ユキとマサハル。
ユキさんとマサハルの冒険の開幕です。
髭マッチョは
「一人だけで登下校するのは危険よぉ。」
と言うけれど、あたいに言わせると、
「あたいは一人で自分の身を守れる。
守ってほしかったら、私に付いてこい!」
なのだ。
あたいは、青春ど真ん中の小学4年生の女の子。
名前はユキ。
でもね、女だと思って油断すると火傷するよ。
女の武器は色気だけじゃないんだから。
髭マッチョは、プロレスラーみたいな風体の先生。
口髭がチャームポイント。
でも、口を開くとオネェ言葉なの。
この頃、子供を狙った事件が増えてる。
変態が増えたのかな。
学校の試験に、友達関係だけでも大変だというのに。
苦労が絶えない世の中だ。
学校で防犯ブザーを配るなんて、世も末だよね。
家から学校までは約2キロ。
途中にはお店や人家もあるけけど、家の近くはかなり寂しい。
「ユキさん、先生にもらった防犯ブザーはカバンに付けないとダメですよ」
駆け寄ってくる男の子はマサハル。
帰る方向が一緒なの。
「待ってくださいよぉ。
先生が友達と一緒に帰るようにって言ってましたよ?」
マサハルは声は渋くて良いのだけど、親とか先生の言うことは絶対だと思っている幼馴染の男の子。
眼鏡に短パン、体は細くて、あたいより少し背が小さい。
まだ七月だけど、日焼けもしないで真っ白だ。
並んでると、どっちが女の子か分からないんだって。
失礼な話だよ。
「いくら防犯ブザーを持ってたってね、聞こえなくちゃ意味ないの。
こんなとこで鳴らしても、まわりには家もないし、誰もいないじゃない」
「でも、先生が。。。」
「デモもテロもないよ!防犯ブザーなんて、こうだ!」
ユキは、折り畳み傘を勢いよく振り下ろして伸ばすと、ポケットから防犯ブザー取り出し、遠くへ打ち上げた。
マサハルが何か叫んでいるが無視だ。
「あたいは、自分の身は自分で守れるの。
ついでに、マサハルも守ってあげるから」
マサハルはあたいの子分。
子分を守ってやるのが親分の仕事でしょ?
あたいは意気揚揚と、肩で風を切って歩く。
道路際の木は、道を譲る子分達。
あたいは胸を張って歩くの。
いちいち子分達を見て歩きはしないけど、もし怪我とかしてたらすぐに気が付いて、優しい言葉をかけてあげるんだ。
「だから、あたいから離れるんじゃないよ!」
ユキはクルリと振り返るが、つい先ほどまで後ろにいたはずのマサハルが、忽然と姿を消していたのだ。
「あれ?マサハル…どこ?」
辺りを見回すと、30メートルほど戻った場所に何かが落ちているのを見つけた。
駆け寄って見ると、神社への鳥居の前に、靴が片方だけ落ちていたのだった。
遠くでカエルの声が不気味に響いていた。