ノーキル 〜世界大戦を一発のみで生き残った男〜

オレは戦争経験者なんだ。

島にずっと立て籠っててよ。

暑いし、腹へったし……。

そりゃもう大変だったさ。

……ほら見ろよ。

膝のとこ、キズあるだろ。

米兵に撃たれたんだ。

今も膝に弾が残ってるよ。

取り除かなかったのかって？

これはオレの誇りだぜ。

老人ホームではこのキズを見せると人気者さ。

米兵相手に果敢に戦ったってさ。

でもオレは一人も殺してねえんだ。

てか、殺せなかったんだ。

日本兵時代のオレの話をしてあげよう。

オレは◯◯島に異動になったんだ。

激選区だって話でさ、オレはすごいびびってたよ。

しかも、先の戦いで銃をほっぽり出して逃げたもんだから、丸腰で異動だったんだ。

どうなることやらと思いながら、現地に赴任して武器を貰ったんだ。

……38式じゃなかったんだ。

村田銃ってやつ。

単発式の銃でさ、一発しか撃てねえんだ。

今でも猟銃で使われてるらしいけど、戦争であんなに使えない銃はないぞ。

何でオレだけって思ったけど、何か……愛着が沸いてさ。

持っていれば死ぬことはない、そんな予感がしたんだ。

そもそも、そんな銃が支給される時点で、日本がどれだけ疲弊してるか分かったな。

銃すらまともに支給出来なくなっていたんだな。

当時の日本は……。

だから、弾を支給されても使えないんだ。

？。なんとかなるだろって？

ばか野郎。専用の弾を使わないと撃てないんだぞ。

撃てたとしても、変な所に飛んでいくし、最悪……銃が壊れる。

壊れるだけならまだいいさ。

壊れた銃の破片が体に当たったら……。

怖くて撃てねえよ。

まず、オレの持ち弾は銃に入った一発のみ。

支給された弾は仲間にあげてたよ。

そんなこんなで、とうとう……米軍がやって来たんだ。

島中に艦砲射撃の雨さ。

何人……いや何千人……？

どんだけ死んだかわかんねえよ。

オレは必死に逃げたさ……。

助けを呼ぶ仲間の声を無視して……。

そんな日が……何日も……何週間も……何ヵ月も……。

グス……。

……すまねえ。

逃げて逃げて逃げて……気が付いたらオレは一人になっていたんだ。

夜のジャングルは怖くてよ。

泣きそうになりながら辺りを探してた。

そしたらよ。

ヘルプ……ヘルプ……って聞こえてくるんだ

声がする方に行ったらよ？

米兵が1人、ケガして動けなくなっていたんだ。

足に怪我しててさ、みた所、味方の艦砲射撃の砲弾の破片が当たってたんだ。

米軍もテキトーな仕事しやがるよな。

オレはチャンスだと思った。

仲間を殺した米兵に報いるチャンスだと。

オレは米兵に銃を向けたんだ。

米兵はひどく怯えた顔をしていたな。

でもオレは引き金を引いたのさ……。

銃を真上に向けて。

撃てなかったんだよ。

こいつにだって仲間がいるんだぜ？

仲間を失う悲しみってのはホントに辛いんだ。

そう思うと敵を撃てなかったのさ。

しばらくすると、銃声を聞き付けた仲間の米兵が来やがって、オレに銃を向けたんだ。

何か……大声で叫んでたな。

たしか"ファックス"とか"着る油ー"とか。

意味わかんなかったな。

そのうちの一人が銃を撃った。

射撃が下手なやつでな。

膝に弾が当たったんだ。

ヘルプって言ってたヤツが仲間達を止めてたんだ。

ストップ！ストップ！って。

オレは撃たれたショックで気絶して、気が付いたら捕虜として捕まっていたんだ。

怖かったけどよ。

まあ、扱いは良かったよ。

飯が食えるのが何より良かった。

後は、戦争が終結するまで、捕虜キャンプで過ごして、日本に送還された訳さ。

オレ……戦争に行っても、人殺した事ないんだぜ？

銃を無くした時だって、ただただ逃げてただけだったから。

情けない話、一発も撃ってないんだ。

オレが戦争で撃ったのはあの、村田銃の一発のみさ。

でもオレは、人殺しにならなくて良かったと思ってる。

あの村田銃がオレを救ってくれた。

人殺しが背負う十字架から。

そして、あの戦争からな。

最初に感じた予感は間違ってなかったと言うことさ。

……これ、他の人に言うなよ？

オレは米兵をちぎっては投げちぎっては投げ……って、英雄気取ってんだから。

嘘つきになっちまう。

そうそう、あの米兵さん、そういえば手紙くれたんだよ。

読んでみるかい？

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おじいさんは弾一発で戦争を乗り越えた。

かなりの強運の持ち主のようだ。

予感というのはバカに出来ないものがある。

たまには予感をあてにしてみよう。

手紙を開いてみよう。

わ……汚い日本語……どれどれ……。

「……あなたはあの時、仲間に知らせてくれたんですよね？助けを呼ぶために撃ったんですよね？私はあなたのおかげで今、生きています。ひ孫の顔を見ることも出来ました。本当にありがとう」

まさに最高の一発。

そして本当の英雄だ。