化け猫を貫け。
化け猫と決闘?です。
ユキはマサハルの声を追い掛けて走った。
謎の変態はマサハルの口を塞がないようで、マサハルは叫び続けている。
あたいに気付いていないのか、無視しているのか。
それとも、あたいをおびき寄せる罠なのか。
えーい、オケツに入らずんばなんとやらだい!
ユキは全力で追いかける。
しかし、マサハルを担いで走っている変態との距離は全然縮まらない。
謎の変態は一階に降りていった。
近づくには、この階段をショートカットするしかない。
「にんにーん!」
踊り場まで階段は使わずに飛び降りる。
去年、忍者アニメが流行ったときに一人でこっそり練習していたのが役立った。
練習してない子は真似しちゃダメだからね。
親分との約束ね。
踵を返して、踊り場からも一気に飛び降りる。
これで謎の変態は、もう目の前。
窓からの月明かりで謎の変態の姿がはっきりと見える。
全身が真っ黒の毛でびっしり、お尻からからは太い尻尾が二本垂れ下がっている。
本格的な変装だな。
本物の化け猫、というより猫人間にしか見えない。
だがしかし、あいつはただの変態さ。
変態なのだよ。
変態だよね?
ユキは笛を左手に持ち替え、ラストスパートをかけた。
刹那、猫人間の足が止まる。
「ぅわ!」
ユキは止まることができず、猫人間に突っ込んでいく。
ぶつかると思い、咄嗟に奥歯を食い縛る。
頭の中で何かが弾けたかと思うと、猫人間の動きがスローに見えた。
あたい、何かのスイッチ入っちゃった?
猫人間は臀部をこちらに突き出している。
ユキは左手に持った縦笛を猫人間の臀部の高さに構え、右手を叩きつける。
縦笛が猫人間の臀部に吸い込まれていくのがはっきり見えた。
時間が元に戻る。
叩きつけた右手に、鈍い手応えが残った。
見ると、変態の臀部に笛は数センチしか入っていないようだ。
臀部が左右から笛を挟んで、しっかりと受けとめていたのだ。
「オッホッホ」
猫人間が両手を腰に当て、高らかに笑う。
猫人間らしく、猫なで声だ。
どこか聞いたことがあるような声かも?
マサハルは廊下に転がっていた。
お尻から落ちたらしく、お尻を押さえて悶えている。
「お、お尻が割れましたー。」
マサハルが起き上がってこちらをみる。
傍から見ると変な光景だろう。
高笑いをあげる猫人間のお尻からは笛が出ており、その笛の先をあたいが握っているのだから。
「ケ、ケンタウロス?」
「寝呆けんな!」
マサハルは状況を理解したが、慌てるだけだ。
焦れば焦るほど、冷静な判断ができなくなり、思考が停止してしまうものだ。
「腰を使って右手を叩きつけるのよぉ!
右足を地面に固定して、腰を回して打つべし!」
猫人間がアドバイスをしてくる。
ユキは言われた通りに腰を回して再び縦笛を叩く。
バチンッ!
今までとは比べ物にならない威力で縦笛が叩き込まれる。
しかし、それでも猫人間の臀部は貫けない。
「足から腰へ、腰から肩へ。肩から腕へ。
力が増幅されるのを感じるのよぉ!」
バッチンッ!!
ユキの張り手はますます勢いを増す。
「右手を捻って、回転を加えるのよぉ!」
バッチンッ!!バッチンッ!!
バッチコーン!!!
ついに縦笛が猫人間の臀部に深く潜り込んだ。
「にゃっはーん!」
猫人間が前のめりで崩れた。
「や、やったのか?」
ユキとマサハルは猫人間に近づいてよく見る。
「ひ、髭マッチョ?」
びっしり生えていた毛が無くなり、そこには髭マッチョが倒れていた。
服はちゃんと着ている。どういうシステムなんだろ。
髭マッチョが、臀部に笛を刺したまま廊下に倒れている。
茫然と立っているあたいとマサハル。
やっちゃったって感じ?
新聞の一面記事が目に浮かぶ。
キレる10歳。
鈍器で教師を貫く。
出来心でつい。
あたいの人生、終わっちゃったヨ…
目の前が真っ暗になっていると、髭マッチョが、何事もなかったかのように立ち上がりウィンクしてみせた。
「ユキさん、ナイス突っ込みね。合格よぉ」
「はひ?」