放課後の学校へ。
学校に侵入するのは犯罪です。
午後9時。
町はまだ人で溢れている時間だが、少学校は静まり返っている。
校門に二つの小さな影があった。
ユキは、神社で変態にとどめをさしたマサハルの笛を持ってきた。
「マサハル、そのリュックには何が入っているのさ」
マサハルは大きなリュック地面に置いて、何やら取り出す。
十字架、木の杭、ニンニク、お札、塩、金槌、水晶等々。
古今東西の怪しい道具が次から次へと出てくる。
「胡散臭いものがこんなに!相手は変態なんだから、十字架とか意味ないでしょ」
「相手は化け猫ですよ。正確な知識と、綿密な計画を…って、置いて行かないでくださいよー」
これだから変態は困る。
どんな時でも自分優先。
得意分野になると俄然張り切って、あれこれ余計なことをしてくる。
空気が読めないんだな。
変態を捕まえるんだから、網とか胡椒とか、そんなのでいいんだよ。
多かれ少なかれ、先輩から受け継がれるものがある。
それは、縦社会の理不尽なルールだったり、かくれんぼの最強スポットだったり、窓枠を上下に揺すると鍵が開く窓だったりする。
ユキとマサハルは秘密の窓から校内に潜入した。
「目撃情報によると二階の廊下を3往復すると足音が後ろから近づいて来て、肩を叩かれるそうです。
そして、あっちの世界に連れていかれるとか」
「変態に連れていかれるあっちの世界って、やっぱ変態の世界かな」
「変態から離れてください。化け猫の隠れ里ですよ。
きっと、厳しい修業をして化け猫の子分にさせられるんですよ?」
マサハルとバカ話をしていても、正体は変態だと思っていても、やはり夜の学校は怖いわけで。
二階には理科室があり、蛇や蛙のホルマリン漬けがガラス戸の棚に並んでいる。
こんな不気味なものをわざわざ見せつけるように並べるなんて、理科の先生は悪質だな。
マサハルはあれこれ真剣に独自の分析を話してくるが、一つも耳に入らない。
あれこれ考えているうちに、3往復してしまった。
「ユキさん、いよいよ足音が聞こえてくる頃です」
「そ、そう…だな」
なんてことだ。
ここにきて、尿意だと?
「ちょっとトイレ」
一人で夜の学校のトイレなんて、バツゲームのワースト1じゃない?
バツゲームでもないのに、何であたいがこんな目に。
「すぐ戻るから、待っててね」
マサハルを残してトイレに入る。
一緒に来てもらえば良かったかな?
でも音を聞かれるのは嫌だし。
花子さん、赤いちゃんちゃんこ、動く肖像画。
今まで聞いた怖い話が、こんな時に限って次から次へと思い出される。
走馬灯って、こんな感じなのかな。
「ぷぅにょぷにょぷにょ、なまけもの~」
何年か前に映画で流行ってる歌を口ずさんでみる。
歌詞はサビしかわからないが、繰り返し歌っているとなんだか楽しい気分になれるのだった。
早々に用を済ませてトイレから出る。
「お待たひぇ。一人で怖きゃったか?」
落ち着いて言ったつもりが、声が裏返ってしまった。
「ありゃ、喉の調子…。 マサハルどこ?」
マサハルがどこにもいない。
「助けてー」
廊下を大きな影が走っているのが見えた。
マサハルの声も遠ざかっていく。
「またかよ」
どうもマサハルは変態にさらわれる運命にあるみたいね。