に感謝される、という絵面にはならないのだが却ってそれが感動的だろう!よし!今日の小説はPV回るぞ!と気合いを入れ直したケイ。



その日は朝から初心者ダンジョンに篭るケイたち一同。先日竜崎を追って入った標準ダンジョンの混雑ぶりを見て、初心者ダンジョンの快適さに気付いたのだった。確かに雑魚モブの経験値は少ないのだが、レアモブからのドロップが期待できる分、コンスタントなマルク収入は圧倒的に初心者ダンジョンの方が上だろう。


今日は5階のポータルから下を目指したが、なんと先客がいた。ポータルから出てすぐの場所が降り階段に続く広間なのだが、そこでゴーストと交戦中のパーティがいた。


とはいえまともな勝負になっていない。ゴーストは半透明から透明状態に明滅しつつ、上空をひらりひらりと飛び回りながら火魔法による火線が地上へと降り注ぐ。


交戦しているのは全員レベル20以上のパーティで装備もレア装備以上を着用しているようだが、それでも火魔法による一撃がかなり痛い様子だ。さすがにレベルが高いのでワンキルとまではいかないが、盾で火線を弾くほどのスキルもなさそうだ。容赦なく火で炙られている。


モンスターは人間よりもMPが高めに設定されていて、そう簡単にMP切れを起こさない。魔法を主体に戦う相手に魔法を以って対抗しないとかなり辛い、という事が眼前の戦いを見て分かる。


1人が火線をまともに浴びて行動不能になった所でリーダーと思しき男が「くそっ!」と叫んで帰還スクロールを使用して帰還していった。


階段前の定位置に戻ったゴーストだったが、ケイたちが近づいても攻撃する気配はまるでない。先ほどの戦闘を意に介さないという表情でケイの到着をじっと待っている。ケイたちにしても慣れたもので特に警戒感なく近づいていく。


「やあ、君、とっても強いんだね。」

「そうね…。負けたことはないわね…。」


目の前の恨めしい顔をしている少女が恐ろしい事を言う。


「ゴーストはこの階層にしては凶悪なレアモブだからね。時間が経って消滅した頃を見計らってここを通り抜ける方が賢いわ。さっきのパーティもなんで戦ってたのかしらね。」

「テイム…しようとしてたみたいだわ…。バカな人たちね。あなたみたいな人だったら、テイムなんてされなくてもついて行きたいけれど。」


「ゴーストテイムか…。確かにあの戦いぶりを見ると強かったもんなぁ。戦力として欲しいんだろうな。」




そんな平和な会話をしつつ、6階から下を探索して行く。今日は6階でスパルトイの隠密に気づけた。


結城がスパルトイの出現をパーティに促す。隠密1のスパルトイでは注意すれば目力がなくとも視認可能だ。


さすがにレアモブを一撃で切り捨てたらチートだと思われるだろう、と思っていたら結城が重力操作を初めに奪ってしまった。


「結城さん…、凄いわね。それに槍じゃなくて素手で倒した?」


シルヴァが驚いたように言う。


「違います、まだ死んでなくて、重力操作ってスキルを盗んだんです。そうすると骨系のモンスターって体を保てなくてバラバラになっちゃうんですよ。」


結城の発言に驚く一同。ケイも驚くフリをしておく。ケイにしてみれば強靭を結城が盗んでくれたので、結城の戦力強化は素直に嬉しい。


「スパルトイも隠密を持っていますね。それで気付きにくいのか。」

「良かったね、隠密スキルが上がると生存率が上がる。常時隠密にして敵の背後を狙うアサシンスタイルとか格好いいよね。」


守の言葉に結城は素直に喜べない風であった。なぜだろうか、格好良いと思うのだが。


「レアドロップは…あっ、これは。インパクトナックルね。格闘武器なんだけれど、魔道具よ。これ前のパーティで愛用している人いたわ。」

「格闘なんて使う人がいるんだ。」


ケイの質問にシルヴァが答える。


「うん、風魔法が付与されてて、拳が当たらなくても風圧で敵を倒せるのよ。勿論当てた方が強いんだけれど、格闘武器の割に攻撃範囲が広くて、しかもこの武器装備した状態で他の武器も持てるのよ。」


確かにインパクトナックルの見た目は薄手のグローブにしか見えない。


「これなら、結城さんがいいんじゃない?格闘結構上げてるよね。槍だと近接された時に困るし、それにこのナックルならリアルで装備してても違和感ない。」

「そう…ですね。じゃあ私が買い取ります。」


と言ってミスリルスピアをインパクトナックルの上に装備する形となった。


だがこのインパクトナックル、猛烈に強かった。というよりは槍スキルは今の段階では窃盗できる敵がいないので結城は自分で割り振ったのだろう。それに対して格闘は所有している敵が多く、盗み放題なのだった。そこに格闘武器を装備した事でその攻撃力をいかんなく発揮できるようになったのだった。


8階のスケルトンアーチャーが放つ弓矢もインパクトナックルによる風圧で叩き落としてしまう。結城は回避スキルも目力も高いので、弓矢の射出音を逃さずに最適のタイミングで風の盾を発生させてくれる。


「その風圧ほんとに凄いね。敵の弓矢をほとんど無効化しちゃう。」

「そうですね、複数の弓兵がいるとどうしても足止めされちゃいますけれど、この拳があればどんどん前に出られますね。」


結城もその有用性に驚いているようだった。もう槍はバックパックにしまいこんで、ナックルだけで戦うスタイルにするようだった。隠密で影から拳を叩き込むアサシンスタイル。ちょっと思っていたのと違うが、本人が強化されたと喜んでいるので良しとしよう。




8階のスケルトンアーチャーの矢をほぼ無効化できるとなると、この階の探索は余裕だ。快適にレベリングを行いつつ探索を進め、9階への階段前に広場に、レアモブがポップしていることに気付いた。隠密スキル持ちではないので、全員がすぐに気づくことができた。


レイス: Lv: 12 再生 3 浮遊 3 杖 3 水魔法 3 風魔法 3 闇魔法 3


ゴーストの強化版だろうか。半透明でふわふわと浮く人型モンスターだ。魔法3種類を所持しているが、飛び回られると接触する術がない。結城が窃盗によるスキルスキャン結果を全員に伝える。男性モンスターなのでケイの呪いは効果がない。


「水魔法か…アイス・バレットの効果範囲が広いから厄介ね。ケイの盾でなんとかする作戦は取れないわ。」

「私の風圧で回避できるかやってみましょうか。」

「風圧でも初速の早い氷はなかなか軌道変更できないと思う。アカネのアース・プロテクションを切らさずに、ある程度被弾を覚悟しないとダメそうね。盗めるなら結城さん、盗んでみて。」

「はいっ!」


そうして一同アカネにアース・プロテクションをかけてもらい、レイスに立ち向かう。知性はある敵のようだが問答無用で襲いかかってくる。ゴーストと対峙する普通のパーティもこんな感じなのだろうか。


上空に浮かび上がったレイスが天井から大量の氷の弾丸を降り注がせる。アース・プロテクションによるダメージの軽減があっても盾で防げない氷の弾丸は一発一発がそこそこ痛い。このままレイスが飛び続けて氷の弾丸をくらい続ければ間違いなくパーティが崩壊する。


「ベル、イリヤ、魔法で攻撃して!」

「はーい。」

「わかったわ…。」


ベルとイリヤの風・火魔法がレイスの体へと向かう。風と火魔法で気流が発生して浮遊状態の維持が困難になったか?上空からではなくケイたちの前方に位置してレイスが魔力を練り始める。そこにシルヴァと守の弓矢を射かける。その後方からケイと結城がレイスに向かって突進する。


再度レイスから魔法が発動する。今度は火魔法の火線だ。


「アース・グレイヴ!」

「フレイム・ボルト!」


アカネとシルヴァのリングによる魔法がレイスの前に爆発を起こし、さらに地面の一部が盛り上がり槍の形となり、レイスに突き刺さる。だがそれより一瞬早く、レイスの手から火線がケイに向かって放たれる。


軌道は見えている。バックラーでするりと火線をいなし、さらにレイスへと接近する。


ミスリルソードで斬りかかるケイに杖でもって対抗するレイス。なかなか身体能力も高いレイスは杖でケイの斬撃をいなし続ける。とはいえケイにしても斬撃をレイスの体に当てるのはもう少し待ってから、と堪えていた。


背後から結城が次々とスキルを窃盗しているのだろう。ついにレイスは杖を両手から取り落とし、何が起こった?というような表情を浮かべる。そこをケイのミスリルソードによる斬撃が留めを刺して、レイスは消失した。


「わーい、水魔法、ゲットしました。闇魔法と火魔法もです。」


純粋に嬉しそうな結城。だがその魔法のせいで命を狙われることになる、かもしれないのに呑気な女だ。だが気持ちはわかる。


「良かったわねぇ。水魔法は効果範囲が広いから、モブに囲まれた時の緊急脱出用にいい、ってwikiに書いてあるわ。今度実験してみたいわね。それに闇魔法は現状リングが見つかっていないから、サーバーでも使える人は少ないと思う。」


リング・オブ・ダークネスとか想像してたのに、ないのか。ケイは少し驚いた。だからこれまでさんざんダークネスをケイが掛けても誰も気づかない訳だ。


「レアドロップは…と。なんだこれ、マジックサークレット?」


守が髪飾りのようなアイテムを手に取ってアイテム名を呟く。


「レアの普通の頭防具だけれど、髪飾りみたいに見えるわね。一応消費MPが少し減るから、アカネが装備したら魔法使い放題になる…と思う。」


シルヴァの意見に特に反対の者もなかったので、アカネにマジックサークレットを買い取ってもらい、ためしに土魔法のアース・グレイブを打ってみると確かに消費MPが0になっていた。


「凄いね、魔法使い放題って素敵な響きだ。」


「ほんとですね!どんどん打ちますね!」


アース・プロテクションもダメージ軽減能力が高いので大変助かっているのだが、攻撃力も追加されるとなるとアカネはダメージディーラーとしても優秀になる。




結城がレイスを倒してレベルアップした所で、解散となった。なかなか5階から10階まで踏破するのが時間的にキツい。パーティメンバー全体を危険に晒さないようにゆっくり進めすぎているかもしれない。もっと魔法の威力を信用してゴリ押ししないと探索が進まない。武器がそれほど強い武器を揃えられていないので魔法を出し惜しみすると行軍スピードが落ちてしまう。


クレアシオンに戻って部屋を取って食事にしよう、とNPCから宿の鍵を人数分受け取るケイ。それをパーティメンバーに手渡そうとクレアシオンの外に一旦出たケイが見た物は、見知らぬ4人組の男性に声を掛けられて困った顔をしているシルヴァであった。


4人組の男性はそれぞれがレベル20以上、シルヴァをスカウトしているのか?他にもメンバーがいるのに堂々としたものだ。割って入るようにケイが先頭でシルヴァに話しかけている男に詰め寄る。


「おいおい、人のパーティメンバーにちょっかい掛けないでくれる?特にシルヴァはうちのリーダーだぞ。」


ケイの乱入にシルヴァがほっとしたような表情を浮かべるが、男は自分より低レベルのケイの乱入に動じない。


「なんだよ、ニイちゃんには関係ないんだよ。それにちょっかいじゃない、ちょっと教えて欲しいだけだ。」


と言って、男はスマホの画像をシルヴァに見せている。見れば、某巨大掲示板のまとめサイトのようだ。


一番上にイリヤと、ケイに抱きつくシルヴァの写真。あの時のクレアシオンの写真か。



949 名前:名無しのテイマー:2018/03/17(土) 06:49:03


前スレのやつか。ゴーストなんて戦闘力クソ高いモブをどうやってテイムしたん。天井にしかおらんからそもそもテイム発動できん


952 名前:名無しのテイマー:2018/03/17(土) 06:51:19


魔力全振りとか?


959 名前:名無しのテイマー:2018/03/17(土) 06:56:22


イリヤとか型月かよ。シルヴァって絶対おっさんだろ


961 名前:名無しのテイマー:2018/03/17(土) 06:57:11


>>959

なんでや!イリヤたん可愛いやろ!


962 名前:名無しのテイマー:2018/03/17(土) 06:57:18


イリヤたんprpr



思わずスマホの画面とイリヤに反復して視線を送ってしまう。


「ええと…?」

「だから、俺たちはゴーストをどうやってテイムしたのか教えてもらいたいだけだ。」


とりあえずレイス戦を思い出して火と風魔法で飛行状態を解除できる、かもしれない、とアドバイスだけしておいた…。よく見ればこの男たち、先ほどゴーストと戦って壊滅していたパーティだ。そんなにゴーストテイムしたかったのか…。ケイのアドバイスに「ありがとう!」と素直に感謝を示して去って行った。


魔法か…。などと呟きながら市場へと向かって行く4人。あの足でリングでも買いにいくのだろうか…。


何を期待してテイムするのか分からないが死なないことを祈ろう。とはいえ死んでもポータルの近くなので回収は容易だ。


「何か…私おっさん扱いされてんだけど。」


シルヴァの表情と声色が険しかない。と、とりあえず部屋に入って食事、食事!



自宅に戻り、溜息をつくケイ。なんだこれは…。小説のPVは2件。朝投稿した記事を2回チェックした気がする。


比べてモン娘イチャラブスレの勢いは凄まじい。なんで…巨大掲示板に俺の名前が出たにも関わらず、なんでPV増えないんだ!本名で登録してるのに!


思わず苦悩が口から溢れてる。うおお…と頭を抱えるケイにベルが「だいじょうぶー?」などと言って頭をさすってくれる。イリヤもケイの落胆ぶりに驚いたのかもしれない。よしよし、とベルと一緒に頭をさする。


小さい少女と下半身の薄い美少女に頭をなでられる28歳。その事実もまた、ケイの心に突き刺さるのだった。

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