神社の決闘。
ついに変態の登場です。
ユキさんの必殺技も登場しますよ。
背中越しに聞く声は、妙に早口でザラザラしていた。
ユキは振り向きざまに折り畳み傘をカバンから引き抜くと、その反動で傘の骨を伸ばして構える。
目の前には半ズボンの少年探偵が活躍するアニメがプリントされたシャツを着た男が立っていた。
スキンヘッドに、樽のようなお腹、ひどい猫背。
肌は白いが、マサハルのそれとは違い、不健康さを感じる。
どこか、カエルを感じさせる風体の男だった。
右手にはギザギザの刃のナイフが握られていた。
「モルモットと同じこと、してあげるね」
男はナイフを持った腕をだらりと下げたまま、ユキ達に近づいて来た。
ニヤニヤと下品な表情を浮かべ、大きな舌をだらしなく口から垂らしている。
ユキの後ろではマサハルが小動物のように震えている。
ユキは伸ばした傘を構えるのだが、先が震えてしまう。
小学四年生が、ナイフを持った大人をみて平然していられるわけがない。
ひどく喉が渇く。
あたいの子分を。マサハルを守らなくちゃ。
振り絞った勇気と使命感と、自分でもわからない感情を総動員し、気合いを入れる。
「だぁらあーーー!」
ユキは傘を振り上げ、渾身の力で男に切り掛かった。
ユキの傘は、確かに男を捉えたと思ったのだが、男の姿が揺らいだかと思うと、ユキの傘は地面を叩いていた。
簡単に避けられ、逆に蹴り飛ばされてしまう。
とっさに傘で防いだので直撃は免れたが、傘の骨が曲がってしまい、武器として使えなくなってしまった。
「ざ、残像だと?」
「女の子は、ら、乱暴するから、嫌い!」
男は地団駄を踏むように足音を立てながらユキに近づく。
男が地面を蹴るたびに、地面が爆ぜている。
なぜか男の足の筋肉が盛り上がって見える。
大きな舌に、太った体。筋肉で盛り上がっている足。
もはや、カエル男と言ってもいいだろう。
ユキは腰が抜けてしまい、逃げることができない。
ユキは男を睨みつけるが、男の体臭に思わず顔をしかめる。
「な、なんだよー!そんな顔をするな!俺を見るな!」
男が叫びながらナイフを振り上げると。
ビィーーーーー!!
大音量のブザー音が鳴り響いた。
マサハルが防犯ブザーを鳴らしたのだ。
「うるさい!うるさいも嫌いだ!」
男は、マサハルに襲い掛かった。
マサハルはとっさに防犯ブザーを遠くへ投げる。
男は防犯ブザーを追い掛けると、防犯ブザーを何度も踏みつけて壊そうとしている。
男は、ユキとマサハルに背中に見せており、注意は防犯ブザーに向いていた。
チャンス!
逃げるなら、今しかない!
マサハルを見ると、しゃがみこんで震えている。
防犯ブザーに激怒した男がよほど怖かったのだろう。
ユキ自身も足が震えっぱなしで、うまく走れるかわからない。
逃げられないなら。。。戦う?
そうだ。押してもダメなら引いてみろと誰かが言ってた。
でも、震える足で戦えるの?
マサハルが作ってくれたチャンスを無駄にするな!
震えている場合じゃないよ!
動け動け動けぇー!
こんなところで変態にやられてたまるか!
マサハルと帰るんだ!
ユキは震えるマサハルの頭を無造作に撫でて、耳元で囁く。
「給食でプリンが出たら、あたいに寄こしなよ。」
あまりに場違いな言葉に、マサハルがキョトンとする。
「少年よ。君はパイルバンカーを知っているか?」
ユキはニヤリと笑う。
いつしかユキの震えは止まり、足に力が戻っていた。
ユキは、落ちていたマサハルのカバンから縦笛を抜き取ると、男に向かって駆け出す。
男は、防犯ブザーを踏みつけるのに夢中で気が付いていない。
ユキは走りながら右手を大きく後ろに引く。
縦笛は左手に持ち、逆手で構える。
男の真後ろにたどり着くと、張り手の要領で右手を突き出し、左手に持った縦笛に叩きつける。
思いっきり体重を乗せた張り手により、縦笛は左手の中を滑り、男の臀部へと深く突き刺さった。
「喰らいやがれ!この変態がぁーーー!!」
「ゲロゲーロ!」
男はカエルの鳴き声のような悲鳴をあげ、地面に突っ伏して動かなくなった。
ユキは緊張の糸が切れたように一気に力が抜け、座り込んでしまった。
男を倒した後、あたいは再び腰が抜けて立てなくなってしまった。
マサハルが鳴らしたブザーの音を聞き付けた大人が来なければ、再びあの男に襲われていたかもしれない。
あたいは親分として、子分を守れるくらい強くならなくちゃ。
翌日。
「ユキさん!おはようございます!」
マサハルが、一緒に登校するべく、子犬のように追い掛けてくる。
「これ、ありがとね。ちゃんと洗っといたから」
マサハルに、男の奥まで突き刺さった縦笛を差し出す。
「えー。 汚いですよ」
「遠慮しなくていいからさ」
逃げていくマサハル。
追い掛けるユキのカバンには防犯ブザーが揺れていた。
神社のカエル編 終わり
神社編終わりです。