化け猫の噂。
ユキさんはオカルト嫌い。
マサハルはオカルト大好き。
第2話の始まりです。
昼休み。
「ユキさん、知ってます?」
マサハルが目を輝かせて話し掛けてくるときは、決まって怖い噂を仕入れてきた時だ。
だいたい、話す前から「知ってます?」というのも、おかしいわけで。
「どうせ怖いようで怖くない、ちょっと怖い話なんだろ?」
「それが、今回のはかなりきてますよ。出る場所がこの学校ですし」
「んっ…」
あたいは悲鳴を堪える。
あたいは幽霊とか、怖い話が大の苦手。
子分の前だから強がってるけど、さっきから鳥肌が立ちまくってる。
「三年生のユタカくん、先週の水曜からずっと休んでいるんですけど。休んでいる理由は、見たからなんですって」
「な、なにを?」
「ば、け、ね、こ」
マサハルがあたいの耳元で渋い声で囁く。
「んふぅっ…」
怖い、怖すぎる。
頬が強張って、血の気が引いていくのが分かる。
「ば、化け猫ぉ? そんなの、いるわけねーにゃん?」
恐がっているのをごまかそうと、手でネコミミを作っておどけてみせる。
教室の隅に固まってる3人組がこっち見てる。
なんか「猫耳萌え」とか聞こえるよ。
変態予備軍め。
午後の授業のチャイムが鳴り、髭マッチョが入ってきた。
「はぁーい、席についてぇ。楽しい授業を始めるわよぉ」
放課後、マサハルの家に行く。
あたいの家では、おやつと言ったら煎餅と緑茶だけど、マサハルの家ではポテチとコーラなの。
だから行くわけではないよ。ないからね。
子分の家庭訪問は親分には必要なことじゃない?
マサハルが、テレビ番組を録画したのを再生させる。
去年の夏に放送された心霊特番だ。
あたいの家でも両親がテレビで見てたけど、あたいは部屋で「サタン伝説」を読んでた。
すごく残虐な性格だけど、素朴な顔のために、色々と誤解されながらも懸命に生きている高校生のハートフルコメディ漫画だ。
それはさておき、健全な男子だったら、布団の下には親に隠れて見るようなのが有るはずなのに、マサハルの場合はお気に入りだという怖いやつだ。
もしかして、マサハルも特殊なタイプの変態なのかな?
ニュータイプってやつ?
「ユキさん、ここのシーン見てくださいよ」
テレビには、丑の刻詣りの再現映像が映されている。
もう、これだけで怖い。 この人何してるのさ?
幽霊とかおばけじゃなく、人間だと言うのに。
白い着物で、頭にはロウソクを括り付け、金槌でワラ人形に五寸釘を打ち付けている。
「この後ですよ」
草むらで音がして振り向くと、そこには尻尾が二本有る大きな猫がいた。
輪郭がぼやけててよく見てないけど、口は耳まで割け、目は不気味に光っているのがわかる。
あたいはテレビを見るフリをして、視点をずらすんだけど、ぼんやりと怖い姿が見えてしまう。
「こんなのが学校に出るんですよ。 素敵じゃないですか!」
どのあたりが素敵だ?
マサハルは、日本語の使い方を間違えてると思うんだ。
しかし困った。
こんな奴が学校に出るなんて、怖くて昼寝、ではなく勉学に身が入らない。
化け猫なんているわけないよ。
だって、本当にいるなら、とっくに捕まっていて、動物園とかに入れられているはずだもんね。
化け猫なんて、嘘さ。
化け猫なんて、無いさ。
どこかの変態が、悪戯してるだけさ。
「よし、確かめに行こう。変態退治だ!」
「化け猫ですってば」